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珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第5章 十七歳の目に映る景色
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五人の侍女が集まる時


 あの夏から三年間。

 長姫制度(おさひめせいど)の撤廃に向けて、色歌(いろか)は一人で努力を続けて来た。


 しかし、一人の力には限界があり、未だに成果をあげる事が出来ていない。

 これ以上、足踏み状態を続けない為にも、信頼出来る人達を頼ってみることにした。

 珠景姫(みかげひめ)の部屋に四人の侍女を呼び、今後についての話し合いを始める。


「こうして侍女が集まるのは、あの日以来ですね」

 色歌(いろか)は侍女達の顔を見て、感慨深そうに告げる。


 この三年間で、双子姉妹は大きく成長した。

 美しいが似合う小春(こはる)と、可愛いが似合う小鈴(こすず)

 個性が育まれて来た二人は、それぞれ違う系統の魅力的な女の子になっていた。

 お揃いの髪飾りと、髪型だけはあの頃と変わっていない。


 風瑚(ふうこ)舞風(まいかぜ)は大きく変わっていないが、大人の色気が増して綺麗になった。

 いつまでも四人の顔を眺めている訳にもいかず、色歌(いろか)は本題を切り出す。


長姫制度(おさひめせいど)は、私達で終わりにしませんか?」


 言葉の続きを待つ侍女達に、色歌(いろか)は素直な思いをぶつける。


「私は、姉さんが夢見た世界を作りたいです。長姫制度(おさひめせいど)を撤廃して、立場や性別で苦しむ時代を終わらせたい。誰もが夢を追える環境と、多様性が認められる社会の実現を目指したいんです。それが……残された私に出来る唯一の恩返しですから」


 切なげに微笑む色歌(いろか)と、真剣な表情で話を聞く四人の侍女。

 ここに居る全員が珠景姫(みかげひめ)の事を思い、前に進もうとしていた。

 色歌(いろか)の本音を聞いた侍女達も、自分の意見を声に出す。


「応援するし、協力もする。何でも言って」

「私も色ちゃんの考えに賛成! 一緒に頑張ろっ」

「姫様が夢見た世界を、私も見てみたいです」

「私も姫様に恩返ししたいです!」

 風瑚(ふうこ)舞風(まいかぜ)小春(こはる)小鈴(こすず)

 四人の声に嘘は含まれていなかった。


 大切な話の続きを、色歌(いろか)は声に出していく。


「千年以上続く文化を終わらせる為には、島に根付く考えを変える必要があります。島の人々が長姫制度(おさひめせいど)に疑問を持って、変えていこうと動き出さなければなりません。私達が訴えかけた所で、若者の戯言だと馬鹿にされるだけですから」


 男尊女卑の風潮の中では、女性の意見は通りにくい。

 侍女という立場も影響力が無く、大人達は相手にしてくれないだろう。


「『長姫(おさひめ)の自害』という前代未聞の大事件によって、多くの島民は御三家に対して不信感を抱いたはずです。十七歳での長姫(おさひめ)昇格を強要した挙句、精神的に追い込み自害させた訳ですからね。既存の文化に対する懐疑心も、少なからず生まれたと思います」


 でも。と色歌(いろか)は続ける。


「……何も起こりませんでした。長姫制度(おさひめせいど)に対する問題意識が広がれば、文化の転換期は自ずとやってくると思っていたんですけど。訪れたのは、空白の三年間でした」


 珠景姫(みかげひめ)が生んだ命の価値は、時間が経つにつれて下がっていく。

 長姫制度(おさひめせいど)を終わらせる事が出来なければ、珠景姫(みかげひめ)の死は無駄になってしまうのだ。


 その責任を色歌(いろか)は一人で背負って来た。

 残酷な運命に抗いながら、迷い続けた日々。

 苦しんだ記憶と共に、涙が込み上げてきた。


長姫制度(おさひめせいど)を終わらせるきっかけを、姉さんが作ってくれたのに……私は何も出来ていない……何も変えられていないんです。三年の時間を、無駄にしてしまった……」


 頬を涙が伝っていく。

 珠景姫(みかげひめ)と同じ年齢になっても、色歌(いろか)は泣き虫のままだ。


「何の為に、私達を集めたの?」

「それは……」

 風瑚(ふうこ)の問いに、色歌(いろか)は言葉を詰まらせる。

 何か答えようと視線を上げた時、笑みを浮かべる風瑚(ふうこ)と目が合った。


「今日から巻き返す為でしょ」 

 心を覆い尽くしていた黒雲が吹き飛び、弱った土壌に光が差す。

 梅雨明けの青空は清々しくて、不思議と気分が軽くなった。

 巡る季節に取り残された心も、ようやく夏を迎えられる。

 ここからが本番だと、誰かが声を上げた。

 だから、色歌(いろか)も負けじと声を張る。

「はい!」


「良い顔になった」

 安堵したように呟いた後、風瑚(ふうこ)はゆっくりと立ち上がった。

「帰るよ、舞風(まいかぜ)

「ちょっと、まだ何も決まってないよ?」

「このまま話していても、無駄な時間を過ごすだけ。意味が無い」

「……風ちゃん」


「お父様に掛け合ってみる。御三家の当主の協力無くして、長姫制度(おさひめせいど)の撤廃はありえないでしょ。こっちは任せて」


 色歌(いろか)の目を見て告げた後、風瑚(ふうこ)は部屋を出て行った。

 それから、数秒後。今度は 小鈴(こすず)が立ち上がった。

「私も、父様と話して来ます!」

 風瑚(ふうこ)の背中を追うように、小鈴(こすず)も部屋を後にした。


 残された舞風(まいかぜ)小春(こはる)は、困ったように微笑む。

「私達はどうしよっか?」

「そうですね……私は色歌(いろか)さんのお手伝いを頑張ります」


「じゃあ、私は宮殿関係者を中心に意見交流をしながら、みんなの手助けをしていこうかな。雑務から大仕事まで引き受ける何でも屋さん!」


 自分の役割を決めた小春(こはる)舞風(まいかぜ)は、色歌(いろか)に目を向ける。

「色ちゃんはどうする?」


「まずは、島に住む人々の考えを聞いてまわろうと思います。一度話しておく事で、少しは信頼を得る事が出来ますし、姉さんの事を思い出すきっかけにもなりますからね」


 これまで、御三家と島民が意見交流を行う機会は無かった。


 長姫制度(おさひめせいど)に縛られたこの島で生きる以上、長姫(おさひめ)や御三家によって決められた事には従うしかない。それが島民の定めだ。


 過去には島民による抗議活動もあったようだが、近年では一度も起きていない。

 きっと、人々に愛された咲月姫(さつきひめ)の功績なのだろう。


 咲月姫(さつきひめ)が亡くなってから今日までの十年間で、御三家に対する不平不満も少なからず生まれているはずだ。

 だからこそ、島民が今思う事に耳を傾ける必要がある。

「それは、いつ行くの?」


「明日には出発しようと思います。こういうのは勢い任せで始めた方が良いですし、これ以上時間を無駄に出来ないですからね」


「そっか。じゃあ、準備しないとね!」

 解散の合図を送るように、舞風(まいかぜ)が立ち上がった。

 色歌(いろか)は座ったままの小春(こはる)に目を向け、そっと声をかける。


小春(こはる)。大丈夫ですか?」

「あの、色歌(いろか)さん……」

「何でしょう」

「私も一緒に行って良いですか? 荷物持ちでも良いので、同行したいです」

 いつになく真剣な声は、小春(こはる)の強い意志を伝えてくれた。


 普段見せない表情に出会い、色歌(いろか)は嬉しそうに答える。

「構いませんよ。むしろ、心強いです」

「ありがとうございます」

 深々と座礼した後、小春(こはる)も立ち上がった。

 そして、最後に色歌も立ち上がる。


「みんなで、姉さんの夢を叶えましょう」

 色歌(いろか)の言葉を最後に、残っていた三人も部屋を後にした。


 珠景姫(みかげひめ)が居ない世界で、五人の侍女は生きていく。


 いつか、同じ景色を見る為に――


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