表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第4章 幼少期と咲月姫
PR
31/64

桜が咲き誇る景色


 これは、咲月姫(さつきひめ)が生きていた時代の物語――


 記憶に残る思い出の始まりは、桜が満開の季節だった。

 淡い桜の花びらが舞う世界の中心で、色歌(いろか)は母の姿に見惚れていた。

 春色に染まる中庭を駆け回り、楽しそうに笑っている。


 長姫(おさひめ)として生きる彼女の名は、咲月姫(さつきひめ)

 十歳の珠景姫(みかげひめ)と、七歳の色歌(いろか)を娘に持つ三十代の女性で、美しいよりも可愛いが似合う顔立ちをしている。


 咲月姫(さつきひめ)は灰色がかった黒髪をなびかせながら、無邪気に逃げ回る珠景姫(みかげひめ)の事を追いかけていた。二人が通り過ぎた場所では、散った花びらがふわりと舞う。

「捕まえたっ!」

「きゃはははっ! あははっ!」

 咲月姫(さつきひめ)に捕まった珠景姫(みかげひめ)は、どこか嬉しそうな表情で笑い声を響かせる。

 母に抱きしめられている姉の姿を見て、色歌(いろか)は寂しげな笑みを浮かべた。


 長姫(おさひめ)と姫。

 大好きな二人は、特別な立場で生きている。


 母と会う為に宮殿に来ても、自由に遊ぶ事が許されるのは珠景姫(みかげひめ)だけだ。

 色歌(いろか)もいずれは珠景姫(みかげひめ)の侍女となるが、その日を迎えるまではただの妹でしかない。


 咲月姫(さつきひめ)は宮殿に住んでいるが、珠景姫(みかげひめ)色歌(いろか)はまだ神島家の屋敷に住んでいる。

 母親と一緒に暮らすことが出来ず、会いに来ても色歌(いろか)は我慢しなければならない。


 それが私の日常だった。

 誰かの為に我慢する人生は、生まれた瞬間から決まっていたのだ。

 長姫(おさひめ)の娘、姫の妹として生まれた色歌(いろか)が背負う宿命なのだろう。


 現実から目を背けるように、色歌(いろか)は目を閉じた。

 眠っていると思わせて、時間が経つのを待とう。


「おーい、色歌(いろか)!」

 遠くから名前を呼ばれた。

 明るく元気な声の持ち主は、姉の珠景姫(みかげひめ)

 色歌(いろか)の苦悩も知らずに声をかけてくる。


「起きて、色歌(いろか)

 珠景姫(みかげひめ)の声が近くに聞こえ、ゆっくりと目を開ける。

 色歌(いろか)の顔を覗き込むようにして、珠景姫(みかげひめ)は笑顔を見せた。

「一緒に遊ぼう!」

 喜びと困惑が、まだ小さい心の中で入り混じる。


「でも……私は……姫の妹だから」

「そんなの関係ないよ。だって家族じゃん」

「姉さん……」

「ほら、おいで!」

 珠景姫(みかげひめ)が差し伸べてくれた手を取り、色歌(いろか)も立ち上がる。

 手を繋いだ二人は、青空の下を駆け出した。

 色歌(いろか)を導くように走る珠景姫(みかげひめ)の背中を見つめ、笑みをこぼす。


「どこ行くの?」

「怖い所かな」

「え! やだ!」

「冗談だって」

 大きな声を出す色歌(いろか)を見て、珠景姫(みかげひめ)は楽しそうに笑う。

 桜の木を囲うように一周走った二人は、足を止めて呼吸を整える。

 珠景姫(みかげひめ)は繋いでいた手を離すと、色歌(いろか)の背中を押した。

 一歩前に出された色歌(いろか)は、驚いた表情で振り返る。


「……姉さん?」

 珠景姫(みかげひめ)は微笑んでいた。

 状況を理解出来なくて、色歌(いろか)は困ったように立ち尽くす。

 すると、突然後ろから抱きしめられた。


色歌(いろか)も捕まえた」

 母の温もりに包まれた色歌(いろか)は、どこか嬉しそうな声を漏らす。

「捕まったぁ」

 一人の娘として、母親と触れ合う時間。

 自分の立場ばかり考えて遠慮して来たが、本当は誰よりも求めていたのかもしれない。

 だからこそ、母の愛を感じられるこの一瞬が幸せだった。


「私、綺麗なお花探してくるから、色歌(いろか)は母さんと遊んでて」

 珠景姫(みかげひめ)は小さく手を振ると、どこかへ走って行った。

 それが優しさ故の行動だと分かった瞬間、心がぽっと温かくなった。


 咲月姫(さつきひめ)と二人で過ごす時間を作れるように、あえてこの場から離れてくれたのだろう。

 姫が居る場所では、母に甘える事さえ遠慮してしまうから。


 色歌(いろか)の考えを理解した上で、色歌(いろか)の為に行動してくれた。

 それが嬉しくて、姉さんの事を更に好きになる。


「良いお姉ちゃんだ」

 嬉しそうに呟いた咲月姫(さつきひめ)は、色歌(いろか)の頭を優しく撫でた。

 春の優しい風が、桜の花びらを散らして遊ぶ。 


「お菓子食べる人?」

「食べる!」

 咲月姫(さつきひめ)の提案に、色歌(いろか)は元気に手を挙げた。


 花見をしながらお菓子を食べる時間は、至福のひとときだろう。

 目を輝かせて歩く色歌(いろか)の姿を、咲月姫(さつきひめ)は微笑ましそうに眺めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ