珠景姫の手紙
多くの涙が降り続けた夜。
宮殿が消灯された後、ようやく一人になる事が出来た。
双子姉妹に寄り添ったり、宮殿関係者への説明責任を果たしている間に夜も深まってしまった。もうすぐ、八月八日が終わってしまう。
寂寥感に苛まれる色歌は、部屋の隅で蹲っていた。
珠景姫が残した手紙を見つめ、暗闇のなかで小さく息をする。
姉さんの想いに触れるのが、今は少しだけ怖かった。
それでも、最後に残してくれた言葉を知りたくて、色歌は手紙を開く。
珠景姫の文字を月明かりが照らし出す。
最愛の人に想いを馳せながら、色歌は手紙を読み始めた。
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色歌へ
お互い良く頑張ったね。
今日から別の道を歩き始めるけど、いつかまた会えると信じて今は前に進もう。
お別れまでの時間を大切に過ごせたのは、色歌だけだった。
だから、何を書こうか迷ったんだけど、悩んだ末にちゃんと決めたよ。
思い出を語りながら、夢と未来について書こうと思う。
長くなるかもしれないけど、最後まで読んでくれたら嬉しいな。
私が三歳の時に、色歌は産まれたね。
その時の記憶は流石に無いんだけど、母さんが言うには凄く喜んでいたみたい。
物心がついてからは、色歌のお世話をするのが楽しかったんだ。
長姫として宮殿に居る母さんに代わって、私が色歌を育てようと思ったの。でも、まだ私も幼かったから、失敗続きで沢山泣いた事を今も覚えてる。
私が悪戦苦闘する間に、色歌はどんどん成長しちゃってさ、みんなが驚くくらい早く喋るようになったんだよ。
会話が成立するようになってからの日々は、本当に楽しかった。
母さんの代わりから、お姉ちゃんの役割に戻ったのもこの頃だったと思う。
私達の思い出は、幼少期に詰まっているよね。
色歌が覚えているか分からないけど、あの頃は今と違って自由な毎日だったの。
春は宮殿の中庭に行って母さん達とお花見して、夏は色歌と二人で遊び回った。
秋は木の実を拾い集めて、冬は雪が降る事を期待しながら家で読書を楽しむ。
そんな春夏秋冬を過ごす日々が、何年も続いてくれたんだよ。
一番楽しかったのは、やっぱり夏かな。
山や田園風景の中を駆け回ってさ、近くの小川で水遊びもしたよね。
宮殿に行ってスイカを食べたり、夜に屋敷を抜け出して星空を見上げた日もあった。
それに、誕生日の時に用意された豪華な料理を食べるのも、あの頃は幸せに感じてた。私の誕生日なのに、色歌が沢山食べて喜んでいるから、主役が誰なのか分からなくなっていたよね。でも、色歌が幸せそうにご飯を食べる姿が好きなので、私も幸せでした。
改めて思い出すと、私の人生にも幸せな時代があったみたい。
あの頃のまま、今も生きていたかったな。
もし、私達が違う時代に生まれていたら。
姫と侍女の立場じゃ無かったら。
今更になって、そんな事を考えちゃうよ。
十七歳の私と、十四歳の色歌。
大きくなった二人で一緒に旅行が出来たら、絶対楽しかったよね。
いろんな景色を見て回って、気に入った景色は絵に残すの。
旅先でしか食べられない物には挑戦して、色歌が満足するまで美味しい物を食べ歩く。
移動で疲れた身体を癒すために、温泉に入るのも良いよね。
夜は星空を見上げてさ、お互いの夢を語り合うの。
全部が綺麗じゃなくても良くて、誰かの愚痴や悩み事を話すのも良いね。
姫と侍女では無くて、ただの姉妹として旅を楽しめるならそれで良いんだよ。
非日常的な時間を二人で満喫出来たら、本当に幸せだと思うから。
旅から帰ってきたらいつもの日常に戻っちゃうけど、また二人で旅行に行ける日を夢見て頑張るの。そうすれば、未来に希望を持てるから。
長姫制度を終わらせる為に奮闘しながら、自分達へのご褒美として時々旅に行く。
本当は、そんな未来に進みたかった。
わがままなお姉ちゃんでごめんね。
この選択をした私を許してください。
いつかまた会える日が来たら、昨日の続きを描こうね。
大好きな色歌へ。
私が夢見た世界で、どうか幸せに生きてください。
ずっと傍で見守ってるから、一人じゃないよ。
色歌なら大丈夫。だって、私の自慢の妹だから。
私の妹に生まれてくれて、ありがとう。
色歌のお姉ちゃんになれて、本当に良かった。
いつまでも、大好きな色歌の事を想い続けるよ。
神島 珠景姫
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手紙をそっと畳の上に置いた。
ずっと我慢していた感情が溢れ出す。
何かを祈るように手を握りしめて、色歌は部屋の隅で泣き崩れた。
もう珠景姫は生きていない。
どんなに会いたくても、その夢は叶わないのだ。
輝かしい美貌、聞き慣れた声、優しい香り、心地良い肌の温もり。
珠景姫を五感で感じる事はもう出来ない。
宮殿に残る生きた証と、記憶に残る思い出が、心に珠景姫を形作っていく。
今と未来に、珠景姫は存在しない。
姉さんが生きていた過去を大切に守る日々が、今日からずっと続いていくのだ。
どんなに辛くても、どんなに悲しくても。今は前を向かなければならない。
残された者に出来る恩返しは、託された夢を叶えることだ。
大好きな人の命を無駄にしないように、精一杯努力して生きていこう。
八月八日が終わりを告げた瞬間、二人の夏が終わった。
夏に残した姉妹の景色は、儚くも綺麗に輝いている。
再会を切望する心は、大切な思い出を抱きしめて長い旅へと出た。
最後の夏、珠景姫が夢見た世界へ――
《 読者の皆様へ 》
珠景色の春風鈴を読んで頂き、ありがとうございます❀.*゜
このエピソードで、2章は終わりです
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物語はまだまだ続きますが、コメントや感想は大歓迎です! 気軽に送ってくださいね(*´꒳`*)
明日は別の短編作品を投稿しますので、春風鈴の更新はありません(´・_・`)
第3章もお楽しみに!
美珠夏/misyuka の宮本でした˙ᵕ˙ )ノ゛




