29調合リスト更新
炭が高く売れそうなので自分の店を持つことも本格的に考えたほうがよさそうだ。
まだまだ資金が足りないので、商業ギルドのマーケットに並べる新商品の開発をしたいところだ。
自分の店を持った時の目玉商品になるような、俺だけの錬金アイテムが作れたらいいんだが…。
「お客さんが欲しがる錬金アイテムってあるかな…?」
気が進まないけれどドクター・ヒルカーに相談してみることにした。
錬金術で作ったものを彼に見てもらって商品化のアイディアにならないかなって考えだ。
彼は技術からお金を生み出す方法を知っているはずだ。
そうでなければレシピごとに報酬を出すなんてお金が掛かりまくることは言えないだろう。
「錬金術で作ったアイテムのリストを更新したから見てもらいたいんだけど…」
「待ちかねだぞ、アッシュ氏! ずっと私のことを避けていただろう? これまで更新したレシピは受付に渡すだけで、こちらに一声も掛けなかっただろう? ユニークスキル持ちだという話も後から知ったぞ!?」
「捕まると話長くなりそうだなって思って…」
「アッシュ氏は真顔でひどいことを言うね!? まぁ、私も話を短くする自信はないからその判断は正しかったと言えるが…。ともかくだ、今日はその長話をする覚悟をして来たと思っていいんだろうかね?」
「できれば手短に、簡潔にお願いしたいです…」
なにとぞよろしくと頭を下げつつ、これまで作ったアイテムのリストを渡した。
錬金術で作ったものはポーション各種に始まり、毒消しやニオイ消し、石鹸、香油などの生活用品がメインだ。
またそれらと蜜蝋を組み合わせた塗り薬や樹脂素材から作った接着剤と組み合わせた貼り薬などもある。
薬に偏っているのはグラージオの農場で働く人たちのために作ったものが多いからだ。
「ほほう、アッシュ氏はマナポーションも作れるのだな。素材のキノコは採取難易度が高かったと思うが、どうやって入手したのだね? そこには秘密がある? なんだね、随分ともったいぶるじゃないか…」
やっぱりマナポーションが気になるよね。
マナの豊富な新鮮な素材を現地で採ってすぐに作ると簡単に作れるんだけど、なんでこの情報が広まってないんだろう…?
素材が新鮮だと普通の体力回復のポーションも苦味がなく美味しく仕上がるのでマナポーションが特別難しいっていうわけではないはず。
これはむしろアイテムポーチとアイテムボックスの性能の差だろう。
「たぶん魔力茸の劣化が早くて、街に持ち帰る頃にはマナ回復の効能が無くなってしまうんだと思います。摘んですぐに作らないと失敗するって感じです。ヒールポーションも新鮮な薬草を使ったほうが美味しく仕上がりますから、何かしら違いがあるんですよ」
「それは興味深い見解だ。昔のポーションのほうが質が良かったという話もある。探索地に薬師を派遣して試させてみようではないか」
「薬師が水分が多い素材を扱うのは難しいと思います。調合だと自動で調整してくれますけど、薬師のスキルで再現するなら乾燥工程なしの新しいレシピを探さないといけないかもしれません」
「さすがは選ばれし者というべきか、なかなか有益な情報を持っているじゃあないか」
ヒルカーの走り書きのメモがどんどん増えていく。
「アイテムボックスはポーチみたいに水分が抜けないから、違いに気づかなかったんですよねぇ」
「そうだよ、それだ! キミはアイテムボックスまで持っているのに黙っているとは…。アッシュ氏、キミは貴重な激レアサンプルだ。国で保護すべきスキルを持っているのだぞ? もっとその貴重さを自覚したまえ」
「子供の頃に所属してた衛兵隊の上官には『うるさくおしゃべりする荷車』になぜ金を払わねばならぬって言われて、下っ端従騎士扱いのままで働かされましたよ…」
「まったくもって見る目がない! 世界の損失だ…。私がその衛兵隊にいたのならきっと金を積んででも保護したであろうなぁ」
ヒルカーは研究となると周りが見えなくなるけど、金払いはいいんだよな…。
「研究者なんて儲かるイメージがないけど、どうやって研究資金を作ってるんです? 家が金持ちとかじゃないですよね」
「私の家はそれなりの格はあるが、資金は自分で集めておるぞ。魔導具技師の支援者が多くいるのだ。彼らとはスキルの解析という目的が一致している。私が深く研究し、彼らが製品に落とし込む。悪くない関係だ」
「魔導具技師の支援者ですか…」
ラックさんみたいな人かな。
「なんだね? 金に困っているのかね?」
「錬金術の店を出したいんですけど、これだっていう主力の商品が炭しかないんですよ…」
「何を言っているんだね…?」
ヒルカーは露骨に怪訝そうな顔をする。
「アッシュ氏の作ったポーションは薬師のものとは味も効き目も違うではないか。どこの街に持ち込んでもすぐに売れる品であるぞ?」
「そうでしょうか? 新鮮な素材で作れば誰でも作れると思うんですけど…」
「他にもいい品がたくさんあるではないか。例えばこの樹脂を使った接着剤である。アッシュ氏は貼り薬として布に塗って使っているが用途を狭める必要はない。ただの接着剤として売ればよいのだ。用途は客が決めるのである」
「それも錬金術を使わなくても作れるやつですよ?」
「他人が作れるからなんだというのだね。専売登録されてるものではなかろう。ならば、良質なものを求めるのが道理ではないかね?」
「確かに…そうですね」
「固めた樹脂を靴底に使っているようだが、それも素材のまま売り出してしまえばいいのである。用途は客が決めるのである」
「なんだか全部売り物になるような気がしてきました」
「錬金術師とはそれだけのことができる魔力紋なのだ。もっと自信を持って物を作り出すがよい! そして、もっとレポートの頻度を増やしてくれてたまえ。もちろん謝礼もしっかりと払おう」
「結局それなんですね」
「魔力紋研究は私の生き甲斐である!」
ボサボサ頭でヨレヨレの服を着てるのにヒルカーが少しかっこよく見えた。
俺の生き甲斐はなんだろう。
やっぱり冒険かな。
錬金術師の店はあくまでも戦闘のための資金稼ぎのつもりだ。
少し商売にハマってしまいそうな自分もいるけども…。
「火薬の作製もできるようだが、売るためには領主の許可が必要であるから注意するのだぞ。それから塩も許可が必要であるから売り物にするのならば必ず申請するのだぞ」
「あぁ、なるほど。許可が必要なものもありますよね。新しいものを売る時には商業ギルドで聞くようにしますよ」
「うむ、それが安全であるな」
「あとひとつ、リストには載せてないヤバいモノがあるんですけど…。ちょっと意見聞かせてもらってもいいですかね」
ヤバいモノというのは、魔獣の血から作った人造魔石《血晶》のことだ。
「それは秘匿しておきたまえ」
大きな声で喋っていたヒルカーがスッと声を潜めた。
「公開したところで誰も恩恵に預かれぬ力など、嫉妬の対象となるだけであろう。もしくは驚異と取られることもあろうな」
「ですよね」
「現場でしか使えぬのなら魔獣の血から力を吸収するスキルだとでも言い張ればいくらでも誤魔化せるであろう」
やっぱり魔獣の血から魔石が作れるなんて公表するのは危ないよな。
火薬や血晶は自分で使うだけにしておこう。
「それよりも金属のリストが埋まっておらんことが残念である。アッシュ氏は《錬金術師》なのだから、金属を練り上げることが特異なはずであるが、なぜ手を出さぬのだ?」
「なんていうか…他の素材と違って全然閃きが降りてこないんですよね。俺には素質がないのかもしれない」
同じ魔力紋や同じスキルを持っていても、使い方が同じとは限らない。
得意不得意があっても仕方ないだろう。
「私は単純に経験が不足しているだけだと思うがね? 魔力紋は時として天啓を与えてくれるが、経験の浅いものに天啓が降りてくることはないのだ。経験があるからこそ類似点や違和感に気づくことができるのである」
ヒルカーの言葉にも一理あると思った。
俺がポーション調合が得意なのは昔から沢山作ってきていたからだ。
金属加工は専門家に任せるものって思い込んでいたけど、俺も生産系上位の魔力紋なんだからやれないことはないはずなんだよな…。
「とにかく試しにやってみるといい。手始めに七色の銅を目指してみたらどうだね?」
「七色ってそれぞれ違いがあるんですかね?」
「ハッタリかもしれんが三色はすでに確認されておる。銅に混ぜる物の割合で強度や加工のしやすさが変わってくるのだ。銅貨に使われているブロンズなどは純粋な銅よりもよっぽど使われている合金であろう?」
ヒルカーの希望で金属加工も積極的に学ぶように課題を出されてしまった。
でも、ちょうどいいかもしれない。
血晶爆破に耐えられる武器がないなら加工して耐久性を高める方法が取れるかもしれない。
「あぁ、そうだ。ヒルカーはラック研究所って知ってます? 魔導具技師の有名人らしくて、一緒に仕事をしないかって誘われたんですけど…」
「もちろん知っているとも。同じ大学に通っていたのである。天才の部類ではあるが、研究者というよりは現場主義の変わり者の職人という印象であるな」
「そんな人が俺なんか誘ってくれた理由がわかんなくて」
「私と同じでアッシュ氏の貴重さを見抜いたのであろう。私もアイテムボックス持ちと聞いてもっともっとアッシュ氏の能力を調べたいと思うようになったのであるぞ。収納の上限や収納できない物とできる物の差であるとか…」
「ボックスの実験はオススメできないですね…。魔力が暴走すると中身が溢れ出す可能性があるので…」
「それはそれで興味深い話であるな。さてと、そろそろメモも限界になったのである。今日はこの辺でお開きにするのである」
「それじゃまた新しいものができたら更新に来ますね」
「できればリスト更新はこまめに来てほしいのである」
ヒルカーは今日の聞き取りで使ったメモの山の整理を始めた。
俺はだらだらしゃべっていただけだが、ヒルカーは逐一メモを取り続けていて、それらを分類するための作業に入った。
「本当に熱量の高い人だな…」
俺も錬金術に対して真摯に向き合わなくちゃと思わされた。
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