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28商業ギルドの担当者



「おやっさんはどう思います? 発明工房って稼ぎになると思いますか?」


 夕食の後のお茶を楽しみながら、グラージオに新しい仕事について相談してみた。

 身近にいる商売の成功者だから意見を聞いていおきたいのだ。


「うーん、どうじゃろうのう。大きな発見にいたるまでが大変なのは冒険者と変わりないじゃろうから、他のことをやる時間が無くなるんじゃないかのう?」


「確かにじっくり取り組まないといけなさそうですね。冒険者業の合間にするのは難しいかぁ…」


 俺は冒険者を続けたい気持ちがどうしても捨てられなかった。

 魔物の氾濫と戦って死んだ両親の墓に、俺はA級冒険者になったぜって報告しに行きたい気持ちがあるからだ。

 子供のころに憧れた聖騎士物語の主人公みたいになりたいって気持ちも強い。


「冒険者との兼業と言うのなら、錬金アイテムをその工房に卸すというのはどうかのう? お前さんが探索で得た素材を錬金術で調合して工房に卸すんじゃよ。直接納品するだけでなく、自分の店を持ってしまうのもいいかもしれんのう」


「自分の店…錬金術ショップですか…。うん、いいですね」


 錬金術で成形した石炭に新鮮な素材で作った苦くないポーション、膠より使いやすい樹脂の接着剤に花の香りを抽出した香油、それからキュアポーションを元にしたポーション農薬。

 売れそうなものが色々ありそうだ。


「ポーション農薬も売っちゃっていいですか? あれはもっと広まったほうがいいと思うんですよね」


「もちろん構わん。あれはお前さんが作ったものじゃから、レシピを独占するのも公開するのもお前さんの好きにするがええ」


「実用化の調整はグラージオの農園がやってくれたことだから、勝手に売るのは不義理かなって思って…」


「それは気にせんでええ。ワシらはどれくらい薄めたら効果がよく出るかを調べただけじゃ。登録も管理もお前さんがするべき仕事じゃよ。そして利益もお前さんが受け取るべきものだ」


「どれくらい儲けられるかも自分次第ってことですね。自分の店を持つ方向で動いてみますよ」


「その意気じゃ」


 その後も錬金術の店で売れそうなものを挙げていったり、ポーションと果実酒の組み合わせでより美味しく飲めないか試したりして夜が更けていった。



□□□□



 グラージオと飲み明かした翌日、俺は錬金アイテムを高く売るための手続きをしに商業ギルドへの向かった。


「やっぱりでかいよなぁ、商業ギルドって…」


 建物自体も冒険者ギルドより大きいし、窓口の数も圧倒的に多い。

 利用人数もとても多く活気にあふれている。

 順番を待つために番号札が必要なほどだ。


「新規登録の方ですね。こちらへどうぞ。同時に新製品の登録もなさるんですね」


 待っている間に何の手続きをしに来たのかを記入していたのでスムーズに話が進んだ。


「成形した石炭、ですか。特徴は統一されたサイズと向上した燃焼温度ですね。製法の登録はこちらの認定室のご利用で、持ち込むのは材料だけで器具はなし…とありますがお忘れ物はございませんか?」


「材料とスキルだけで完結するんで大丈夫です」


「それではあちらの認定室でお待ち下さい」


 書類にいくつかチェックを入れるだけで受付作業が終わった。

 帝国の大型ギルドはどこも洗練されている気がする。

 いろんな経験が個人ではなくギルド全体で蓄積されて共有できてるんだろうな。

 だから対応が早い。


「新規の登録? 今日は書類整理を進めると言ってありましたよね? 飛び入りなんて他の認定士の手が空くまで待たせればいいじゃないですか」


「そこをなんとかお願いできませんか。他の方は皆ご予約の方の相手をしてまして、今頼れるのは課長だけなんですよ」


 案内された部屋で待っていると廊下から声が聞こえてくる。

 何か揉めているようだ。


「ハハッ、仕事を中断するほどの申請じゃないでしょう。形を変えただけの炭なんでしょう? 認定作業しても類似品として却下されるんじゃないですか? そんなもののために私の時間を使いたくはないんですよねぇ」


「燃焼温度も高くて煙の排出も少ないそうですよ?」


 気になって廊下を覗いてみると、受付さんが揉めている相手はいかにも神経質そうな男だった。

 鋭い目つきで睨むように書類をパラパラとめくりため息をついて文句を言っている。

 廊下での会話が全部筒抜けになってることには気づいてもいないようだ。


「スキル1つで成形するだけでしょう? 選り分けた炭と何が違うんです。そういうのは数字をごまかしただけの詐欺ですよ」


 俺自身も炭は炭だろとしか思ってないなかったけど、データを見てまったく別のものだってわかるようになった。

 錬金術で成形した炭なら大量の木炭を使わなくても鉄を溶かせると、それまで知らなかったんだ。

 ラックさんの取ってくれたデータを詐欺扱いするなんて許せないな。


「どうせ手土産も用意してないんでしょう。私は忙しいのです。他の認定士にやらせなさい。そのうち誰かの手が空くでしょう」


 申請書類をチラ見して文句を言っただけで嫌味な男は別の部屋へ行ってしまった。

 受付さんもため息をついている。

 あんな同僚がいると大変だな。


「申し訳ありません、アッシュ様。今は手の開いてる認定士がいなくて、もうしばらくお待ちいただけますか?」


「みんな忙しそうで大変ですね。待つのは全然平気ですよ」


 待ちながらでもアイテムボックスの中でアイテムを《調合》できるのが俺の強みでもある。

 どこにでも工房を持ち運べるようなものだ。

 でも、そんなに待つことなく一人の職員が入ってきた。


「すみません、お待たせいたしました! 私が担当させていただきます!」


 入ってきた職員は元気よく挨拶をしてくれた。

 ちょっと勢いよすぎる感じだけど悪い人じゃなさそうだ。


「なるほど、金属を溶かすための石炭なわけですね。確かにそれだけ聞くと蒸し焼きにした木炭と似てるかもしれませんね。でも、この申請書通りなら、さらに少ない量の炭で高い温度が出せて煙も少ないわけですから、作業効率がとても上がりそうです。利用される方は驚くでしょうね」


「えぇ、他の炭とはまったくの別物だから登録してこいって言われました」


「下手したら窯のほうがダメになりますからね。壊す前に気づけてよかったですね。では、その高火力石炭の製作工程を見せてください!」


 ニコニコと冗談を交えながら話していた認定士の職員もキュッと目を細めて真剣な顔つきになって魔導具を構えた。


「一応ゆっくりめにやりますけど、スキルが一瞬で終わらせちゃうので、よく見ててください。《調合》石炭成形」


 ラックさんのところで見せたときよりも、さらにゆっくりと魔力を注ぎ込んで《調合》した。

 それでもすぐに終わってしまったが…。


「砕いて異物を除去して固めるっていうのとは違うんですね」


「熱を加えて不純物を取り除いてるっぽいんですけど、俺自身にもよくわかってなくて…」


「スキルってそういうところありますよね。よし、書類の不備もなし! 技術面のチェックは完了です!」


「あっさりしてるんですね」


「スキル1つしか使わないという製法が特殊ですからね。燃焼温度の違いでも他の炭と十分差別化できてますし…。本当に大変なのは類似品のチェックや実物の性能のチェックなんですが、ラック研究所がすでに実験して性能検証してくれているので、まず間違いなく登録申請が通るでしょう!」


 ここでもラックさんの名前がでた。

 そんなにすごい人なのか。


「ただし、名前は成形石炭では通らないですね。何か特別な名前に変更しましょう。アッシュさまの炭なのでアッシュ炭などでも大丈夫ですよ。何か別の名前は思いつきますか?」


 成形石炭じゃ本当にただ成形しただけの石炭と区別つかないけど、アッシュ炭はさすがにいやだな。


「錬金術で作ったので錬金炭…というのは、どうでしょう?」


「うん、いいですね。登録名は錬金炭で申請します。すぐにでも商業利用が可能になりますよ!」


「まだ店は持ってないので手売りするしかないんですけどね」


「ギルドのマーケットはご利用はいかがでしょう?」


「マーケット?」


 どうやら商業ギルドには個人が商品を卸せる販売所があるらしく、薪や炭も売られているのですぐにでも売れるだろうとのことだった。


「炭を大量に納品しても大丈夫なんですかね。薪ほどじゃないですけど場所を結構取りますよ?」


「低消費型の圧縮倉庫(ストレージ)に入れて保管しますから心配無用ですよ。ここは商業ギルドですよ? やわなストレージをしてません!」


 アイテムポーチのようにアイテムを圧縮して保管しておく大型倉庫があるそうだ。

 俺は登録したばかりの駆け出し商人だから最小の貸し出し容量らしいのだが、それでもポーチ換算で50袋分のストレージが利用できるようだ。

 さすがすべての商売の元締め。

 桁が違う。


「まずはポーチ換算で30袋分を収めればいいかな。値段はどれくらいがいいと思います?」


「私は技術系の認定士なので販売価格には詳しくないんですが、薪のようなただの燃料として考えるなら1.2~1.5倍程度の価格になると思います。ですが、金属加工専用として売るのであれば今まで扱えなかった金属を溶かせるわけですから3~4倍の価格でも販売できるんじゃないかと思いますよ」


 元から工房用に売ることを考えていたけど、さすがに3倍の値段で売れるとは思っていなかった。


「ラックさんと認定士さんの評価を信じてお高めの値段で売ってみようと思います」


「高くても欲しがる工房は多いと思います!」


 用意された台車に成形した石炭――錬金炭を積み上げていく。

 ポーチ30袋分は結構な数だ。

 アイテムボックスがなきゃものすごい重労働だったろう。


「手ぶらでしたよね? もしかしてアイテムボックス持ち…ですか? 本物は初めて見ましたよ! 指名依頼でかなり稼げると思いますけど、情報を開示しませんか?」


「荷運びを仕事にするつもりはないんだ。あまりいい思い出がなくてね。さすがに領主様とかの依頼なら断らないけど」


「そうですか…。残念です。ポーチは1人で1つしかと持てないのが難点なんですよね。大型のものは消費が激しくてコストに見合わないですし…」


 積み替えを終えると結構な疲労感が背中や腰に蓄積した。

 この一ヶ月間で溜め込んだ石炭だ。

 少し感慨深いものがある。


「もし売り切れた場合、窓口の方で予約を受け付けることもできますが、いかがなさいますか?」


 売り切れることなんて考えてなかったな。

 そんな先のことまで考えないと商売はやっていけないのか。


「今は石炭の在庫がないので予約を受けるのは難しいですね。石炭を買ってきて加工すれば売り物は作れますけど、コストが掛かりすぎて…」


「素材の確保は難しい問題ですね。石炭の買い取りをマーケットでやるというのも一つの手段ですし、石炭を工房に持ち込んでもらって加工賃を取るという商売もできます。アッシュさまはまだ店舗をお持ちでないので、自分から出向いて加工するというのもいいでしょう」


「工房を回るのは移動の手間があるから、マーケットで買い取りするほうがいいかな」


「はい、私のおすすめもマーケットでの買い取りですね。取引が多ければ多いほどギルドに手数料が入るので、お互いに利益が得られるのでぜひご検討を!」


「いい商売ですね…。、まぁ、いつかは自分のところでやりたいけど、帳簿任せられる人もいないんでギルドのマーケットに任せますよ」


 販売と買取両方やるなんて完全に炭業者だけど、錬金アイテムを売る店の資金を貯めるためにも炭販売を頑張ってみるかな。


「このまま買取の上限額など細かい話を詰めていきましょう!」


 この押しの強い認定士さんのオススメの通りに契約を交わすことになりそうだが、俺は手間を省けるし、ギルドは手数料が入るし、お互いに得な話になるだろう。

 待ってよかった。

 いい担当者に当たったな。



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