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27調合で作っただけですが?



「そこの壁際に置くッス。そのランプの隣でやんス」


「はい、わかりました…」


「おほぉ! これがアッシュさんの例の物でやんスか!? やっぱり他とは違って神々しいでやんスねぇ…」


「わざと言ってますよね?」


 俺の声など耳に入らないようで、ラックさんは大興奮で炭を撫で回している。


「んはぁ…。これはもはや芸術品でやんス! 均一に揃えられたサイズ。容易に崩れない硬さ。そして、何よりも驚くべきは燃やした時の熱量でやんス!」


 陶酔しきった表情で俺の作った炭の良さを語ってくれている。

 褒められるのは嬉しいけど興奮しすぎでちょっと引く。

 炭についての話を聞きたいって依頼にはあったけど、追加料金なしで納品だけして帰ろうかな…。


「待つッスよ!」


 帰ろうとした気配を察知されて腕を掴まれてしまった。


「コイツはどうやって作ったッスか?どう見ても天然物とは違うでやんス。じっくりたっぷり語っていってもらうッスよ」


 ちょっとした小銭稼ぎのつもりが、ヤバい人に捕まってしまったようだ。


「どうやって大きさや成分を揃えたんスか? 砕いて固めるッスか? 熱して溶かしたんスか? どんなスキルを使ったか、製法を教えて欲しいでやんス! もちろん使用料は払うッスよ」


 ラックさんは俺が作った炭について、熱心に質問をぶつけてきた。

 困ったな。

 《調合》スキルで全部自動的にできてしまうんだよな…。


「俺が《調合》スキルで作ったものですけど…砕いたり煮込んだりはしてないと思うんですよね」


 あいまいにしか答えようがない。

 アイテムボックスの中ですべてが完結してしまうので作り方は俺もよくわからないのだ。


「やはり開発されたばかりの品でやんスね? いくら払えば製法を差し出してくれるでやんス? 使用料以外にも謝礼をたっぷり用意するでやんスよ?」


「そう言われても…。製法なんてたいしたものはなくて、大きさを決めて《調合》スキルで石炭鉱石をぎゅっと固めたら勝手にこうなるので…言葉にして教えるのは難しいですね」


 謝礼は貰いたいが教え方がわからない。


「使うのは《調合》スキルひとつだけでやんスか? まさか、複合スキルでやんスか?」


「えぇ、俺が使うスキルはひとつだけですよ。魔力紋の研究家が言うには最上級の複合スキルだって話ですけど、イマイチ最上級の実感はないんですけどね」


「それでこんな均質なものをたくさん作れるッスか?」


「材料さえあればいくらでも。もちろん量が多ければ疲れますけど、ポーチ一杯分くらいなら毎日でも作れますね」


 マナポーションを飲めば、一度に大量の石炭を加工することもできる。

 量が増えても魔力の消費が激しくなるだけで時間はたいして変わらないから…。


「まいったでやんスね。複合スキルじゃ再現が難しいでやんス。制作工程をひとつひとつ知りたかったでやんスなぁ…」


 しょんぼりと肩を落とすとゆるい作業着までズルっと落ちる。

 おっとこれは見てはいけないやつだ。


「どうにか工程を説明してもらえないでやんスかね」


 それでもラックさんは諦めずに炭の秘密を探求しようとする。

 なるべくイメージを言葉にしようとするが、感覚的にやっていることなので説明が難しい。


「まず使う石炭鉱石を選んで、それから魔力紋に力を込めて《調合》スキルでぎゅーっと熱を加えながら固めていって、レンガの大きさに合わせて成形してるって感じですかね」


「もっと、もっとこう…絞り出してほしいでやんス!」


 擦り寄られても困る。

 できないものはできないのだ。


「言葉では無理なんで、今ここでやってみましょうか」


 俺は石炭鉱石を取り出して構えた。


「おほっ、生でヤってくれるんスか!? おぉ、もう準備万端でやんスね? あたしも覚悟はできてるッス。さぁ、イっちゃってくれていいでやんスよ」


 言い方どうにかならないのかな…。

 研究者って変人が多いんだろうか。

 冒険者ギルドで出会った魔力紋の研究をしているヒルカーのことが頭にちらついた。


「えぇと、それじゃあ、発動しますよ? 《調合》石炭成形!」


 石炭鉱石を魔力で包み込み、ぎゅっと圧縮するイメージで形を作っていく。

 細かい工程はすべて魔力紋が自動でやってくれている。

 俺はただ魔力を注いでいるだけ。


「炭を作るには火が必要なんじゃないでやんスか?」


「マナの力を浸透させて内側から熱を加えているんだと思います」


「なるほどでやんス。薬師や鍛冶師のスキルにも、たしか加熱系の力があったッスねぇ」


 圧縮された石炭鉱石から不純物が滲み出してきて分離される。

 完成すると魔力紋に注いでいた力がスッと抜けていく。


「おほぉ!? ドロっとたっぷり出てるでやんスねぇ。えっ、もう終わりでやんスか? アッシュさんは早いんでやんスねぇ」


 成形し終わった炭を渡すと匂いを嗅いだり擦ったり叩いたりして品質を確かめはじめた。


「参考になりましたか?」


「ヒントはあったでやんス。タールはたっぷり出ていたのに、ガスが全然出ていなかったでやんス。きっと取り出したガスも熱に変えられていたでやんスな。私が再現しようとしたときは必要な熱が足りなかったのかもしれないでやんス」


 どういう理屈で錬金術の炭が出来ているか解明できたら、俺の調合スキルでできることの解明にも繋がりそうだなと思った。


「何をぼんやりしてるッスか? 賢者タイムでやんスか? この炭はとんでもない発明なんでやんスよ? もっとたくさん作って世に広めるべきものなんでやんス」


「そんなに言うほどですかね?」


「この炭があれば炉の温度をさらに上げられるでやんス。これまで加工の難しかった素材もきっと扱えるようになるでやんス。量産できれば、世の中が変わるほどの大発明なんでやんスよ? もしかしてこの炭のすごさがわかってないから、商業登録もしてなかった感じでやんスか?」


「商業登録?」


「ちょっとアッシュさんが心配になってきたでやんスね…」


 新しい商品や新しい技術は商業ギルドに登録する必要があるらしい。

 登録しておけば商品を真似された時にギルドが間に入って利益を守ってくれるそうだ。


「なるほど、そんなシステムがあるなんて知らなかったですね。ちなみに、作り方がわからなくても登録ってできるものなんですか?」


「問題ないでやんスよ。商業ギルドには新製品や新技術の認定士がいて、今みたいに生産工程を見せることで登録ができるでやんス。もちろん名前を付けて詳細な作り方を登録しておけば、より万全に使用権が守られるッス。詳しいことはギルド員に聞いたほうがいいでやんスね」


 ラックさんも商業ギルドの会員になっているらしく、様々な特典があって便利でお得だと教えてくれた。

 さらに、俺の作った炭の燃焼温度や排出される煙がどれくらい違うかをまとめたメモまでくれた。


「これを持っていって商業ギルドに石炭を登録したらもっと儲かるってことですか?」


「今からでも登録してきたらどうでやんス? 商業ギルドにこの炭を卸せば、アッシュさんは高く売れるし、私は安く買えて嬉しいでやんス。できれば直接取引したいでやんスけどね」


「高く売れるのは大歓迎ですよ。ご要望とあらば直接でも持ち込みしますよ」


「ありがたいでやんス。いっそのこと、うちの工房で働くっていうのはどうでやんス?」


「この工房で? 何をしてる工房かすら俺は知りませんよ?」


「えぇー、そうだったんでやんスか? うちは発明工房でやんスよ。スキルをアイテムで再現する研究をしてるッス」


「魔導具でスキルを再現してるんですか?」


 魔道具で再現が可能なスキルは結構ある。

 氷結の魔導具は高価だが飲食物を扱う人たちにはとても人気だと言う。

 職人に任せなくても自分でスキルのような効果が得られるのは便利なことだ。


「うちで作ってるのは魔導具に限らないでやんス。例えばこれ。水車式の洗濯桶。羊毛や綿花を洗って叩いて繊維を梳いて均すのに使われているッス。あとは水車式のふいご。回す叩く押す、全て水車でできるようになってるでやんス」


「なんかよくわからないですけど、すごいものなんでしょうね」


「まだ開発中のものばかりでやんスけどね。どれもこれも強度に問題があったでやんスが、それを解決しそうなのがアッシュさんの炭でやんスよ」


「それで俺に声をかけたんですか?」


「それも理由の一つでやんスが、無自覚に新しい発明品を作ってしまう複合スキルにも興味が湧いたんでやんス」


「普通に作れるものを作ってるだけなんで、別に新しくないと思うんですけど…」


「それを無自覚って言うんでやんスよ」


「なんでため息をつくんですか」


「それがわからないなら、なおさらギルドに登録してきたほうがいいでやんス…。きっとアッシュさんの助けになるでやんスよ」


 勧誘は改めてするので早いところギルド登録してこいと言われて追い出されてしまった。

 炭を成形しただけだから、発明って言うほどじゃないと思うんだけどな…。


「まぁ、高く売れるようになるみたいだし、行ってみるか」


 俺は炭納品の完了報告をするために一旦冒険者ギルドへと戻った。

 早速商業ギルドにも行ってみようと思ったが、場所を知らないので、報告のついでに受付さんに聞いてみる街のど真ん中に建物があると教えてくれた。


「中央通りの噴水前の大きな建物が商業ギルドの本館ですね。工房外にも宿場街にも支部はありますけど、登録にいくなら本館が一番いいでしょう」


「あぁ、見たことあったな。立派だから領主の館か何かだと思ってましたよ」


 ついでにラックさんの工房が何で儲けているのか気になったので受付さんに聞いてみたら、商業ギルドに発明品を登録して使用料を貰うことで財産を築いたらしいことがわかった。


「一等地に工房を建てられるほどの使用料って…何をしたらそんなお金持ちになるんですかね」


「ご存じないんですか? アイテムポーチを量産化した工房にいた方なんですよ。神造遺物(アーティファクト)を解析して魔導具化する帝国屈指の工房で、開発成功時のボーナスがとんでもない額になるんだとか…」


「アイテムポーチを作った人か…」


「商業ギルドのほうでもきっと色々な話が聞けると思いますよ。魔石を使わない発明もされているそうですから」


 工房を建てるほど儲けてるのも納得だ。

 アーティファクトの量産化なんて数十年に一個あればいいほうだからな。

 その功績が圧縮袋(アイテムポーチ)なのはアイテムボックス持ちの俺としては複雑な気分だが、思った以上にすごい人なんだな。

 工房に全然人がいないのが気になるけど、そんなすごい人なら一緒に働いてみるのも悪くないのかもしれない。



お読みいただきありがとうございます。

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