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俺が冒険者養成学校の臨時講師になってから、1ヶ月半が過ぎようとしていた。
テストケースとして入学していた生徒たちは無事に卒業して、冒険者として一人前と言われるC級冒険者の仲間入りを果たしていた。
今はB級昇格に向けて様々な依頼を受けて経験を重ねていっているところだろう。
「俺も冒険者業はC級に復帰できたけど、講師の職は継続できなかったんですよねぇ」
俺は臨時講師の契約期間を更新できず、来期の講師からは外れることになっていた。
しかし、アイテム論の教本作りには協力した。
講師としては失格だがレポートは使えるものだった、という評価なのだろう。
「教本作りは楽しかったから良いんですけどね」
学士さんや書士さんに囲まれながらレポートの内容を詳しく説明したり言語化していった。
俺の頭の中のぼんやりした計算式を文字や図に書き出してもらうのはなかなか楽しい作業だった。
学士さんや書士さんのおかげで収益見込みに対する経費の考え方が教本らしい体裁に仕上がったと思う。
「ほほう、それでこの教本がお前さんが関わった本、ということじゃな。いい出来栄えじゃな」
「講師はクビになってしまいましたけど、来期からこの教本が使われるそうですよ」
「お前さんに時間ができたおかげで農場の土いじりが捗るんじゃからワシには好都合じゃ」
グラージオは俺がクビになった愚痴を言っても軽く笑って、むしろ良かったと出迎えてくれた。
今日はグラージオの農場を手伝う日だ。
週の半分は中央市で冒険者の仕事をして、残りの半分はこちらの村に来て薬草づくりの手伝いをしていた。
「キュアポーションをベースにした農薬もポーションを使った肥料も野菜には効果が出てるんですね」
グラージオの付けている農場日誌を見てみると、野菜などの成長に良い結果が出ていることがわかった。
ポーションを素材にして作った肥料なら植物にも回復効果があるだろうと思って開発してみたら大当たり。
雑草まで元気になってしまったので、濃度の調整に苦心しているほどだ。
さらに土の中の虫まで活性化してしまったのでキュアポーションを素材にした除虫剤も作ってみた。
虫に効くタイプと菌に効くタイプを作ってみたが、どちらも好評なようで嬉しいかぎりだ。
「お前さんの作った試験薬はちょっと効果が強すぎたが、薬師や農夫たちが濃度を調整して試験してくたおかげで、野菜はよく育つようになったわい」
「そいつは良かったです」
「じゃが…未だに薬草だけが良い結果を得られておらん」
マナの薄い土地では薬草は育たないと言われている。
農薬や肥料の他にも何か別の要素が必要なのだろう。
「農薬を撒いても肥料を足しても病気になってしまうからのう」
「一番良い結果が出たのは、薬草を山の土ごと鉢植えで持ち帰ったときですよね」
「あれは惜しかったのう。病気にはならんかったが、栄養不足でダメになってしまったからのう」
「ちょっと元手はかかりますけど、マナポーションの栄養剤をもっと試してみましょうか?」
薬草を栽培するためにマナポーションを使うのは、コスト的に割に合わない。
だが、薬草の栽培方法を知るためには、やらなければいけない実験のひとつだった。
「その元手の問題じゃが…解決するかもしれんぞ?」
グラージオがニヤリと笑みを浮かべた。
これはグラージオが人を驚かせるときにする表情だ。
「どんな秘策を思いついたんですか?」
「くっくっく、サプライズじゃ。ほれほれ、貯蔵庫へ行くぞ。中にはお楽しみが待っておるからの」
不敵に微笑むグラージオに案内されて、穀物倉庫の奥にある地下の貯蔵庫へとやってきた。
そこにはワイン樽ではなく何本もの丸太が並べられていた。
「ワインセラーになんで丸太を?」
「お前さんがワイン樽に丁度いい木材があると言って、これを置いていってくれたじゃろう? 作業するのをすっかり忘れて放置しておったんじゃが、その中の何本かからキノコが生えてきてしまってのう。ほれ、よ~く表面を見てみい」
たしかに何本かの丸太からひょこひょことキノコが生えてきている。
このキノコ、どこかで見たことがあるような…。
「…もしかして、これ全部魔力茸?」
「正解じゃ! どうじゃ? ワクワクするじゃろう?」
魔力茸も薬草と同じようにマナの無いところでは栽培出来ないとされているものだった。
「どうやってこれを…?」
「詳しいことはさっぱりわからん! ワシらは何もしとらんからのう。むしろお前さんにこの原木をどこで取ってきたのか聞きたいところじゃ」
グラージオはゲラゲラと笑った。
「たぶん飛竜の巣にあった倒木だと思うんですけど、魔力茸が生えるとは…」
そう言えば、あの時作ったポーションにマナポーションも混ざっていたな。
「キノコの育成環境をなるべく再現するために、明日にでも探索エリアに入れる冒険者の学者を探そうと思っておる。ひょっとしたら薬草よりも先に魔力茸の栽培に成功するかもしれんな」
魔力茸は薬草なんかよりずっと販売価格が高い商品だ。
もし栽培に成功すればウハウハなんてもんじゃない。
家どころか城を建てられるかもしれない。
「マナポーションが量産できれば、薬草の栽培も新しい方法を試せちゃいますね」
「どちらも成功したら、面白いじゃろうなぁ」
グラージオの顔がパァーッと明るくなる。
こうやって明るい顔を見ていると自分よりも歳下のように見えてくることがある。
俺の倍くらい歳なのに、ものすごい情熱の持ち主で若々しさを感じるのだ。
そんなことを思いながら、肥料や農薬の追加分の調合と納品をして午前中の仕事を終わらせた。
□□□□
午前中のうちに農場への納品を終わらせて、午後からはグラージオと一緒に中央市に移動して学者を探しにきた…のだが。
「俺に指名依頼?」
人材探しの依頼を届けに冒険者ギルドに行くと、俺に指名依頼が1件入っていた。
「C級に上がったばかりで特に功績も上げてませんけど?」
「アッシュ様の納品した石炭について詳しくお話が聞きたいそうです。どこで採掘してきたのか、どうやって加工したのか、その辺のお話を聞きたいそうです。秘匿される場合も納品だけはして欲しいそうですが、いかがなさいますか?」
「話をするだけで料金上乗せ? 行きます行きます、喜んで!」
炭はギルドなどの販売業者に売りに出したときは、ポーチいっぱいに入れても1500ゼニー程度にしかならない。
買う時の値段の10分の1ほどだ。
依頼納品だとこれの中間ぐらいの値段で取引されるので俺はよく利用していた。
空間収納のおかげで保管場所に困ってないからできることだろう。
普通だったら持ち運ぶのも面倒で仕方がない。
「それにしても炭の話しただけで追加報酬だなんて、鉱石の研究者か何かなんですかね? 炭作りはスキルでやれちゃうから面白い話はできそうにないけど大丈夫かな…」
「依頼者のラックさんは有名な魔導具技師さんですよ。新しいものや珍しいものに触れるのがお好きなんでしょうね」
俺の炭は《調合》で大きさを統一して使いやすくしているので、物珍しかったのかもしれない。
《調合》一発ですぐにできてしまうので、作り方なんて説明しようがないけど、とりあえずスキル使うところは見せてあげるのがいいかもしれないな。
「それじゃ、早速納品に行ってきますね」
グラージオが申請している学者探しの依頼はまだ時間が掛かりそうなので、一旦ここでお別れに。
夕食は一緒に食おうと約束をして俺は炭の納品に向かうことにした。
中央市を流れる川の下流側、工房街の大通りに面した一等地にその建物はあった。
ラック・メカニカル・ラボラトリと看板には書かれている。
聞き慣れない単語だ。
「魔導具工房だよな…?」
工房はガラガラと軋む水車の音とゴウゴウと唸るふいごの音がするだけで人の気配がしなかった。
「すいませ~ん、炭をお届けにあがりました~」
工房の中をパッと見た感じでは作業をしている人影はない。
人はいないが水車によって回された歯車がふいごを動かし炉に空気を送り込み何かを燃やし続けている。
炭を追加するのも自動的に行われていて高い温度を維持しているのがわかる。
「ここの工房主はものぐさなのかな…?」
水車の力で炭の追加とふいごによる送風が終わりなく続けられている。
「変な形の歯車だな。」
見とれている場合じゃないな。
炭の納品に来たんだった。
「すいませ~ん。すいませ~ん!」
「はいはい、はいでやんスよー」
何度か声を掛けたところでやっと返事が来た。
声の主が腰にぶら下げたツールボックスをガチャガチャと鳴らしながら二階から駆け下りてくる。
「炭を届けに来たアッシュ・グレイソンです。ラックさんの工房で合ってますか?」
「お? おぉー? もしかして君が例の物を納品してるっていう冒険者様でやんスか? 私がラックで間違いないッスよ。待っていたでやんス」
「えっ、あっ…ハイ」
胸元のゆるい作業着で駆け寄ってきて、背中をバシバシ叩く激しいハグをしてくるので思いっきり動揺してしまった。
「距離近くないですか?」
「そうでやんスか? それよりも早く見せるッスよ。私を魅了してやまない、あの黒くて硬くて大きなアレを!」
「炭のこと…ですよね? アイテムポーチに一袋分持ってきましたけど、どこに置きましょうか」
「どこでもいいでやんス! あ、でも出来れば奥の部屋が良いでやんスねぇ。そっちに行くッスよ!」
興奮気味のラックさんにぐいぐいと手を引っ張られて、工房の奥へと連れていかれた。
まさか寝室に連れて行かれる?とか思ったが、奥の部屋は大小様々な魔導具が置かれているただの倉庫だった。
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