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20合宿後半戦



 冒険者養成学校の実践合宿・二日目。

 初日に学んだことを復習して、再び探索エリアに入る。

 違いは討伐する対象が決まっていることだ。


「今日の課題は指定された魔獣の討伐だ。ギルドにおける討伐依頼と同じだな。注意するポイントはわかっているな?」


「対象の危険度や出現エリアの確認ですね」


「報酬も大事ですね。どれくらい経費を掛けられるか考えられますから」


「うむ、合格だ…と教本の通りならここまでで終わりだったな。だが、君たちは昨日の授業で詳しく調査して持ち込むアイテムを選ぶことの重要性を知ってしまった。ただ対象を倒すだけでなく、どう稼ぐかまで考えたほうがいいことを知ってしまった。ならば、やるべきことはもうわかっているな?」


 うなずく生徒たち。

 早く始めさせてくれといった顔つきだ。


「準備を開始する前にひとつ追加の注意点を教えておく。依頼票の危険度というのは、対象単体の強さを示すものではない。周囲環境を含めての危険度を表示している。群れを率いていたり、別の魔獣がうろついていたりする可能性があるためだ。これは今日の実習でも変わらないぞ」


「「はい!」」」


「では、依頼票を見て危険度やエリアの情報や報酬を念頭に入れつつ、アイテムポーチの中身を話し合って準備を開始してくれ!」


 パン!と手を叩くと一斉に動き出す。

 事前にポーチの中身を用意してあったチームも再度確認し合って、危険度を加味しつつ不測の事態に対応しようとしている。


「ポーションについても再考する余地があるぞ。後衛ならば安価なものを大量に持ち込んでこまめに飲んだり、仲間に分けたりしてもいい。前衛ならば高品質なポーションを持ち込んで戦いながら、わずかな時間で回復できるようにしてもいい。戦闘中のダメージ管理については、個々の魔力紋による身体強化の差があるだろうから、各自が体感して覚える必要があるだろう」


「なるほど…。怪我の大きさも考えなきゃいけないのね」


 冒険者をしてれば自然に身につくことで、いちいち教え合ったりしないことだが、成人したばかりの生徒たちには新鮮に聞こえるのかもしれない。


「持ち込みアイテムの内容はパーティー単位で考えることも大事だぞ」


 今回は六人パーティーで探索エリアに入ることになる。

 パーティー単位で持てるアイテムに余裕が出るので、心にも余裕が生まれる。

 油断をしてしまうのはよくないが、恐れすぎるのもよくない。


「今回の対象は魔獣化した角ウサギ(ホーンラビット)の討伐のようだな。いかにも初心者向けに見えるが油断するなよ?」


 通常のホーンラビットは繁殖力が強いだけのすぐに逃げ出す臆病な小動物だ。

 しかし、魔獣化すると筋肉が肥大化し、人の背丈を超えるほど大きくなる。

 そんな巨体で飛び跳ね回って体当たりをしてくるので、下手な受け方をすれば骨を折られることになるだろう。

 単体では星一つの危険度だが、今回の依頼は危険度が星二つに認定されている。

 つまりオスメスのつがいでいることが考えられる。

 これに気づけるかどうかも今日の授業の大事なところなんだよな…。


「君たちは初心者だが、とても優秀で慎重だ。だから信じられないだろうが、たまにいるんだよ。対象や出現場所の確認だけして、アイテムの入れ替えもせずに突っ込んでいくやつらが…」


 生徒たちは作業の手は止めずに俺の話に耳を聞いている。


「エリアの確認なんてしない。ただ場所だけ聞いて調査もせずに向かうんだ。どんな危険があるかを調べもしないで、戦えると思い込んでいる。無謀な万能感というのかな。子供の頃に剣を振るえば大木すらも一発で切れる…なんて夢想したことないか? あれに近い症状が中級の冒険者のときにもやってくるんだ」


「…………」


「そんな愚か者は痛い目をみればいいと思うだろう? 俺だってそう思うよ。でもな、そういうバカに限って味方を犠牲にして生き残るんだ。そして、そういうやつは大抵、戦闘時には優秀で自分の力に溺れるんだ。自分はやれるって勘違いしてしまう」


 パーティーのアイテム整理をすべて一人でやっていた昔のことが頭をよぎる。

 あの時、一緒にやろうと言えていたら違った結末があったんだろうか…。


「先生、準備終わりましたわ」


 ボーッとしているところに話しかけられて、思わず生徒たちを見る。

 どの生徒も凛々しい顔つきだ。

 アイテムポーチの中身も複数のホーンラビットを想定して罠も多めに入っている。


「君たちは慢心とは無縁であって欲しい。それでは、気を引き締めて行こうか」



□□□□


 俺たちは討伐依頼のあった高山地帯へと向かった。

 春になろうというのに、日陰には未だに積雪の跡が残る肌寒い地域だ。

 俺は体を温めるためにポーション鍋を用意した。


「今回の鍋は昨日と違って食堂に務めるご夫婦にも手伝ってもらったから、味も見た目も良いはずだ。さぁ、みんな一杯ずつ飲んでいくといい。朝食がまだだったというものはパンもつけるから申し出るように」


 雪山に向かうということで生姜を多めに効かせた薬膳鍋だ。

 ポーションになる木の根や木の実などの素材をスープのベースとして煮込んでいる。

 具材はボア肉がメインだ。

 脂の甘味があってスパイシーなスープとの相性がいい。


「食べながらでいいから合図(サイン)の確認もしておくんだぞ。ターゲットを見つけたら集合、警戒のサインを出す。手に負えないとわかったら撤退のサインを出すんだぞ」


 人数が増えるほどに意思疎通が難しくなる。

 大声を出しても魔獣に気づかれることのなくなる魔導具でもあればいいのが、そんなに便利な魔導具がそうそうあるわけじゃない。


「近くで見守る講師陣の扱いは野良の冒険者と同じだからな。危なくなったら助けてもらえる、などと油断をしないように。間違って攻撃しようものなら冒険者ギルドの規約違反でペナルティもあるからな」


 現場に来た高揚感と、ポーション鍋のおいしさに夢中で、俺の話はあまり耳に入っていないようだ。

 聞き流されているのは少し寂しい気持ちになるが、鍋が好評だからすべて許そう。


「さぁ、授業開始だ。東廻りと西廻り、どちらが先に標的を見つけられるかな?」


 実践授業開始の時間となり、生徒たちはある程度の距離を取るように散開していく。

 魔獣化して凶暴になっているがホーンラビットは基本的に臆病な生き物だ。

 音に敏感ですぐに逃げ出してしまう。

 なのでできる限り囲んで逃げ道を塞ぐようにして戦うのがコツである。


「動くものが見えました!」


 陽の光が頂点に差し掛かった頃、発見した生徒からのコールサインが入り、パーティーメンバーが集まってきた。

 西廻りのパーティーが標的を発見したようだ。

 盾役のブランシュ、軽戦士のソフィア、魔術師のグウェンドリン。

 この三人に加えて、盾役のカレン、軽戦士のエマとモニカの計六人のパーティーだ。


「私が正面で気を引きますわ。皆さんは背後を取ってくださいまし」


 肥大化した筋肉による突撃は盾役の負担が大きい。

 できることなら遠距離からチクチクを攻撃して疲れさせてから戦ったほうがいいが…。


「私が裏から重い一発を狙えばいいのね?」


「エマさんとモニカさんは私と一緒にサイドからの囲い込みをお願いします」


「私はグウェンドリンさんの護衛に入るわ」


 生徒たちも魔獣討伐のセオリーをわかっているようだ。

 魔獣化した獣は血液中に大量の魔素を有するので止血がとにかく早く、ちょっと斬ったり叩いたりしたくらいじゃ流血しない。

 しかし、体内の魔素にも限界があるのでコツコツダメージを与えていけば、ダメージが蓄積していずれ回復できなくなる。


爆ぜよ(エクスプロージョン)!」


 攻撃に使う爪や牙を積極的に狙って破壊しているのもいい動きだ。

 盾役の攻撃を引き付ける動きもいい。

 ホーンラビットに後ろを向かせない完璧な立ち回りだ。


「疲労してきたわ! 罠の準備を!」


「あぁっ! 気をつけてくださいまし!!」


「きゃっ!」


 ホーンラビットの飛び跳ねた衝撃で雪が飛び散り、罠を仕掛けに行ったソフィアに直撃してしまった。

 できる限り魔獣の近くに罠を仕掛けたかったのだろうが、近くに寄りすぎたのだろう。


「ソフィア!?」


「だ、大丈夫! 落とし穴展開します!!」


 雪まみれになっていたが、しっかりと罠を発動させることができたようだ。

 ポーション鍋を食べて寒さにも冷たさにも強くなっていたおかげだろう。


「よし、いいぞ! 畳みかけろ!」


 生徒たちの頑張りに思わず声が出た。

 爪も折り、牙も折り、何度も斬りつけて魔素を散らした。

 ホーンラビットの動きはそのまま鈍っていき、やがて抵抗しなくなった。

 無事に戦闘は終了した。


「ふぅ、なんとかなりましたわね」


「おつかれさまです」


「良い連携でしたね。解体作業は回復してからにしましょう」


 ブランシュの大盾はかなり傷つき、ホーンラビットの一撃の重さを物語っていた。

 ソフィアは顔に雪がついたままだが、怪我もなく無事なようだ。

 グウェンドリンが皆を労っている。


「これで依頼達成ね」


 彼女たちは手分けをして魔獣を解体し、角や毛皮などを剥ぎ取っていく。


「皮は傷だらけになってしまいましたわね」


「それでも使える部分はあるからそれなりの値段はすると思うわ」


「魔石があるから、きっとそれだけで黒字よ」


 魔獣を倒したことですっかり浮かれている。

 この依頼が危険度星二つだということを忘れていないか…?


「ねぇ。倒したんだからもう撤退していいんじゃない?」


「だめですわよ。まだ周囲の確認ができてないですわ」


 エマはまだ判断が甘いな。

 ブランシュが止めなければ本当に撤退を始めそうな雰囲気すらある。


「それにしてもこの辺りにはあんまり生き物がいないみたいですね」


「きっと魔獣が恐ろしくて巣穴に隠れているんですわ」


「危険度星二つだったし、きっと魔獣化したホーンラビットがもう1・2匹いるはずですよね…?」


「そうなの!?」


「可能性はありますわね。でも、今日はしっかりと罠の準備ができておりますわ」


「凶暴な繁殖期のメスに巣を追い出されたのかもしれないわね」


 魔力紋が発する予感はよく当たる。

 地響きがした。

 木が倒れる音だ。

 音の方を望遠鏡で覗くと今しがた倒したホーンラビットよりも一周りでかいメスのホーンラビットの姿が見えた。


「かなり大きいわね」


「オスの倍くらいの大きさじゃない?」


 これは予想外のデカさだ。

 周囲の魔素を吸えるだけ吸って肥大化した特大のホーンラビットは、もはや巨大な熊のように見えた。

 番い(つがい)であることは想定していたが、メスの魔獣化がここまで進んでいるとは思っていなかった。


「あいつらはどう判断する…?」


 臆病な性質のホーンラビットだが、ここまで魔獣化が進むと血に含まえる魔素を求めて死体の方へやってくるだろう。

 この判断がパーティーが生存できるかどうかの分岐点だ。



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