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19†ボロボロの牙



 新生《火竜の牙》の初依頼の成果は…。(新人盾子視点)



 ギルドにはビッグボア一頭の討伐を報告して撤退してきたことを伝えた。

 依頼はビッグボア『三頭』の討伐なので、一頭だけでは違約金を取られてもおかしくなかったが、レッドボアを数体倒した分と一頭のビッグボアを討伐したことを考慮して、三分の一の報酬が支払われることとなった。


「はぁ? こっちは依頼に出向いてやったんだぞ? 一匹でも減りゃあとのやつも楽できんだろ。半額出してもいいとこじゃねぇか?」


 何よその理屈は…。

 本来なら失敗扱いで三分の一の支払いだってされない。


「ボアは縄張り意識が強いので、中途半端に手を出すと討伐の難易度をあげてしまうんです。警戒範囲が広がったり、より激しく暴れるようになって大変危険なんです」


 私は三分の一も報酬が貰えてラッキーくらいに思っていたが、こいつらはずっとイライラしていた。

 なるべくしてなった結果だというのに…。


「ッチ、しょうがねぇな。それでいいから早くよこせよ」


 六等分された報酬を引ったくるように奪っていく。

 窓口でそんな態度を取っていたら、おいしい情報を渡してもらえなくなるのに…。


 素材買取のときにもこいつらはイラついていた。

 みんな口々に文句言う。


「傷跡見れば買い叩かれるってわかるでしょうに…」


 肉は表面に近い部分はほとんど使い物にならなそうだ。

 矢じりが欠けて埋まっていたり、錆が付着していたりしていて、取り除くのにも手間が掛かってしまう。

 毛皮の無残さは言うまでもない。

 小さな加工品に使うことも難しい。


「毛皮は細かく刻んで、内臓と一緒に煮込んで油分を取り出すくらいしか使いみちがありませんな。毛が混ざるから臭いが付いてしまうのであまりやりたくはありませんが、捨てるよりはいくらかマシでしょう」


「クソが! 肉も傷があって価値がないとか言うんだろ?」


「肉は三割程度が廃棄ですかね…。こちらの買い取り価格は最低ランクになります」


「ふざけんなよッ!? こんなに苦労して手に入れてきた獲物にゴミみてぇな値を付けやがって!」


 槍男はイライラが抑えきれずに壁を蹴飛ばして帰って行った。


「その穴、誰のお金で直すのよ…」


 クラン宛に請求書来るわよね。

 私は仮契約しかしてないから関係ないわよ。

 こんなクランすぐに辞めるんだから。


「まったく、初日から大赤字とかいい加減にしてよ…。メインの鎧もダメにされるし、最低よ!」


 私はメインで使っていた鎧の修繕をするために馴染みの防具屋へ向かった。

 口は悪いが腕は良い、昔気質の職人の店だ。


「あら、いらっしゃ…なんだい、あんたかい」


「なによもう、上客に向かってあんたはないでしょ?」


 店に入るなり失礼な態度を取ってきた店主だったが、私のベコベコに歪んだ鎧を見ると表情が変わった。


「あんた、大丈夫だったのかい? 怪我はなかったかい?」


「大丈夫じゃないわよ。鎧のおかげで転送は免れたけど、ビッグボアに吹き飛ばされたときは世界がゆっくりに見えたわよ」


「ビッグボアだって!? あんた、よく無事だったね? あんなのに追突されたら、あたしだったら一発で転送しちゃうね」


「私もビックリしたわよ。A級クランだと思ってた味方が大ポカしたせいでビッグボアが暴れて大変だったのよ」


 店主に愚痴をぶちまけてスッキリさせてもらった。

 今度お詫びにお酒でも奢ってあげよう。


「それでさ、全パーツ修繕して欲しいんだけど、この鎧いくらくらいかかりそう?」


「ちょっと見せておくれ。…ふむ、これは本当に酷いね。この前、仕上げたばかりの新品だろう? どんな使い方したらそうなるんだか…。おまけにビッグボアにまで襲われて、災難だったねぇ」


 店主が示した額は私の予想を少し下回っていた。


「うちの鎧を着てビッグボアの突進を受けて無事に帰ってきたんだ。いい宣伝になるさ。《火竜の牙》の大盾使いとは大違いよ。鎧を新調するって言うんで採寸したんだけど、鎧を着て宣伝してやるんだから、半額で卸せとか言ってきてねぇ。職人に対しても鎧に対しても敬意のかけらもありゃしないよ」


「私、今そいつと同じクランなのよね…」


「あら、失礼、そりゃ知らなかったよ。気の毒な話だねぇ」


「ちょっと面白がってるでしょ。割引なしになったりしないわよね?」


「あんたの分はちゃんと直してあげるから安心おし。割り引いた分はあの大盾使いのほうに上乗せしてやろうかしらねぇ。アッシュくんがいなくなってから《火竜の牙》のひどさが目立ってしょうがないよ」


「助かるわ。それじゃあ、お願いね。今度ボアステーキでも奢るわよ。ちなみにそのアッシュっていう人、どんな人だったか教えてくれない? 悪さして逃亡したって聞いたんだけど…」


「あの子は気の利くいい子だったよ。指名手配も冤罪じゃないかってもっぱらの噂さ。修繕費もバカにならないからって、うちに弟子入りしに来たこともあったよ。クランの他の連中が『金食い虫』って陰口を叩いていたのを聞いたこともあるけど、それでも文句ひとつ言わずに鎧を直してたんだから…。正直者がバカを見たんだろうね。嫌な世の中だよ」


「そうなんだ…」


 悪い噂が冤罪って話のほうが信憑性あるわね…。

 だからといって同情するつもりもないけれど。


「それじゃあ、修繕よろしく頼むわね」


「あいよ。一週間は見ておくれ。またおいでね」


「えぇ、ありがとう」


 私は手付金を支払って防具屋を後にした。


 次は武器のメンテンスだ。

 私の持ち武器のメイスは尖っている頭部と柄の部分で別パーツになっている。

 破壊力と軽量化と耐久性を兼ね備えているが、パーツを分けたことによる負荷が結合部分にかかりやすいのでメンテナンスは欠かせない。


「嬢ちゃんはこまめに来てくれて助かるよ」


「一度歪み始めるとどんどん曲がっていくからね」


「早めに調整すれば大改修せずにすむ。みんな嬢ちゃんみたいにこまめにきれくれればいいのにな」


 武器屋の店主が苦笑しながら言った。


「そういえば、こないだ変な客が来たよ」


「変な客? どういうこと?」


「中古の装備を買い取ってくれって、ここらじゃ見たことない客が来たんだけど、装備の種類も年式もバラバラで、倉庫から出してきたのか、盗品なのか見極めが難しくてね。うちでは判断できんって帰ってもらったけど」


「盗品だとしたら大胆すぎるでしょ…?」


「あとから他の職人連中と話してわかったことだが、あれはアッシュの持っていた装備らしくてな、アイテムボックスにしまっていた物を全部奪われたんだろうって…」


「それって、かなりヤバい奴なんじゃないの…?」


「冒険者ギルドにも報告してある。すでに捜索依頼も出てるはずだ。早く見つかるといいんだがなぁ」


「見つかったとしても、ろくな状況になってないでしょうね」


 《火竜の牙》とクランを抜けたアッシュ。

 どっちが怪しいか、私の中でもう答えは出ていた。

 しかし、証拠はない。

 このまま《火竜の牙》を抜けて逃げ出すのは簡単だけど、私の中の正義が疼いて仕方がなかった。

 どうしたものかな…。


「ねぇ、店主さん。そのアッシュって人が買ったものだと証明できる帳簿ってないの?」


「あぁ、たぶんあるんじゃないか。あいつはこの街から出たことないからな。必ずこの街の武具屋で買ってるはずだ。仲間に聞いてみるよ」


「証明できる帳簿があるなら最高よ。私、ちょっとした作戦を考えたんだけど…協力してくれる? その名も盗品下取り大作戦よ!」


「嬢ちゃんネーミングセンスねぇな…」


「うるさいわね! とにかく古い装備を持って下取りに出したら今だけ修繕費を割り引いてやるって宣伝しなさいよ。きっと飛びついてくるわ」


 盗品を《火竜の牙》の連中に直接持ってこさせる作戦だ。

 彼らが盗品を持ってこなくても別にこっちにリスクはない。

 やれるだけやってみなくちゃね。


「あれは何の騒ぎ?」


 私が策を巡らせるまでもなく《火竜の牙》はトラブル続きのようだ。

 弓男が武器屋の店員と揉めている。


「まとめて買うからもっと安くしなよ。A級冒険者の僕に使ってもらえるんだよ?」


「いくらなんでも安すぎますよ。こんな値段で買い叩かれたらやっていけないですよ」


「なんならここで試し打ちしてあげよう。君たちみたいな作るだけの素人にも矢の良し悪しを見せてあげようっていうんだ。感謝されてもいいくらいだと思わないかい?」


 あんなのただの脅迫じゃない。

 今までどうやって矢を仕入れてたのよ。


「いい加減にしてください。うちは高い品質のものしか置いてません。あなたのような人に売るものなんてありませんよ」


「お高くとまってないでさっさと値下げしなよ。僕はA級冒険者なんだぞ」


 同じクランの人間だと思われたくないわ。

 さっさとギルドに行って契約解消してこなきゃ…。


「そのまえにマナポーションの分の代金を返してもらわなきゃね」


 私もA級冒険者になってちょっと背伸びをしすぎたわ。

 生活がギリギリになってしまっている。

 マナポーション分が戻ってこなかったらつらいのできっちり回収したいところ。

 ローブ女は後衛で被害もないし、マナポーションくらい買えると思うんだけどな…。


「……私、払うって言ってない。クランのプール金から出せばいい。私、お金ないもん」


 ローブ女にマナポーション代を請求したら、それは私が勝手に渡してきただけだから払う必要ないと駄々をこねてきた。


「あんたが一番お金が余ってるはずでしょ。後ろに居て防具の修繕もほとんど必要ない。ポーションだって飲んでないし矢だって撃ってない。前衛の私たちより持ってるのは当然よね」


 私は少しイラついて言い返した。


「……無いものは無いの」


 このガキ、むかつくわね。


「後ろに並んでる杖は何なのよ? 予備も含めて2・3本あれば十分でしょ…。その杖一本でマナポーションが何本買えるのよ?」


「……あなたには関係ない。私の物は私の物」


 もうダメだわ。

 話が通じない。

 クランハウスに戻ってきていたリーダーの槍男に私は詰め寄る。


「報酬の取り決めと現状が違いすぎるわ。どうして均等に六等分なのよ? 武具の損傷やポーションの代金はプール金から支払うんじゃなかったの?」


「今はプール金なんてねぇよ。持ち逃げされてこれからまた貯めていくところだから、すぐには払えねぇ」


「じゃあいつなら払えるのよ? 仮契約期間中に払えないなら私クランとの契約はそこで終わりにするわよ」


「おいおい、まぁ待てって。今日はたまたま調子悪かっただけだろ? ヒーラーのお前がいりゃすぐに稼げるんだから、ちょっとだけ待てって」


「そんな悠長なこと言ってたら生活できないじゃない! 前衛は武器も防具もボロボロでろくな依頼が受けられない状態でしょ。あの子はポーション代を払う気もないし、どうする気なのよ?」


「落ち着けってば! 金にうるせぇやつは嫌われるぞ? とにかく今すぐ決めらんねぇんだよ。明日もう一度集まって話し合おうぜ」


 私はローブ女を捕まえて強制的に狩りに連れ出すことにした。


「じゃあこうしましょう。私はこいつと新人たちと組んで、明日また狩りに行くわ。そこで手に入れた素材を売って出たこいつの取り分からポーション代を私に回させる。それでどう? これでも払えないって言うならもう知らないわ。こいつの装備を売ってお金にしてちょうだい」


 私はできるだけ優しい声で言った。

 これは最終通告だからこれ以上粘ったら本当に売り飛ばすつもりだ。


「どォすんだよ。お前が決めろ」


「……それなら、行く」


「よし決まり! そうと決まれば今日は解散! 酒だ、酒持ってこい!」

 

 リーダーの許可を取り付けたので、私は新人三人とも話して明日の予定を押さえることに成功した。

 前衛チームは武具の修繕で依頼に出られないから、きっと酒浸りになるわ。

 修繕費を浮かせるためにきっと古い装備を下取りに出すはず。


 A級クラン《火竜の牙》は崩壊の兆しを見せていた。



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