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18結果発表



「さぁ、楽しい楽しい結果発表の時間だ」


 生徒たちの顔を見れば、すでに勝敗を知っている様子が伝わってくる。

 悔しそうにするもの、嬉しそうにするもの。

 もう次回のことを考えてあれこれと思想を巡らせているもの。

 今日の探索の実践授業で得たものを噛み締めているようだ。


「まずはポーションを多めに持ち込んだチームだ」


 ブランシュのいたチームの収支を黒板にチョークで書き込んでいく。


「採取したのは薬草と山菜くらいで他に鉱物やキノコ類はなし。狩猟したのはホーンディアの角と毛皮が5体分。そして、高額なのはフォレストサウロの骨と腱。ガーウィの卵もいい狙いだったな」


「卵がなければ宿代だけで精一杯だったかもしれませんわね」


「はぐれちゃってごめんね、ブランシュ」


「ブランシュが採取してきてくれたものが結構いいお値段でしたね」


 結局ブランシュは仲間と合流できず、引率の講師に連れられて戻ってきたが、時間ぎりぎりまで山菜を取って収支をプラスにしようと頑張っていたらしい。

 採取したものと卵のおかげで収支はなんとかプラスになった。

 出費はポーションや砥石などの消耗品で800ゼニーほど、差し引き2,000ゼニーの儲けだった。


「フォレストサウロにパーティーを分断されてしまったのが痛かったな。お互いの位置を把握したり、はぐれたときの合流場所を決めておくといいだろう。休憩ポイントになりそうな場所も地図には乗っているからよく見て検討するように」


「はいですわ…」


 ブランシュは相当落ち込んでるな。

 もっとやれる自信があったんだろう。


 次は罠やポーションを一通りバランスよく持ち込んだチームだ。

 こちらの出費は1,800ゼニー。


「あまり無理はせずじっくり戦ってフォレストサウロの群れを倒したようだな。小型走竜の素材に絞ったのはいい選択だったと思う。ただ採取物の選別がもっとできていたら、収益はもっと伸びていただろうな」


「素早いけどそこまで皮膚は硬くないって情報があったからね」


「思い切って戦ってみてよかったよね」


「サウロの解体に夢中で採取に気が回りませんでしたね…」


 彼女たちの収益は5,250ゼニーで差し引き3,450ゼニーとなった。


「計画したとおりに行動できた点は非常に良い、評価すべき点だ。惜しいのはもっと視野を広げて欲しかった点だな。アイテムを豊富に持ち込むことで生まれる余裕というのをある程度は経験できてよかったんじゃないか。次回も期待しているぞ」


 続けて似たような額の収支のチームを2つ発表した。

 こちらの2チームもフォレストサウロやレッドボアの討伐をしたが、その他の採取品にまで頭が回らず収益が伸び切らなかった。


「この1,000ゼニーや2,000ゼニーの差に喜んだり悔しがったりするのもいいが、大事なのは…この戦いで得た経験そのものだ。それぞれに得たものがあると思う。他人の結果から学ぶこともあるだろう。今日の経験をできるだけメモに残しておくといい。アイテム論のレポートを作るときの参考にもなるだろう」


 そのレポートも後から来る新人冒険者たちやギルド職員たちの役に立つからな…。

 せっかく養成学校ができるのだから、知識を蓄積していって欲しいところだ。


 そして最後に残った最優秀チームの発表だ。


「罠を複数持ち込んで、狩場で組み立てる作戦を取ったチームだ。出費は大きく3,800ゼニーほどだった。他のチームの倍の経費がかかっているが、結果はどうなったと思う?」


 教本と比べると支出は3倍ほど違う。

 かなりの違いだ。

 生徒たちはいくら稼げたのか注目している。

 黒板に素材の査定額を記していく。


「爆弾なども使って効率よくレッドボアを3頭を狩って良質な肉を多く持ち帰った。もちろん高く売れる皮や牙もかなり良い状態で持ち帰っている。さらには時間と体力にも余裕があり、高額査定の山菜も多く採取することができた」


「ソフィアの計算のおかげでしたわね」


「最初から全力で戦って、早いうちからコツを掴めたのがよかったですね」


「お二人の誘導と火力あってこそですよ。私は計画を立てるしかできませんから」


 探索エリアのどこにボアが出て、どれくらいの時間で倒せるか、どう計算したのか俺も気になるほどのいい効率だった。


「事前の調査が実を結んだ結果だろう。ポーションにも余裕があり通りすがりの野良を助けることもできて非常に優秀だった」


 グウェンドリンチームは収入が大きく9,000ゼニーを超え、差し引き5,500ゼニーの儲けとなった。


「ほんの少し探索地の下調べをして、アイテムポーチの中身を変えただけで、これだけ大きな利益と経験の差が生まれたんだ。教本の基礎を押さえつつ、探索地に合わせた応用をしていってもらいたい」


 優秀者に皆で拍手を送りつつ、賞品の贈呈だ。

 グウェンドリンチーム三名に日持ちするよう特別に作った上級ポーションを授与する。

 羨望の眼差しが集まる。

 特に各パーティーで壁役をやって被弾が多かった者たちに羨ましがられている。


「先生の結果はどうだったんですか?」


「そうですよ。先生を超えてたら一本貰えるんでしたよね?」


「あぁ、すまない。俺の分を書いてなかったな」


 余裕で抜いてたから発表をすっかり忘れていた。


「まずは俺の出費の内訳だが、爆弾を多めに積んでいったので経費は3,500ゼニーだ。岩場の採取だけで7,800ゼニーで差し引き4,300ゼニー。これでほとんどのチームの収支を超えているよな?」


「えぇ…嘘ですよね」


「鉱石は大量に持ち帰らないとお金にならないって聞いてたんですけど…」


「大量に持ち帰ればいいだけさ。丘陵地帯には崖崩れして岩肌がむき出しになっているところもあるだろう。ああいう場所なら解体ツールに付属してるピッケルで鉱石を大量に回収していけるぞ。崖を見つけた時に良い奇襲ポイントだな、としか思っていないと見落としてしまうかもしれないな」


 生徒たちがあっけにとられていた。


「鉱石はポーチに詰め込みやすいのも利点のひとつだ。場所は選ぶが爆弾を使って岩場を崩すのもありだ。時間を節約できる。俺はこの技を爆弾換金なんて呼んでいる。覚えておくといいぞ」


「先に言ってくださいよ先生」


「ズルいですわ!」


「調べるのが君たちの仕事だろう? 俺は最初に何でも聞いてくれって言ったはずだぞ」


 ワーワーと騒ぐ生徒たち。

 距離は縮まったように思うが…縮めすぎただろうか?


「それから幸運なことにロックリザードを発見して、これも爆弾を使って楽に倒せたから大きな収益になった。こいつ一匹だけで3,000ゼニーの臨時収入だ。その他にフォレストサウロを三体仕留めて追加の3,000ゼニーだ。ポーチの中は鉱石で一杯になっていたから山菜は自分で食べる分しか持ち帰れなかったが、ソロの探索としては十分な結果だろう?」


 この稼ぎ方は次回以降の参考になっただろう。

 もうすでに生徒たちの頭の中では明日の探索の計画が練られていることだろう。


「もう次の探索に行きたいと気が早っている人もいるだろうが、今日の探索で得たことについてメモを残しておくんだぞ。次の合宿までに事前計画と持ち込みアイテムの有用性についてレポートを書いてもらうからな」


 実践だけやればいいと思っていた生徒たちからは不満の声が上がる。

 事前に説明されて知っているはずだが、気を抜くと不満は口から漏れるものだ。


「難しく考えることはない。今日やったことをそのまま書き記せばいい。君は今日の探索の前にどんな下調べをした?」


 生徒を指名して答えさせる。

 今日やったことをおさらいだ。


「丘陵地帯に出没する動物の情報を集めました。そして何を持ち込んで、どう倒すのかを話し合って決めました」


 罠を組み立てることを決めたソフィアの判断は本当によかったな。


「自分の戦闘スタイルと合致していたか、費用に対する効果はあったか、体感と金額の両方ともメモに記しておくといいぞ。自分の感覚がどれだけ正確かわかるようになる」


 彼女たちほどの優秀な生徒ならメモをしなくても忘れるわけないと思うが、一応な。


「経験を積み重ねることで未知の領域に踏み込むときに、起こりうるかもしれない危険を察知できるようになる。警戒すべきポイントを広く見られるようになるんだ」


 指揮官向けの考え方も頭の隅に入れておいて貰えれば、レイアが望んだ授業の目的もいくらか果たせたと言えるだろう。


「それでも不測の事態は起こるものだ。そこから無事に撤退する方法を身に着けて、ようやく一人前のC級冒険者の仲間入りができると思ってくれ。では、解散。しっかり休んでくれ」


 などと先生らしいことを言ってすっかり気分よくなってしまった。

 レイアにほのめかされていた説教癖が出てしまった気がする。

 これは俺の性分なのかもしれない。

 調子に乗らないように注意しないと生徒に嫌われてしまうな。

 お節介は控えて生徒たちが自分で気づくように仕向けないと…。

 執務室に戻った俺は、今日のことをレポートに書き記す。

 理事会に提出するものだ。


「書類仕事を手伝ってくれる人を雇いたいなぁ」


 現状の教本の足りない部分や追加したい点についての報告書を通さなければ、新任の教師として認められない。

 探索や調合などの実践をするのは楽しいが、机に向き合うのはちょっと苦手だった。


「風呂に入って頭をすっきりさせたいけど…。グウェンドリンは俺への警戒を解いてくれただろうか…?」


 昨日のことがあって風呂に入るのもいちいち警戒してしまう。

 なんとかレポートを書き終えたときに、執務室の扉がノックされた。


「アッシュ先生、少しお時間よろしいですか?」


 訪ねてきたのは金髪が麗しいご令嬢――ブランシュだった。


「かまわないよ。どうぞ入って」


「失礼しますわね」


 授業時間外がこうして生徒が尋ねてくることなんて思わなかった。

 何か重要な話があるのだろうと考えて、俺は椅子を勧める。


「それで、なんの話だい? こんな時間に」


「先生の悩みを聞いて差し上げようと思いまして」


「俺の悩み? 君の悩みではなくて?」


「先生ってばひどい顔をしてますわよ。目の下の隈がひどく目立ちますもの」


 色々と興奮が混ざりって寝付けなかったからな…。

 なんとかポーションで眠気を飛ばしていたがバレていたのか。


「昨日の晩にグウェンと何があったかだいたいの事情は聞いております。謝罪なさりたい先生のお気持ちも察しております。そこで、私に何かできるのではないかと思いましてお伺いにまいりましたの」


 頼るべきか否か?

 正直迷う。

 生徒の手を煩わせるようなことじゃないが、彼女たちは友人同士のようだし…。

 だけど、彼女の言葉が本当なら解決してくれる可能性はあるだろう。


「物で釣るのは好きじゃないってハッキリ言われてしまって、どうしたらいいか…」


「あらまあ、それは困ったことでしょうねぇ。それでは…ここはひとつ私の案に乗ってみませんこと?」


「…というと?」


「明後日はお休みでございますよね?」


「君たちと同じ日程で合宿授業が終わったら中央市に戻るよ。それがどうかした?」


「休日を一日、私たちにくださいまし」


 ブランシュは不敵に微笑んで計画を話した。

 グウェンドリンの機嫌を取る一番の方法は、冒険者の日常をより細やかに伝えること。

 どこに行って何を買うか。

 武具のメンテナンスで気をつけることは何か。

 実践的なアドバイスを含めてエスコートしろ、とのことだった。


「それってつまり、買い物に付き合えってこと…?」


「ですわね」


 その提案はまったく想定していなかったものだった。


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