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17高みの見物



 ロックリザード。

 通称:岩トカゲ。

 岩に擬態して獲物を狙う厄介なトカゲだ。

 代謝物が蓄積した皮膚は非常に硬く粘り気があり、刃物を通さない。

 それがいい防具の素材になるのだ。


「このくぼみはロックリザードが潜った跡だな」


 注意してみると不自然に崩れている地面が道標のように見えてくる。

 歪んだ地面がロックリザードの通った道だ。

 そして、その痕跡がハッキリ残っているということはまだ近くにいるということだ。

 ロックリザードは地中に潜って隠れてしまうため見つけにくいが、だいたいの居場所がわかってしまえばあぶり出すのは難しいことじゃない。


「さっさと仕留めてしまおう」


 俺はアイテムポーチから小型の爆弾を取り出した。

 やつらは振動を感知して獲物を狙っているので、とても音に敏感だ。

 そんな敏感なやつに許容量を超えた振動を与えたら…驚いて体が麻痺してしまうのだ。


「他のチームに見つかったなら爆弾の用意はなかったかもしれないのにな。運が悪かったと思っておとなしく素材になってくれ…よっと!」


 地面の歪みの終着点に爆弾を投げ込む。

 ボンッ!!と急速に空気が弾けて、直撃した場所が揺れる。


「命中!」


 岩に擬態したロックリザードが地面に埋まりながらもがいている。

 この隙にとどめを刺す!

 引っ掻かれないように腹の下にピッケルで穴を空けて爆弾を仕掛けて再び爆破!


――グゲェエエッ。


 ロックリザードは無様に仰向けになって息絶えた。


「準備したものが完璧に噛み合ったな。こいつの分で収益勝負に大差がつけられそうでよかった…」


 無防備になった相手を一方的に倒すのは狩りの基本中の基本だ。

 一方的に攻撃できる準備をしたものが勝って当然。

 価値の高いリザード皮もほぼ無傷で倒すことが出来ていい気分だ。

 生徒たちがレッドボアの皮をキレイに剥ぎ取って来ても、売値で倍以上の差が付けられる。


「あとは山菜や珍しいキノコを持ち帰って見分け方の授業にでも使おうかな」


 俺には《調合》スキルで何に使えるか直感的にわかるから問題ないが、生徒では判別できないものも多いだろう。

 こういう実物を見せて教えられる講師は貴重だし、授業内容が増える分だけ俺の評価にも繋がるはずだ。


「おっと、飛び散った鉱石も忘れず拾っていかないとな」


 爆破で削れた鉱石をアイテムポーチに納めて俺は丘陵地帯へと向かった。

 森林地帯を超えて少し行くと小高い丘があり、そこから草食獣たちの水場が見下ろせるはずだ。

 丘で一旦休憩を取り、双眼鏡で生徒たちの狩りの様子を見ようと思っている。



「あいつらは何か大物を倒せているかな~? あーあ、森トカゲ(フォレストサウロ)に追いかけ回されてるやつがいるな…」


 ちなみにここに来るまでに俺もフォレストサウロに何度か絡まれた。

 肉食の二足走竜だ。

 こいつはロックリザードと違って普通に刃が通る。

 素早く飛び跳ねて動き回るので、攻撃タイミングの見極めが重要である。

 飛び込みにカウンターを合わせられれば一発で首を落とせるので血抜きも楽だ。

 骨や腱が上質な弓の素材となる。

 これも高く買い取られるのだ。


「ポーションに余裕があるなら取っ組み合いになっても倒せるだろうし、逃げるよりやりあったほうが楽に対処できるんだけどなぁ」


 携帯食料を口にしながら高みの見物を決め込む。


「戦ったことないと強そうに見えるのかもな。初めて戦う敵は怖いよな。調べてあってもちょっと難しいか…おやおや、別の群れもいるな」


 遠くの木の影にフォレストサウロを見つけた。

 あれは別の群れのようだ。

 子竜もいるみたいで全部で五匹。

 あまり近づきすぎると襲いかかってくるかもしれないから注意が必要だな。


「さすがに囲まれたら一人で相手にするのは無理だよな…。他二人と離れてしまったみたいだし、ちょっくら助けに行くか」


 俺は双眼鏡をしまい立ち上がった。

 すると、急に目の前の茂みがガサガサと動いた。

 くちばしがひょっこり顔を出す。


「なんだ走り鳥(ドーウィ)か…」


 臆病なはずのドーウィが人間の前に現れるなんて…と思ったが、どうやら足に怪我をしているようだ。

 放置したままでも良かったのだが、気まぐれにポーションを飲ませてやった。

 頭が人助けモードになっていたせいかもしれない。


「たくさん卵産めよ」


 森林地帯には天敵も多いのできっと食われてしまうんだろうが、せっかく助けたのだから長生きしてもらいたいものだ。


「あっちはまだ大丈夫かな…?」


 パーティーメンバーとはぐれて一人逃げ回ってる生徒のアシストに入る。

 直接は手を出さず、周囲の獣を追い払って囲まれないようにしてやるくらいだが…。


「ハァハァ。しつこすぎますわ。少しナワバリを荒らしたくらいで、どこまで追いかけてくる気ですの…」


 幹の太い木を背にして戦う覚悟を決めたようだ。


「あの金髪の大盾使いは…ブランシュだな。あいつらは大角鹿(ホーンディア)を乱獲するために群れを追い立ててたと思うんだが…」


 ホーンディアを追いかけて森林地帯に近寄ってフォレストサウロのナワバリに入ってしまったんだろうな。

 残りの二人にホーンディアの狩猟を任せたのか、二人も同じ様にフォレストサウロに襲われているのかはわからないが、とにかく分断されてピンチに陥ってる感じだな。

 ポーションは多めに持っていったパーティーだから、落ち着いて一体ずつ処理すれば問題ないはずだが…。


「相当焦ってるな」


 落ち着いて戦えていないのは目に見えている。

 踏み込みの甘い斬撃は致命傷には至らない。

 フォレストサウロの爪攻撃で大盾を引き剥がされそうになっている。


「これは泥仕合だ。守りはそこそこできてるが攻撃が…ひどい」


 囲んでいたフォレストサウロを一体倒したところで、群れの残りが逃げ出した。


「あれだけ戦ってこいつ一匹だけですの…」


 へたり込んだブランシュに手を差し伸べる。

 一人でよく戦ったよ。

 もっと早く覚悟を決めていればな…。


「何ですの…。笑いに来たんですの?」


「先生がそんなひどいやつに見えるか? 落ち着いてハチミツポーションでも飲んで頭もリフレッシュしてこいよ。ほら、蜂の羽音が聞こえるだろ? 近くに蜂の巣があるんだ。ポーションと一緒にハチミツを混ぜて飲むとうまいぞ」


 何言ってるのかわからないって顔だ。

 調合の魔道具がなくても混ぜるくらい簡単だろう。

 分量を計らねばポーションとしての効果は伸びないどころか少し落ちてしまうが、おいしいものを飲んで精神を回復させることも重要だ。


「まだ時間はある。甘いものでも飲んで気持ちを切り替えて、仲間と合流して引き続き頑張れよ」


 俺は他のパーティーも見て回るために再び丘陵地帯へと向かって歩き出した。


「さて、お次は罠を多めに持っていたパーティーの成果を見にくかな」


 罠を多めに持ち込んだのは炎の魔術を使うグウェンドリンと軽戦士のソフィアのいるチームだ。

 もうひとりも軽戦士系のようでボアの突進を回避しながら罠のほうへ誘導しているところだった。

 突進の破壊力が高いボアを相手にするには少々バランスの悪いパーティーだが、事前に入念な打ち合わせをしたようで連携は上手く取れている。


「ソフィア! そっちに行ったよ! 後は任せた!」


 彼女たちはアイテムふんだんに使ってレッドボア相手にいいスタートを切る。

 罠にはめて爆弾を当てて怯ませて、溜めの長い強力な火の魔術をボアの顔面に着実に叩き込む。

 硬い毛が焼け焦げて剥がれ落ち、剣による攻撃が通りやすくなる。


「これで止めよ、爆ぜよ《エクスプロージョン》!」


 前衛が剣で付けた傷口に再び爆炎を叩き込む。

 大きな牙を支える首の筋肉を爆発で引きちぎるという、なかなかにえげつない連携攻撃だ。

 ソフィアがそのままボアの首を落としてターンエンド。

 実に鮮やかな狩りだった。


「んん~っ! おつかれさま!」


「被弾もなしでいい誘導ができましたね。ソフィアもいい動きでしたよ」


「この後はどうしましょう? 罠はもう使い切っちゃいましたよね」


 グウェンドリンチームはほとんどダメージがない。

 罠さえあればまだまだ続けられそうだった。


「もう少し狩っておきたい気もするけれど、みんなはどうかしら?」


「私も少し物足りないと思ってたの。でも、この辺は結構奥の方だし、帰り道を辿りながら採取していくのもいいと思うわ」


「確かに、このままだと時間的に厳しいですね」


「では、せっかくですから、帰り道で採れる素材ポイントを回りながら帰りましょう」


「そうしようか。みんな通ってるだろうからあまり残ってないかもだけど…」


「ルート選択は私に任せてください。予習はしっかりしてきましたから」


 彼女たちは食糧補給しながら話し合うほど余裕がある。


「あの子らは確か…ブランシュと一緒にいた子だよな」


 二人組の女の子が森の奥から出てくるのが見えた。

 フォレストサウロに追われて走っているようだが、やたらと遅い。


「怪我してる様子はないが…あぁ、もしかしてポーチに入らないものを運んでるのか」


 彼女たちが運んでいるのはガーウィの卵だった。

 アイテムポーチに入れてはいけない物がいくつかあるが、卵もその内の一つだった。

 野菜などは水分が出るくらいで済むが、卵は破裂してしまって売り物にならなくなる。


「たしかにガーウィの卵はいい値段で取引されるが、二人で運ぶのは無理があるだろ。せめて片方が護衛をしないと卵を狙うフォレストサウロに突かれ続けることになるぞ…」


 ブランシュと合流できてないということは、はぐれたときの集合場所も決めてなかったということ。

 これはちょっと後で注意してやらんといかんな。

 まずは助けを呼んでやりますかね…。

 先行しているグウェンドリンチームにフォレストサウロの排除をお願いしよう。

 卵を持って逃げる二人は助かるし、グウェンドリンたちは無防備なフォレストサウロを狙えて素材が楽に手に入る。

 悪くない取引だろう。


「ちょっといいかな? チームグウェンドリン。後ろからフォレストサウロを引き連れた二人組が逃げてくるんだが、お前らで助けてやれないかな?」


「あら、困ってる人がいるみたいね」


「獲物が向こうから来るなんてちょうどよかったですね」


「私たちは武器を磨いておくので、グウェンドリンさん誘導をお願いします」


 彼女たちはフォレストサウロの倒し方も頭に入っているようだ。

 素早いステップが特徴なので魔術で狙いをつけるよりも、剣を横薙ぎにしたほうが当てやすいのだ。


「こっちよ、早く!」


 卵を持って逃げ惑う二人組を奇襲地点へと誘導する。

 卵を狙ったフォレストサウロが飛びかかる。


「走り抜けて!!」


「残念。その突撃が届くことはないわ」


 飛びかかったフォレストサウロは視界の外から突然現れた剣に薙ぎ払われる。


「さて、これで終わりよ。爆ぜよ《エクスプロージョン》!」


 剣で叩き落されたフォレストサウロは顔面を爆破されそのまま息絶えた。

 トップの成績はこのチームで決まりだな。

 そして、ここで時間切れとなり実践授業は終わりを告げた。



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