16収益勝負
「この授業の目的はあくまでも支出と収益のバランスを知ることだ。利益を得ようとして無茶をして、転送なんてされようものなら莫大な保険料を払わされることになる。決して無理はしないように」
自由に詰め込んだポーチを使う組と、罠の組み立て用工具まで含めてみっちりアイテムを持ち込む組とで、どれだけいいものを持ち帰れるか最終的な収支の差で勝負をすることになった。
この収支勝負には特別演習として俺も参加する。
もちろん生徒たちには負けられない。
「今日の探索で何を狙うか、十分に話し合えたかな?」
予定通りに探索を遂行できるかどうかも評価の対象だが、生徒たちには知らせない。
探索地の危険度を推測すること。
不測の事態に対応すること。
両方が求められるのが冒険者というものだ。
予測する力が磨かれれば、依頼を受けるときの報酬と危険度が見合うかの判断もしやすくなるだろう。
「絶対にトップになって上級ポーションをいただきますわ!」
ブランシュは意気込みは十分だが、安価なポーションを多く入れただけのポーチで行くようだ。
意外にもグウェンドリンは罠を現地で組み立てる側を選んだ。
「同じパーティーなんじゃなかったのか?」
「授業とプライベートは別ですから…。野良の冒険者と組むことも想定しておかないといけませんし…」
「そうなのか。それにしても君が、罠の組み立てありの選択をするとは思わなかったよ」
一瞬、不愉快そうに眉をひそめたが、すぐに目だけ笑っていない笑顔に戻る。
「あなたのことは気に入りません。物で釣るやり口も好感が持てません。それでもきっと持ち帰る品に大きな差がでるのでしょう。レイアさんが雇ったほどの冒険者が言うことなんですから…」
「俺としては実践授業が平穏無事に終了すればそれでいいんだけど、そんな風に言われたらレイアの判断が間違ってないと証明しないといけないな。俺がぶっちぎりの結果を出したほうが生徒たちの考え方も一発で変わるだろうしな」
「自信があるんですね」
「それなりに、経験があるからね」
まだ警戒されているのかグウェンドリンの態度に頑なな冷たさを感じた。
ともあれ全員がアイテムポーチ内の持ち物を直し終えたようなので、探索エリアへと移動を開始した。
「試験のとき以外はなるべく色んな人とパーティーを組むために、前日組んだ人とは組まないように言われてるんですよ」
「でも魔力紋の相性とかもあるし、組みたい相手は決まってきちゃうんですよねー」
移動しながら生徒たちの話を聞いている限り、ほとんどの子が自分の役割をしっかり決めてパーティーを組んでいるらしい。
役割分担すら決めずに探索に出るやつらだっているのに、ここの子たちは実に優秀だ。
「…ちょっと甘く見すぎたかな」
「後悔しても遅いですわよ。上級ポーション二本。必ずいただきますわ」
やる気は十分だけどブランシュはきっと収益が伸びないだろうな…。
きっとこの授業を終えたあとで持ち込むアイテムの支出は大したことがないと気づけるだろうし、目的に合わせた最適なポーチの内容についての基準もできるだろう。
どこに労力を掛けるのが自分にとってベストなのか、きっかけを掴めるといいな。
「調合ありを選んでくれた子たちを贔屓しそうになるな…」
実践授業は冒険者としてやっていけるかを測る実習なのに、ついついどこで何を狩ればいいかまでアドバイスしたくなってしまう。
教本通りのテンプレートを教えたり、過剰なアドバイスで視野を狭めたりせず、どう考えればいいかだけ教えて伸びしろを与えないといけない。
余計なお世話は我慢しなければ…。
「さて、探索前に腹ごしらえだ。これも立派な準備のうちだからな」
「なんですかそれは…?」
「ポーション鍋だ。常に新しいポーションを使ったほうがいいから、古くなったポーションは鍋に入れて食べてしまうんだよ」
緑色に染まった鍋に生徒たちは露骨に嫌そうな顔をした。
「それ本当に食べていいものなんですか…? 度胸試し…とか?」
「別に冗談や脅しの類ではないよ。こうやってポーションで煮込んだ鍋を食べておくと、軽い怪我ならすぐに治るようになるから一度試してみるといい」
まさかね、というような空気が流れる。
俺は実際にポーション鍋をよく食べていて、探索が楽になっている実感もある。
ちょっとした擦り傷などは気にすることもなくなる。
「無理にとは言わないよ。だが、補給が大事なのはわかるだろう。それぞれ用意した食糧を食べておきなさい」
俺たちがやってきた丘陵地帯は草に覆われている。
草原というよりは藪の方が似合いそうで、ところどころ木も生えている。
今日行くのはその森の入り口あたりまで。
藪対策にもポーション鍋はいいんだけどなぁ。
見た目に改善の余地ありか…。
「さぁ、実践の前におさらいだ」
授業の目的ではなく、探索そのものの意味を生徒たちに意識させる。
俺を雇ったレイアの望みは指揮官になれる優秀な冒険者に育てることだ。
「そもそも探索とは何か、だ?」
「高く売れる素材がどこにあるか探すことですか?」
「いやいや、素材が得られるポイントまでの経路を作って、持って帰るまでが探索ですよね!」
質問に即座に答える優秀な生徒たち。
今日はもう一段深く考えて欲しい。
「マニュアル的にはおいしい素材を持ち帰ることが探索だとされている。普通の冒険者ならそれで正解と言っていいだろう。だが、君たちには優秀な冒険者になって欲しい。いつか知らない土地に入っていくことが求められる、最前線に立つ冒険者だ」
少しずつ冒険者としての意識が変わってきた生徒たちを見回す。
どこまで吸収してくれるか未知数だが、非常に教え甲斐がある。
「探索とは頭の中に正確な地図を作ることだ。どこにどんな素材が眠っているかを把握する。そこへ行くまでの経路や帰路を広範囲に渡って把握する。その道中にそれぞれどんな危険があるか把握する」
ルートをひとつ作るだけでは優秀と言えない。
もっと広い視野と細かいところまで注意する解像度が必要なのだ。
「つまりだ。探索地のすべてを掌握することが探索最大の目的だ」
まだわかってないという顔の生徒もいる。
そんな生徒に向けてもう少しだけ付け足してやる。
「先人たちの作った地図はあるだろうが、君たち自身はまだ何も経験していない。誰かが安全だと言ったからって、それをすべて信じてしまうのは危険だ。君たちのスキル、君たちの歩幅に適した道を探して欲しい。そして。自分自身の地図を作り上げてくれ。それでは…実践開始と行こうか!」
「「はい!」」
探索へのやる気はすでに十分だ。
些細なことにも気をつけるように意識を変えられてたら良いのだが…。
「さてと、俺も生徒たちに負けないように採取していかないとな…」
生徒たちは三人ずつの小パーティーに分かれて探索を開始した。
俺も冒険者ギルドで写してもらった生物鉱物の分布図と実際の地形とを比べてどこがおいしいポイントか考えながら、他の生徒達の様子もチラチラと伺っていく。
「ポーションを大量に持ち込んだブランシュのチームは、小物と多く戦って素材の数を稼ごうという考えなのかな。標準的な狩りだけに、最低限の稼ぎは出せても多くは望めないだろうな…」
丘陵地帯から森林浅部にかけて狩りやすい獣と言えば、角が薬になる大角鹿や、肉が美味しい赤毛猪、卵がおいしい陸を駆け回る走り鳥などが挙げられる。
少し狩りに慣れてくれば小型の竜種である森トカゲや岩トカゲが狙い目になるだろう。
「グウェンドリンチームはレッドボアの肉狙いか?」
まだ若い好奇心旺盛な子ボアを狙って罠を張りやすい位置へ誘導しようと事前に決めてあったようだ。
探索地の地形を把握しながら自分の足で罠を張るポイントを探している。
調合ありでの探索に一番興味を持っていたソフィアも同じチームにいて、罠の組み立てを担当しているようだ。
「あのチームはいい稼ぎになるだろうな」
生徒たちの見守りは他の講師陣もやってくれているから俺も自由に探索ができる。
偵察はそこそこにして俺も採取を開始する。
今日の目的は生徒たちの実践授業なのだし、アイテムボックスは使わない縛りプレイなのだが、やっぱり負けるのは悔しいので腕の差を見せたいところ。
ポーチには爆弾を多めに詰めたので大物を仕留めていもいいし、鉱石を爆破で崩してもいい、というようにどっちにも行けるようにしておいた。
「お、これ、おいしいんだよなぁ」
藪の中で目をつけたのは低木に生っている小さな赤い実。
手を伸ばして一粒摘んでみると甘酸っぱい香りが広がる。
この実は熟しているほど酸味が抑えられて、そのまま食べても美味くなるのだ。
「この実を好む鳥がいるんだけど、そいつの卵は塩茹でにすると、めちゃめちゃ美味いんだよなぁ…」
空を飛べない鳥の仲間のガーウィも繁殖期になると、この実を好んで食べるのだ。
しかし、売値はそこまで高くない。
今回の勝負には適さないターゲットだ。
「やっぱり狙うは鉱石だよな。まずは、岩場に行ってみよう」
初心者と同じフィールドで稼ぐとなると、鉱石を掘りまくって有用なものが出るのを粘るのがいいだろう。
同じことを考えた生徒たちのチームはなかった。
やることが地味だからかな…?
「学校支給の解体ツールの中にピッケルも入ってるんだけどなぁ。それだけ重要だってことなんだけど、こういうのもひとつひとつ教えておかないといけないんだな」
俺は地図で見当をつけていたポイントへとやってきた。
「足元ヨシ!」
探索中に気をつけるべき危険は魔獣の存在だけではない。
足場にもしっかり注意を払わなければならない。
特にむき出しになった採掘ポイントは危険だ。
地すべりの起きた場所だったりすることも多く、崩れやすく、崖下に落ちたり、狭い穴に入り込んで出られなくなってしまい助けを呼んだりとかも割りと聞く話だ。
「ここはなんか、掘り返され過ぎな気がするな…」
鉱石を掘りながら進んでいくと地面に不自然なくぼみを発見した。
周囲も荒れている。
ここで何かが起こった証拠だ。
「もしかしてロックワームの餌場か?」
岩場が荒れていたらだいたいロックワームの仕業なのだが、こんなにくぼんでしまうほど鉱石を食べたりはしない。
やつらは足りない栄養を鉱石で補うこともあるが基本的には植物の根を食べるのだ。
「となると答えは…ロックリザード!」
俺の予想が正しければ、これは素材持ち帰り勝負に勝つ、大儲けのチャンスだ。
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