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11†これがA級?



 一方その頃《火竜の牙》は…。(新人盾子視点)



 丘陵地帯のレッドボアは私一人でもなんとかなるお手頃な討伐対象だ。

 体重の三倍程度の固体なら余裕で受け止められるし、それ以上の大物でも受け流すのが難しくない単調な突進しかしてこない。

 巣の近くだと逃げ出すこともなく向かってくるので逃しにくいのも特徴だ。

 パーティーの盾と矛がしっかりしていれば日銭を稼ぐのにちょうどいい相手と言える。

 レッドボアを一日で何匹倒せるか、これでパーティーの実力がわかると言われている。


「一人一頭持ち帰るとして六頭は狩りたいわね」


 パーティーを組んでいるなら余裕もでる。

 聖騎士の私と火力特化のこのクラン《火竜の牙》は相性が抜群だと思っていた。

 抜群のはずなんだけど、どうしても不安が拭いきれない。


「引率をやらされてる気分よ。しゃっきりしてよね」


「だからキャンキャン騒ぐなっつってんだろ」


 ポーションの管理は杜撰。

 二日酔いでクエストを受注。

 たぶんこいつらは他にも何かやらかすわよ。

 注意力が散漫すぎる。


「この毒消し、全然効かないじゃないの。さっき買ってきたばっかなのに!」


「毒消しポーションなんてそんなもんよ」


 店売りの毒消しだとしても二日酔いを一発で飛ばすなんてできない。

 体の中のアルコールを全部吐き出さないと、また酔っ払い状態に戻るに決まってる。


「今までの毒消しならそんなことはなかったのだがな」


「……まだ吐きそう」


 食べ物も組み合わせがよくなかったわね。

 あんなに揚げ物ばかり食べてたら胃もたれもするわ。


「前に飲んだポーションと味が違うね。僕ら《火竜の牙》がいつも使ってたポーションはどこで買っていたんだい?」


「……あの変態が、いつも夜中にこそこそ作ってた。私は気持ち悪いから、飲まなかったけど…」


「そんなわけねぇだろ。あいつの《調合》は薬師よりも時間が掛かって魔力も無駄に食う雑魚スキルだったろ」


「いつもポーション代払えってわめいてたし、どっか高級店で買ってきてたんでしょ」


「そうだよなぁ。あんな雑魚が店売りより効くポーション作れるわけねぇよなぁ」


 どこかに超A級冒険者御用達のお店があって、そこから買ってきたっていうの?

 あるわけないわよね。

 あったら私が使ってるもの。



□□□□



 戦闘が始まってから不信感はさらに強まっていった。


「ちょっと嘘でしょ!?」


 暴れるレッドボアの牙に当たって槍男が大きく吹き飛ぶ。

 大盾を持って構えている私に突っ込んでくるレッドボアにカウンターを合わせようとして失敗したのだ。


「ったく、クソまずいなこのポーション! 痛みより苦味がひでぇぞ」


「マズいぞ、もう一頭来た! ターゲットを引き受けてくれ!」


「バカじゃないの。どうしてこっちに気づいてないやつまで撃ったのよ!」


「隙だらけの獲物がいるんだ狙うに決まってるだろう」


「だったら一発で仕留めなさいよ!!」


 レッドボア三頭に囲まれて私が二頭引き受けることになった。

 予想を超えてくるひどさだ。


「《ヒールガード》」


 聖なる魔力を盾に集めて後ろにいるものを癒やす。

 意識を正面に向けたまま回復できる聖騎士の基礎スキルだ。


「私が注意を引きつけてるのに、真正面から斬りかかるなんてバカでしょ! 後ろから刺すだけでも十分倒せるでしょ!!」


「いつもは突進に合わせて頭をズバっとやれてんだよ。今日はちょっとだけ酒が残ってて手元が狂っただけだ。毒消しが効かねぇのが悪ぃんだよ」


 鈍器女も全然レッドボアを怯ませることができていない。

 私が足止めしてるんだから頭を狙えばいいのに、横から腹や背中を殴りに行っている。

 面積が広いから気持ちよく殴れてるんだろうけど、レッドボアの脂肪は硬い。

 そんな場所を殴っても致命傷になりにくいと思うんだけど…。


「弓と魔術はどうしたのよ!」


「ボアのお尻が思ったより硬くて、ダメージが薄いんだ」


「なんであんたまで横にいるのよ。弓こそ私の後ろにいなさいよ。受け流す先に照準を合わせて突進して来たら顔を狙って撃つだけでしょ!?」


「顔もダメージは薄いじゃないか。だったら当てやすいほうがいいじゃないか」


 ボアの肉や皮は素材として価値が高いから傷つけない。

 牙も使いやすいからなるべく傷つけない。

 基本中の基本でしょ。


「ローブのあんたもよ! ぼーっとしてないで構えておいて!」


「……や、やってるもん」


「そのトドメ! もらったぜー!」


「いいや、ラストアタックは譲らん!」


 弓男が活躍するのが気に入らないのか槍男と盾男が止めを奪いに来る。


「ちょっとやめてよ。あんたが引きつけてたボアまでこっちに来るじゃない!」


 結局、私が三体のレッドボアの攻撃をすべて引き受けることになった。

 残った五人が取り囲んで四方から攻撃を浴びせることでようやくレッドボアを倒しきった。


「初戦からこれじゃ盾が保たないわよ…」


「倒せたんだから問題ないじゃないのさ。アンタがグチグチ言うから、頭痛がひどくなってきたわ」


「……私も。なんでこんなに頭が痛くなるの」


 それはただの二日酔いよ。

 こまめに毒消しを飲み直すしかないわ。


「やっぱり今日は無理よ。帰りましょう」


「僕はまだ戦えるよ」


「あたしもまだまだやれるよ。次の獲物を探してきてよ」


「俺もディクシーに賛成だ。まだまだやれるから次の獲物引きつけてこい!」


「了解、リーダー! あそこに見えるやつを引っ張ってくるよ」


「ちょっと待って、少し休ませなさいよ!」


 弓男が引きつけてきたのはビッグボアだった。


「休憩も挟まず、有利な地形も探さず、いきなりビッグボアとやりあえっていうの? バカじゃないの!」


 私はポーチから煙幕を取り出して撤退の準備をする。

 ビッグボアは魔獣化したレッドボアだ。

 周囲の魔素も栄養として取り込めるようになり、体高も幅も倍ほどに、体重は八倍までに膨れ上がるようになる。

 ビッグボアの突進は馬車が突っ込んでくるようなものだ。

 中身がすべて筋肉で詰まっている暴走馬車のような存在だ。


「何勝手に撤退しようとしてんだよ。リーダーはオレだぞ? オレがすべて決めるんだ」


「だったら私は死に戻りするわ。こんな何もない場所で戦う相手じゃないもの」


 障害物のある場所で戦わなければ全員が一瞬で吹き飛ばされて回復薬の私に負担が掛かる。


「アンタ、ヒーラーだからって調子に乗ってんじゃないよ」


 調子に乗るとか乗らないとかの問題ではない。


「そっちの言うとおりにして勝てるなら従うわよ。全力で走ってくるビッグボアを止めてくれるの? ねぇ、盾男さんはどうなのよ」


「今日は少しばかり調子が悪い。一人では受けきれぬかもしれん」


「ほら、盾役の私たちが無理だって言ってるのに続けるの? 盾なしで続けたいなら勝手にどうぞ。それじゃお先に失礼します」


「チッ! しゃあねぇ一旦引きゃいいんだろ クソアマが!」


 これ以上ここにいると本当に巻き込まれそうなので、煙幕を張って障害物の多い場所へ逃げ出した。

 高台に登れたら最高だけど、周囲にはなさそうなので木の多い方へと向かった。


「……もう疲れた。帰りたい。魔力も尽きてきたし…」


 ローブの女もぐずりだした。

 調子悪そうにしながらも後ろからポンポン氷の魔術を当てていたが、本格的に力が尽きてしまったようだ。


「オイ、マナポーションはどうしたよ?」


「…高くて買えなかった」


「はぁ!? 今それ言うか!?」


 ビッグボアから隠れて武具を磨き直していると、そんな間抜けな会話が聞こえてくる。

 マナポーションがないって…?

 魔術師は魔力紋に大きな負荷がかかる。

 その魔術師が魔力紋にかかった負荷を回復してくれるマナポーションを持たない意味がわからない。


「私の分を渡すからあとで払ってよね」


「……ありがとう」


 マナポーションは高いので、一本でも数日分の食費が飛んでいく。

 だが、死に戻りして莫大な保険料を払わされるよりマシだ。

 マナポーションと上級ポーションは保険の保険として必ず買って行くようにしている。

 残り二本しか手持ちがないが、私も飲んでおかないと…。


「オイ、あれ見ろよ! いい感じの障害物があるぜ!」


 槍男が指差す方向には大きな岩場があり、その周囲に草が生い茂っていた。


「あそこならビッグボアを罠にハメられるんじゃねぇか?」


「さすがよゲイリー! 罠を貼ってさっさと終わらせましょ!」


 浮足立った鈍器女は特に位置も考えずに使ってしまう。


「ちょっと待ちなさいよ。盾役の背後に置くのがセオリーでしょ」


 私たちにビッグボアの誘導までやらせる気?

 面倒くさいことしてくれたわね。

 シールドスキルで注意を引きつけるのも大変なんだから…。


「さあ突進してきなさい! 《タウントシールド》!」


 あと少し、あともう少し。

 ビッグボアの突進の向きが罠の方に向く。

 そろそろ引っ掛かってよ…。

 願うような気持ちで挑発スキルを使う。


「隙有りぃッ!」


 待つことが出来なかった弓男が罠にハマる前に攻撃を開始してしまう。

 それがいけなかった。

 ビッグボアが勢いよく跳ね上がり盾男を踏み台にして、後ろにいた鈍器女に向かって突っ込んでいく。

 槍男が鈍器女を助けようと前に出るがそんなものでビッグボアは止まらないだろう。

 このままだと二人まとめて轢かれる。


「えぇい、こんちくしょうがーッ!!」


 私は駆け出して《シールドバッシュ》で槍男と鈍器女を突き飛ばした。

 代わりに自分が轢かれたようだ。

 重鎧を着た私の体が宙に浮くほどの衝撃。

 地面に叩きつけられるまでの時間がとても長く感じられた。


「がふッ!!」


 肺の中の空気がすべて押し出され、息ができない。

 視界の端には私をぶつかったビッグボアの進行方向がズレて、罠に引っ掛かりそうなのが見えた。

 チャンスは今しかない。

 秘蔵の上級ポーションを取り出して無理やり喉に流し込んだ。


「《シールドバッシュ》で押し込むわ! 攻撃して!! 」


 かすれた声で叫ぶ。


「わ、わかってらぁ。言われなくてもやるっつーの!!」


「一斉攻撃だ! 囲め!!」


 結局、罠にかかったビッグボアを四方から囲んで火力を集中させて、無理やり体力を削り切ることになった。


「ひどい戦いだったわ…」


 牙も砕けて毛皮も肉もズタズタで高く売れそうにない。

 ボアは頭だけ狙って倒すのがセオリーでしょうよ…。


「やったわねゲイリー! 大物よ! 今日の稼ぎは大黒字よ!」


「そうだな、今日はオレたちツイてるぜ」


「…………」


 何かバカなこと言っている気がするが、私は返事をする元気もなかった。

 とにかく早く帰ってこいつらとの仮契約を破棄したかった。


「解体は誰の担当なのよ?」


 ビッグボアを倒したというのに誰もその皮を剥ぎ取ろうとしない。

 歪んでしまった鎧を予備の鎧と取り替えながら誰も動かないので聞いてみたら、全員顔を見合わせるだけで何も言わない。

 まったくひどい出費になりそうだ。


「オイ、誰かやれるやつはいねぇのかよ?」


「そのままポーチに入れて持ち帰んじゃないの?」


「皮はポーチにいれてもいいけど、肉は切り分けて背負うに決まってるでしょ。ナマモノ入れたら水分が出てベチャベチャになるわよ…。誰も血抜きのやり方を知らないとか、ないわよね…?」


 念のために確認すると全員が首を横に振っている。

 これはダメだ。

 私がやらないと。


「仕方ないわね…。とりあえず槍で首を落として、逆さに吊るしといて…」


「んだよ、面倒くせぇ…」


 散々オラついていた槍男も疲労がピークに達していたのか言い返してこなくなった。


「皮は売り物になりそうにないわね」


 表面は矢傷や槍傷だらけだし、血でぐちゃぐちゃだからで水洗いしたぐらいじゃダメだと思うけど、少しでも収支をプラスに近づけるために持ち帰らないと…。

 肉だってどこまで使えるかわかったもんじゃない。


「ちょっとあんた、弓を使ってるんだから狩人系のスキルがあるんでしょ? 肉の解体を手伝いなさいよ。スキルなしの私より上手くできるでしょ」


「なんで僕がこんな汚い雑用しなきゃいけないんだい?」


 弓男の方はまだ言い返してくる元気があるようだ。

 ひどいミスをしたのに誰も追求しない。

 どんなにダメージを与えていようが、ミスはミスでしょ…。


「汚くなったのはあんたが誘導をミスったせいでしょ」


「僕は僕の仕事をしたまでだよ。ちゃんと獲物も仕留めただろう!」


「もっとスマートにやりようがあったでしょ!」


「僕のせいにする気かい! 君こそ猪ごときに吹っ飛ばされて情けないじゃないか!」


「あんたのせい以外の何物でもないわよ…。はぁ、もういいわ」


 こいつらに期待したのが間違いだったみたい。

 まともな狩りができるやつなんてこのパーティーにはいない。

 A級クランの狩りのはずがC級の野良パーティーレベルの引率になるなんて、ホント勘弁して欲しいわ。


「まだビッグボア討伐の続きをやる? 私はもう帰りたいんだけど…」


 正直これ以上、こいつの世話をする体力がなかった。


「あー…。オレ様もそれには賛成だぜ。さすがに疲れてきたしよぉ」


「そうだね、ダーリン。あと一頭ならなんとかなると思うけど、帰ろっか?」


「今日はこの辺にしておこう。ボアに踏まれて鎧が使い物にならなくなってしまった」


 私たちは仕事を切り上げて街に戻ることにした。

 帰り道でもビッグボアを見つけたけど、見過ごすことにして丘陵地帯を出た。

 今の私たちでは手に負えない。

 無残な撤退だった。

お読みいただきありがとうございます。

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