シナリオライターから王太子に強制的にジョブチェンジされたんだが、(嫁付き)
ユリアナと夜月のその後です
「やつきさーん。sei-oのキャラデザできました」
「お前、これさー…ふざけてんの?」
目の前に突き出されたラフ画をみて夜月は目を細め冷めた態度で問いかけた
これは少し前の夜月の記憶だ。
夜月は『聖女と王子どっちになる?』のゲーム開発時の過去を自宅の書斎の机に突っ伏しながら振り返っていたーー
「いやー、この前、やつきさん家お邪魔したじゃないですか、あの時みたやつきさんの高校の卒アルにインスピレーション刺激されまして」
「はあー?」
「だって、主人公の名前がセナだったら、もうがっつりキャラデザも寄せてけば良く無いです?
冗談で無く、本気で。俺これ以上のセナレスティア浮かばないです」
「諦め早すぎないか?…まあ。王子らしく金髪碧眼にして次の会議でみんなの反応みて通れば俺は別にいいけど…後、この隣のキャラは…」
「ユリアナです!クールビューティーて感じでしょ?実は内緒なんすけど、俺の学生時代の初カノを
モデルにしてみました。彼女めっちゃ美少女で、高嶺の花だったんですけど、俺の青春そのもので、俺の引越しがきっかけで別れちゃったんすよ、付き合っててもずっと片想いだったなー…俺は大好きだったんすけどね」
夜月はラフ画で提案されたユリアナを見て過去を語る男の事が少し羨ましくなった
「こんな美少女が初カノとかお前もうそん時一生分の女運使い果たしたな」
「大丈夫っす!俺今超絶可愛い彼女いるんで、このユリアナのモデルの子とは違いますけど、ツンデレでめっちゃ可愛いんすよ、結婚決まったら式呼びますね、ご祝儀期待してまーす!」
「はいはい、とりあえず爆発しとけ〜、ユリアナは理想的だ、これで行こう。髪は銀髪、瞳はパープルアイで少し冷たい感じの印象になるように、
肌は白で照れた時紅みが際立つとギャップがあって良いよな。表情パターンもいくつか作っておいて」
「了解っす」
ーー夜月は回想を終えると同時に机の引き出しからその時のラフ画を取り出した
「ーー今考えると、あいつの元カノって由梨さんなんじゃないか?」
夜月はそう思うもすぐに、だからなんだ?という結論に至った。
(彼は惚気ていた彼女と最近結婚して幸せそうだ。
いまさら由梨さんにそんな報告を俺がするのもおかしいし、俺は何も気付いて無いって事にして忘れよう。確かめるのも面倒だ。)
ユリアナが元いた世界に帰ってから半年が経っていた
夜月はその間シナリオライターの仕事をしながらセイオーゲームの続編小説の続きを執筆していた
はじめは順調だった。
主人公であるセナ王子とヒロインユリアナのすれ違いから徐々に惹かれあい愛を確かめ合う二人ーー
そして婚儀までのしきたりにしばられロミオとジュリエットのように愛し合っているのに会えない時間が二人の恋を燃え上がらせるーー
そしていよいよクライマックスに近づいて結婚前夜祝福の花火が打ち上がる中、試練を乗り越えてお互いの変わらない愛を確かめ合い、いよいよ明日二人が結ばれるーー
という所で夜月トオルはその、続きが書けなくなった
それは完全なるスランプ状態と言っていい程に書けなくなっていた
正確にはその先が一切想像できなくなってしまったのだ
本業であるゲームシナリオの方は順調でアイデアもキャラクターの動きも鮮明に想像できるのに、この小説の仕事だけが行き詰まっていた
ユリアナの綺麗な花嫁姿は思い描く事ができた
でも、その隣に立つセナ王子の表情が全く脳内で思い描けない
夜月は想像するユリアナの隣に並ぶのっぺらぼうのセナ王子に全く感情移入が出来ずストーリーを繋ぐ事が出来なくなってしまっていた
「…また由梨さんに相談するかな、
あの人傷心過ぎて小説読んでないって言ってたけど」
深夜まで小説の続きを考えていた夜月はうとうとしながら思った(…あの人、俺を好きになったら楽できるだろうに、ブレない所もユリアナそっくりだ)
どうしようもない眠気に囚われて
夜月は重たい瞼をついに閉じきって深い眠りについた
何もない暗闇の中でいつもの声が聞こえる
『夜月くーん。ごめんねぇ〜ユリアナちゃんとの賭けに負けちゃってさ、悪いけど移動してもらうね』
『うるさい…『0』…俺は眠たいんだよ…静かに寝かせてくれ』
『お前とんでもないのに目をつけられたな…俺のアバターなんだから易々と消えんなよ、お前にはまだまだ働いてもらわなきゃなんだから、早く這い上がってこいよな』
『なんの話だ『1』…後にしてくれよ、俺はとにかく…今はゆっくり…眠りた…い』
深く、深く、海の底に沈むようにどこまでも落ちていくーーー
(あれ…ーーーこの感じ…前にもどっかでーー)
**
夜月は鳥のさえずりと共に覚醒した。
ゆっくり瞼を開き、寝台の上で寝返りをうちながら思う
(あれ…俺昨日寝室で寝たっけ…)
(あー、なんだこの気持ちいい寝心地は…いいなこれ…どこの商品だ?…俺も買いにーーー???)
「俺の部屋じゃ無い!???」
がばりと寝台から上半身を起き上がらせ夜月は窓の外を見た
「うそだろ…」
困惑するも、夜月は今自分がどこに居るのかを明確に理解した
そう、レスティア王国王城内、王太子の寝室である
「…てことは…まさか」
ベッドから立ち上がり大きな姿見のかけ布をめくり自身を見つめた
はい、sei-oのセナレスティアである
「はあ゛ーーー!?」
状況は理解できるが(なんでこんな事に…)そう思うのが早いかまた以前と同じ激しい頭痛が夜月を襲った
「ってぇ…はあ、相変わらずこれ嫌んなるな…」
押し寄せるセナ王子の記憶、
その中から今こうなっている成り行きを見つけ夜月は驚愕した
「…いやいやいやいや…はあ!?…えっ…ーーー
はあ゛ーーー!!!?」
大絶叫に反応してリージットが寝室の扉を開けて入室してきた
「その様子だと無事に入れ替わったみたいだな。
どうも、新しい主さん。お目覚めの気分はどう?」
「お前、リト!!リトだよな?マジかよイケメンだな、あっ…そうかお前は状況知ってんだなあの
場にいたから」
「…驚いた、記憶も残ってるのか?」
「記憶?ああ、まあ記憶もあるが…お前の事ならなんでも知ってる。背中に月型の痣があるのも、4人兄弟の三男坊だってのも、アボカドが大嫌いだってのも後とびきり裏設定でーー」
途端にリージットの顔色が悪くなる、
威嚇ではない、恐怖でだ
「ちょっとまて!!あんた何者だ!?アボカド以外セナ王子も知らない事だ!どこでいつ得た情報だ」
夜月はリージットのゲームでも見た事がない表情を(そうゆう顔もするのか〜)としみじみ観察する
「どこって、お前がうまれる前から知ってる。
てゆうか、おれが考えた情報がお前にインプットされてるんだが」
「あんたが神なのか?
ユリアナ嬢が賭けをしたっていう」
「ああ、それな、人無視して何してくれてんだって話なんだが、俺はその賭けの神ではない。
が、お前やこの世界を創造したのは俺だからある意味お前からしたら俺は『神』だ。敬っていいぞ」
夜月はリージットが取り乱したおかげで幾分が冷静を取り戻しつつあった
リージットは信じられないと言った感じで目を丸くして固まっている
そこへまた一人扉をノックして寝室へ入室してきた
王太子専属執事兼秘書官 グレアムロイゼンである
「おはようございます。殿下、いよいよ夢にまでみた婚儀を迎えられますね、さあ洗礼の儀式にまいりましょう。食事は婚儀後になりますから多少空腹感があるかもしれませんが、念願のユリアナ嬢の輿入れ、殿下は気にもならないでしょうね」
夜月は主要キャラとの対面に浸る間もなくグレアムの指示によって共に来ていた神官と魔導士に取り囲まれ洗礼儀式の場へと半ば強制的に連れ出される
「グレアム、婚儀ってちょっとまて!なんで取り囲まれてんだ俺!?」
「殿下、2日前にも説明しましたようにこの移動の間にも神官は精霊の祝福を殿下に賜れるように神聖呪文の詠唱中なんです。魔導士も強力な保護魔法の術式を展開中です。静粛にしてください」
グレアムのその忠告の後もとにかく移動するのを止めたくて言葉を発そうとする夜月だったが
「ちょ、」「あの、」「グレ」発するのが出来たのはそんな意味をなさない言葉のみでその先を口にしようとするとぐむむむっと唇が強制的に結ばれる
神官の横、少し離れた場所からリージットが口頭阻害の魔法を使っているからだ
気付いて夜月が睨めつければ一瞬ビクリと狼狽えた様子を見せるもすぐにニコリと良い笑顔を取り繕ってくる
結局、夜月は婚儀前の洗礼儀式まで守備良く執り行われてしまった
「ユリアナに会わせろ!セバス」
「はいはい、すぐ会えますからね」
色々な人間にユリアナとの取次を命じるがレスティア聖堂で花嫁姿を拝む以前に会う事は不可能だと
誰もが取り合わない、
誰もが(殿下はしゃいでるなー)くらいにしか捉えてはくれなかった、リトとユリアナ×アルノート以外今の成り代わりに気付いていないのだから無理もない
かと言って、こんな国を挙げての大イベント中に自ら公に俺異世界からきてる別人ですなんて発言できる訳もなく、夜月は王族の正装である白に金の刺繍のタキシードをテキパキとグレアムによって着せられ、あっという間にレスティア聖堂まで連れてこられてしまった
そうしてーー
気付けば、レスティア聖堂の祭壇の前で
『誓わなかったら許さない』とでも言うような氷のような微笑と射殺すような眼差しをウェディングドレスに身を包んだユリアナに向けられ、完全に逃げ場を無くした夜月は棒読みでひたすら神官の問いかけに「誓います」「誓います」を繰り返した
そんなんでも満足したらしいユリアナが隣で幸せそうにはにかむ
それをうっかり見てしまった夜月は不覚にもキュンとする
誓いのキスは儀式に組み込まれていなかったので指輪の交換をして婚姻誓書にサインをし婚儀は終了した
セナレスティアとユリアナシンフォニアはこれをもって正式に婚姻した事になった
そして、ユリアナはこの時よりレスティア王太子妃になったのだ
**
婚儀修了後ー
開放された城門をくぐり多くの民衆が大広間で祝福の歓声をあげている
そこへ王城の高台から主役の二人が姿を見せると
より大きな拍手喝采が響き渡る
「…お前、あいつらと賭けをしたんだって?」
「はい」
にこやかに振る舞いながら民衆に手を振り
二人はお互いにしかきこえない声で会話をする
「お前の相手はセナ王子だろ、なんで俺を巻き込んだ」
「貴方とはじめて会った時、その姿にびっくりすると共に、貴方の人となりにとても興味が湧いたのです。貴方は知的で、心優しく、なれど決して甘くはない。自分の意思をしっかりもっていて、そして何より、この世界を一番よく知っている。
はじめは、あちら側にいる間に貴方から取れるだけの情報を得ようと思いました、でも、あなたを知れば知る程欲しくなった。貴方をレスティアの王に、私の隣に置きたいと思ってしまった」
夜月が横を見るとユリアナはその白い頬を紅く染めて口に手を添えていた
夜月はそれをみて思う
(これ、抗うの完全に無理なやつだろ)
ユリアナは夜月の理想の女性の塊だ
18という幼さを除いたらもはや全てがそろったような女なのだ
自分の作品に当時の自分を投影したような男主人公を登場させ、その婚約者に自分の理想の女を立てる
それは夜月が本当はやりたく無かった恋愛ゲームの
シナリオの仕事に少しでも楽しみを見出だそうとした遊び心に過ぎなかった、だが、今現実に自分の前に存在している、もはや架空の産物でもない、手の届く距離に来てしまった
夜月は自分で自分の落とし穴を掘って今そこに自ら堕ちようとしていた
しかし、(ただでは堕ちてやらないよ)とも思っていた
(堕ちるなら、お前も一緒に道連れだ…)
夜月はユリアナの片手を取り誓いの指輪にキスを落とす
「なあ、それは俺に惚れたって事であってる?」
「そうですね」
頬を染めながらもまだまだ余裕ぶるユリアナに夜月は口角を上げて笑った
「ならお前が先に堕ちてるって証明しな、
そしたら俺もつられて堕ちてやらんでもない」
ユリアナはそんな夜月の言葉に目を丸くする
「証明なんて、もはや分かっておいででしょ?
こんな大衆の面前で愛を誓えと?
先程の婚儀で既に神にさえ誓ってますのに」
「俺個人に誓えよ、ちゃんと言わないなら俺はお前のものにはなってやらないよ」
夜月の真剣な眼差しにユリアナは逃げられないと悟った、
この世界に無理やり引っ張って、形だけでも婚姻してしまえば面倒くさがりの夜月ならば抗う事も面倒くさがってすぐに懐柔出来るだろう
ユリアナはそう思っていた
ユリアナは夜月がユリアナに並々ならない思い入れをもっている事をちゃんと知っていた、充分に脈があり、両思いだという自信があったからこその算段だった
でもこの男はここに来てまだ駆け引きをする
まだ堕ちてはいないのだとしらを切る
ユリアナは腹が立って、でもそんな簡単じゃない所にキュンとして、その駆け引きに乗っかるほか無かった
「私は一等貴方が愛しくて、王太子妃になった今、欲しいものなんて貴方以外ありません
貴方をわたくしに下さいな、さすれば私は貴方のどんな支持にも従いますわ。ま、毎日愛を囁けと申されるなら囁きます。
ね、閨事だって頑張りますわ!由梨さんの記憶をみてわたくし他の御令嬢より経験豊富ですのよ!?
夜伽を毎日命じられても誠心誠意尽くしますわ、それから…」
「まてまてまて、良いから!わかったから!もう言わんで良い…」
「やつきさ…すごく真っ赤ですわ」
「あー、お前は本当、何処までも規格外だよ」
ユリアナの告白は大成功だった
それはもう夜月の心にドストライクで響いた
男の願望を何の躊躇いもなくど直球で許容すると言い切るヒロインに夜月はたじたじである
「降参、お前の勝ちだよ、煮るなり焼くなりすきにしろ」
「もう!なんですのそれ、私は精一杯の言葉を尽くしたのに、そんな言葉で片付けるなんてひどすぎます!雑ですわ!わたくしこんな扱いされたのあなたがはじめてよ」
「だから俺に惚れたんだろ?
大事にされ過ぎたお姫様は時に雑に扱われたい…」
夜月はユリアナの顎を指先でついとあげてゆっくり顔を近づけた
民衆の歓声が響めきにかわり
黄色い声が入り混じり出した
「お前を余す事なく攻略してやるよ」
そう息がかかる距離で囁いて夜月はユリアナの唇にキスを落とした
わーっと大歓声が広がる
最大値の優越感をもって夜月は唇を離しにんまりと笑った
「お前しか勝たん。一生愛してやる」
ユリアナはこの日、この時、また夜月にはまった
それはもう二度と戻れない所までおとされたのだった
**
ユリアナが意気込んで挑んだ初夜は
「あんま大人なめんな」と呆気なく夜月主導で組み敷かれ「どんな指示も従うんだよね、ユリアナちゃん?なら、頑張ろうな」と早く身体も攻略してしまいたい夜月によって深夜までユリアナの身体は解放されず、二人は愛し合った
「それにしても、まさか貴方の本当の名前がセナだとは思いもしませんでしたわ」
「そうなんだ?その割には随分甘い声でセナ、セナって鳴いてたな、適応早くて笑ったわ」
「本当貴方はどうしてそうわたくしを雑にからかうのです?」
「んー、可愛いから?」
「許しますわ」
「即答」
ユリアナは気怠い身体をコロリと寝返らせセナに身を寄せた
「ずっと愛してる、セナ。
貴方から色々奪った私を愛してくれてありがとう、
貴方を好きになってごめんなさい」
セナは片手でユリアナをギュッと抱き寄せた
「いいよ、全部許す。
お前俺選んで正解だよ、俺の勘だけどこの世界はおそらく『神』の作る世界の最下層だ。お試しで放り込むだけ放り込んでメンテしないのはおろか、そこから使えそうなもんだけ引き出して他へもっていく。いつ消されてもおかしくない場所に作られてたとは、あいつらの言葉がなかったら俺でも気付くの遅れたかもな…」
「この世界はいつか消えてなくなるのですか?」
「そんなのはどこにあるどの世界だって一緒だ。
みんないつか消えて無くなる。
ただ、そのいつかを引き伸ばす事が重要なんだ。
俺がここにいるからには安心しろ、少々チートな裏技使ってでもこの世界のランクを底上げしてやるよ」
「ふふふ、あなたにかかれば現実すらゲームのようなものですのね」
ユリアナはセナの温もりと規則的で落ち着く心音に耳を澄ませながら静かに眠りに落ちた
セナはユリアナの寝顔をみつめながらそっとつぶやいた
「俺もバカだな…
わかってて結局手だして、こんなバグに捕まるとはな…でもまあ。可愛いから俺が一生監視してやるよ」
真実を知る者は多くなくていい
誰かが知っていてその誰かがなんとかできれば世界はうまく回っていくものだとセナは考えていた
セナは愛しそうにユリアナを見つめて
その額に優しいキスを落とした
読んで下さりありがとうございます。




