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27.ヒロイン

お読みくださりありがとうございます。

あれから今日で半年が経った

私はユリアナだった時の記憶を保有したまま元の世界に帰ってきた。

私に成り代わって過ごしていたユリアナは私の代わりに仕事もしっかりとこなしながら休日には夜月さんを半ば強制的にデートに連れ出し本当に好き勝手していたようだ。

(私の身体でどんだけ夜月さんに迫ってたんだユリアナ…)


それでも夜月(やつき)さんはひたすらユリアナを子供扱いして距離をとっていたみたいだ。


夜月さんとは私と朱音がこちらに戻ってからもなんだかんだ繋がっている

朱音が夜月さんのファンだった事や、私とも職場で顔を合わせる事で半年経った今ではたまに一緒にランチにいったり軽く飲みにいったりするくらいの仲だ。


(…私的には複雑な気持ちになるから本当は距離をとりたいんだけど…なんであの人書けなくなると私の所にくるのかしら…もしかしてユリアナのことを引きずってる?)



私がそんなふうに職場でコーヒーを飲みながら一息ついていると職場の先輩の美園さんが私を編集室の入口から呼びかけた


「由梨、夜月さんがあんたに用あるって」


「ええ?」


普段は職場では挨拶程度で直接こうやって呼び寄せたりなんてしない人だ。

公私混同しない大人な面には好感を持っていたのに…そんなにスランプ状態なのか



職場の人達の視線が痛い…

私は夜月さんの担当では無いから尚更だ


「編集長少しいいですか?」


私がおずおずと伺えば編集長はニヤリと笑って

「第二会議室使えー」といってそれからちょいちょいと手招きしてきたので私が編集長のデスクによると編集長は「その変わり絶対スランプ脱却させてきて、〆切迫ってて美園も気を揉んでる」耳元でこそっと言われた


編集長と美園さんは恋仲だ

大人気作家枠にあたる夜月さんの担当編集に抜擢したものの、心配なんだろう


「私にできるかわかりませんが、善処します」


そう言って私は美園さんが待つ入口まで行き

ポソリと美園さんにだけ聞こえるように

「愛されてますね」と言えば美園さんに「なーにもう。そっちこそ、完全にロックオンされてるじゃない」と意味深な言葉をかえされ

「そーゆうんじゃ無いですって」と手を振って笑って否定した


すると少し離れた場所にいた夜月さんと目が合い

夜月さんが私に向かってズンズンと近づいてきた


(うわ、なに、なに、なに!?)


一瞬で距離が縮まり気づけばガッシリと手首を掴まれていた


「ちょっと、夜月さん!?」


「ほら、ロックオンじゃん。

夜月さん!由梨に面会通してあげたんですからちゃんと仕事もして下さいよ、じゃ、第二会議室はあちらです」


そう言って美園さんは指で会議室の場所をしめして

からさっさと編集室に入って行った


夜月さんは無言で私の手首を掴んだまま第二会議室に私を引っ張るようにして連れて行き

パタリと扉を閉めた


なんだか強引でいつもとは雰囲気がまるで違う夜月さんに私は少し腹がたった


「夜月さん、職場でこーゆう呼び出しするのやめてください。どうしたんです?いつもそーゆう所だけはしっかりした人だと感心してたのに…そんなにスランプでストレス溜まってるんですか?」


私が繋がれた手首を引き剥がそうと強く引っ張れば呆気なくその手は離れていった私はすこしばかり夜月さんと距離をとるように下がった


「…随分こいつと親しくしてたようだな…ユリアナ」



私に背を向けたまま夜月さんが低い声で呟いた


久しぶりに人からそう呼ばれてドキリとしたものの

私はすぐに切り替えした


「なんか意味わかんないこと発してますよ。

こいつって誰です?小説のセリフ選びに行き詰まってるなら私で良ければ話ききますよ?」


その言葉に反応したのかゆらりと夜月さんがこちらに向き直した


「…ユリアナ」


「あの!そのユリアナって呼ぶのやめてくれます!?私は由梨なんで、私にユリアナをうつしてみるのはやめて下さい。」


自分の苛立ちをそのままぶつけるような強い口調で言い放ったのに夜月さんは真っ直ぐに私を見つめたまま近寄ってきた、

その真剣な瞳に絡め取られたように私はその場から動けなくなってしまった


「そうだな、お前は由梨だ…

俺の由梨だ。茶色の髪に、黒色の瞳、あの時言ってたのはこーゆう事だったんだな」


(…何を…)


投げかけられた言葉の意味がわからなくて困惑して立ち尽くす私に夜月さんの手がのびてきて

次の瞬間私は抱きしめられていた。とても強い力で掻き抱くようにされハッと我に帰った


「ちょっと、やめて下さい!セクハラですよ!」


力一杯夜月さんの背中をたたいた

どう考えても正気ではない

(私を呼び捨てになんてした事もないのに、きっとスランプで頭おかしくなってしまったんだ)


そう判断した私の耳元で掠れた声で夜月さんが囁いた


「由梨、またせてすまん…

俺は鈍いからお前を見つけるまでこんなに時間がかかってしまった」


その言葉に一瞬であの日別れた時の記憶が呼び覚まされた

脳裏に『またすぐ会える…』と鮮明に残ったセナ王子の声が過った


(…うそだ……違う。あるわけない…)


私は懸命に期待しそうになった自分の心に蓋をした


「本当に怒りますよ…夜月さん」



私は背中を叩くのをやめてひどく冷たい声でそう言った。

すると夜月さんは体を少し離し、二人の間に影ができる

私は目を合わせないように俯いた



無理だった、だってこの人は似ている…

この人をまともに見たら、思い出してしまう

その面影に彼を重ねてしまう…


だから嫌だった

もっと早く距離を取るべきだった


(きっと私だけじゃない、夜月さんもだ

結ばれるはずのなかった人間に心を奪われて

ずっとずっと苦しいまま…)


「夜月さんは私にユリアナをみようとしてるだけです。私はそんなのはごめんです。苦しくても、

私はずっとこのままでいい、ずっとセナ様を思い続けると決めたから…だから。私は貴方に何もできない。」


そう言い切った私の視界には二人の足元しか見えていなかった。その向かい合う足の間にポタリと小さな雫が一粒落ちて、思わず、私はその落ちてきた先を見上げた


深く瞼を閉じた目元が微かに濡れていて

私はそれを見て息を呑んだ


「…他人に成り代わるってこーゆう事なんだな、

自分を見つけてもらえないのは、こんなにも歯痒いものなんだな、今…やっとお前の気持ちが理解できる。ユリアナ…俺のユリアナはお前だけだ由梨。

俺だよ由梨…俺の心をみてくれ」


夜月さんがひとすじの涙を流しながら両手で私の頬を包み込んだ


あの人の手ではない…

今でも覚えているあの手の温もりでは無いのに…

心が震えた、私の細胞全てが彼だと告げている気さえして熱い涙がうちから零れ落ちた

その零れ落ちた一雫さえもが彼に拾われたいと願っているように思えた


「俺は、セナレスティアだ、今はお前の知る夜月トオルになってしまった。この先もずっと、俺は死ぬまでこの身にしかなれない。

お前が好きになってくれた、愛してくれた俺のあの姿では無いし、王子でも無い。でもこの心一つでお前に会いにきた。諦めたくないから。ともに同じ時を生きたいから。」


「…なんで…なんで…」



あの美しい世界で、あの広い王国で、

多くの人に愛され慕われ、全てを手に入れる人


だから…私は何も言わずに、抗う事さえしないでさよならをした


だってあなたはあの世界で充分に幸せで、

あなたにはかけがえのない大切な人達がいて…

存在すら知らない私が消えてなくなったってきっと変わらない、きっとあの世界で誰より幸せになれるって思ったから私は…


「セナ様、私なんかの為に…なんてバカな事を」



「なんかなんて言うな、俺が全部かけても得たかったたった一人の女だ。バカな事じゃない、何一つ選択を間違えたなんて思わない。だってまた会えた。こうやって触れる事が出来てる。お前は今でも変わらず俺を思ってくれているってわかったから何も問題ないんだ」


そう言って抱きしめるその手を、私はもう夜月さんだなんて思えなかった


「セナ様…今は良いって思っても、いつか後悔する時がくるかもしれない、

夜月さんのその身なら神様とコンタクトを取る事も可能なんじゃ無いのですか?今ならまだ間に合うかもしれない」


「お前は俺無しでも生きられそうだな、でも俺無しで幸せにはきっとなれない。俺がお前の心を奪って離さないから。言っただろ?逃げても無駄だって、

俺がお前無しで生きられないからどこまでだって追いかける。いい加減あきらめてつかまっとけ」



そう言って、セナ様は自身がこちらにこれた経緯を話してくれて、これがセナ様だけでなくユリアナの意思でもあることを教えてくれた


「俺さ、この身にあまり違和感が無いんだよ、

なんてゆうか…急に6歳も歳とったしちょっと身体が鈍っている感じはするけど、由梨…

この男なんかすごく俺と似てないか?」


「…ですね」


そうなのだ、正直こちらに戻ってきて最初にみたユリアナが入ってた時の記憶から夜月さんの素顔を知った時驚愕した短髪黒髪に黒の瞳であるのと身長がセナ王子より少し高いこと、見た目的に少し顔つきが大人びている以外おおよそ違う所を拾えないほど二人は似ていた。


だからこそ、はじめはセナ王子を重ねてしまいそうになったけれど中身を知ればそのうち自然に夜月さんだなーと思えるようになっていた。

二人は外見より人格にズレがあることを知り私の中ではセナ王子のそっくりさんな夜月さんという認識に収まっていた


「そして、由梨はユリアナにそっくりだったんだな、見れば見るほど似ている。

ああ、でもこの茶色の髪も黒の瞳も似合ってる。

むしろお前の雰囲気にはこっちのがしっくりくる。

色っぽさが際立った感じだ。

肌の色も健康的でエキゾチックだし、口紅取れてるよな?薄めの優しい色も由梨に似合うな。すごく良い、キスしたくなる」



至近距離から食い入るように観察されてついにはキスなんて単語まで出てきて流石にこの雰囲気はまずいと感じ始めた私は咄嗟に出口まで駆け寄った


「あの〜とりあえず夜月さん。仕事の件でないなら今は私仕事中の身なので仕事に戻ります。」



「は?何急に…なんで夜月さんなんて呼ぶんだ?」


「いや、だってこれからその姿って事はあなた夜月さんではないですか、当然職場ではそう呼びますよ、公私混同はしない主義なんで、わかったらさっさと出ましょうね」



私が会議室のドアノブに手をかけると

後ろから長い手が伸びてきて片手で抱き込まれもう片方の手でドアが開かないように抑え込まれ入口とセナ様とで挟まれた状態になる


半年ぶりにドキドキと心臓が早鐘を打ち始める

そんな私の心境なんてお構いなしにさらに追い討ちをかけるようにセナ様が耳元で囁く

「いいよ、由梨の邪魔はしたくないから

でも仕事終わったら覚悟して、もう待てないから」


そう言ってセナ様はするりと私を離し肩に手を置き会議室のドアを開けてスマートに部屋の外に連れ出した、そして「仕事終わる頃に車で迎えにくるよ」

と言って私を置いて去って行った



私はその後ろ姿を見つめながらふらりと壁に寄りかかった


(なんかとんでもなく色気がましてない!?

しかも今すごく流れるようにスマートだった、

車で迎えってなに!?)


「ちょっとまって…あれが彼氏になるの…?

うそでしょ…」


セナ様は夜月さんの記憶を引き継いでいる。

私がユリアナだった時のように仕草や行動が身体が記憶した通りに動くのだろう

王子だった時は私のほうが年上だと思ってたのに、

こうなった今じゃ、それも逆転した

19歳の青年らしさに、25歳の大人の色香を身につけた最強彼氏って…


「…ユリアナじゃなくて、私がヒロイン枠だったりしない…!?」



そう一人呟いて(何言ってんの私!?)と自分の思考が完全に乙女モードに変換されてしまっている事に気づき両手で顔を覆って隠した


それからある一つのことに気付く


「あ!!」


(そういえば、夜月トオルて本名じゃないよね、

聞きそびれた…)


今までとくに気にならなかったし、夜月さんも自分から名乗らなかったからずーっと知らないままでいた(仕事終わって会ったら聞こう)


私は気持ちを落ち着けてまた編集室へ戻った



***



「…セナ様。ちょっとまって!!」


「無理、無理、無理、もう半年も触れてないんだぞ!」



仕事終わりに車で迎えに来てくれたのはいいが、

さっきから赤信号で止まるたびにキスの雨が降ってくる。それも手の甲から始まり額、頬、瞼、唇

放っておけば自分が運転中なんだって事も忘れるんじゃ無いかってくらいガッツいてくる


「ダメだって!!ほら青、青になったから!危ないから!せめて家ついてから!」


子供を叱りつけるように注意すれば

「この俺ゴールド免許だよ」と何故か自慢げに言ってくる。王子だった時完全に乗せられる側だったからか夜月さんのスペックを随分気に入ったようだ


(…こーゆう悪戯っ子な顔、セナ様だなー)


私はまた車が走り出した事をいいことにずっと気になっていた事を聞いた。


「…半年って言ってもずっとユリアナに変わったの気付いてなかったんですよね?あちらでユリアナとイチャイチャしてたのでは?」


(あー、嫌だな。絶対嫉妬してるってバレるよねこれ)


「婚儀の日取り決まってたの覚えてるか?

あの日の面会日から婚儀の日までちょうど半年間

古いしきたりで俺とユリアナはほとんど接触できない状態だったんだよ、ユリアナもアルノートまで使って俺と距離とってたから、」


「…そっか…」


「小説よんでないの?」


「…読めるわけないでしょ、傷口に塩塗るようなものでしょ」


そう言うとセナ様は明らかに嬉しそうな顔をしはじめた


「そっか、俺がユリアナとって嫉妬してくれたんだ…ああ、ごめん…にやける

とにかく、お前が心配するような事は何も無いよ、

寧ろ気づいて無かった分、なんで恋人なのに触れないんだって、ずっと我慢強いられて、だから俺本当もう限界なんだよ。お前だって半年間俺の事ずっと恋しいって思ってくれてたんだろ?」


「まあ…仕事で紛らわして考えないようにはしてましたけどね」


「ひどくないか!?やっぱり俺の方が圧倒的に惚れてるな、、もっと惚れさせて仕事より俺て絶対言わせる」


**



夜月さんの自宅に入るのは初めてだった。

途端に不安が過る


「…もう、絶対セナ様と夜月さんが入れ替わるって事は無いですよね?」


「…怖い?、俺がいなくなるの…」


「怖い…」


「大丈夫。これは『神』との賭けでユリアナが勝ち取った一度締結したら覆らない契約だ。夜月が仮に拒んだとしても無駄だよ、この世界も、あちらの世界も神が決めた事が絶対だから、だから心配しないでいい」


帰宅して部屋に入るなりセナ様は私を抱き寄せあいもかわらずキスの雨を降らせながら私の髪留めを取りジャケットを脱がせてくる

それらをソファに放り投げて自分の着ているシャツのボタンも取り私をベッドへ誘導した


「今の俺を、夜月だって思わない?

由梨が少しでもそう思うならしない」


「私にはもうセナ様にしか思えないから…大丈夫。

私だって、触れて欲しい」


「由梨は初めてでは無いんだよな?

こちらの世界は、あっちとは違って自由恋愛だから、こんな綺麗な由梨を男がほっとくわけない」


「…すみません。」


「謝る必要ない、ごめん、聞いた俺がバカだった。

気にならないて言ったら嘘になるけど、身体や記憶で言えば、夜月と成り代わった俺も同じ訳だ。

違う世界の俺たちがこうやって巡り合った事が奇跡なんだ。身体の記憶なんて簡単に塗り替えれる」


「…私は、セナ様がそうしたわけでもなくても、

その身体に他の人を抱いた記憶が残っているのはすごく嫌だ。だから、私との記憶で埋め尽くしたい」


「…以外に由梨って独占欲強いのな」


「私も自分にびっくりしてる」


私はセナ様に触れるだけのキスをして問いかけた


「あなたは、これから誰になるの?

その身の本当の名を教えて、

大丈夫。呼び名が変わったって、あなたはあなただもの。私、ちゃんと今のあなたを認めたい。

あなたが今の私を受け入れてくれたように

ちゃんと名前をよびたいの」


「…きいたら逆に戸惑うかも」


「大丈夫」


セナ様は少しだけ沈黙して、それから決心したように私と目を合わせて囁いた


「じゃあ、よんで、


『セナ』って」


「え?」


私の発した声にセナ様が困った顔をして笑って

額にキスをして私を見つめた


「うん。つまりそうゆう事なんだ。夜月がお前に本名を敢えて告げなかったのは…

俺が成り代わったのは八ツ木(やつき)セナ

どうやら俺は、王子では無くなっても、変わらずセナのままらしい」


「…セナ」


「うん。セナ、殿下でもセナ王子でも、セナ様でもない。

やっとお前に何のしがらみも無く名前で呼んでもらえる、由梨大好きだ」


「私も、私もセナが大好き」


これは私の最後の恋だ。

まだ誰も知らない。私の中だけのストーリー


(ヒーロー)は異世界から私を追いかけてやってきた元王子様で、王太子から(仮)小説家にジョブチェンジするらしい。

そして私は異世界で王太子妃になっちゃうようなヒロインでは無くて、あいもかわらず小説が大好きな編集者だ。

だけどこの世界で恋をする。彼と共に生きていく

この贅沢すぎる幸福をあたえてくれた『神』様に

感謝をこめて


恩返しはいつか、彼の書く超大作を完璧に編集して『神』様に献上するのはどうだろう?

きっととんでもなく魅力的な世界が誕生するはずだ


あちらの世界の二人はうまくいったのかなーー


「…ゆり、俺以外の事今考えないで」



「ーー仰せのままに」




ーおしまいー










これにて主人公側のお話は完結です。


続いて番外で、夜月×ユリアナのその後と朱音×尊のその後、アリス×レイルのその後を書いていく予定です。


ここまでお付き合いくださりありがとうございました。面白可笑しく自由に書いてたので読んでくれた方々に感謝です。

また気が向きましたら番外もぜひ読んでやってください。


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