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第42話 祭りのあと②-2

 ノブが演劇部の打ち上げで元気が無いのには、こういったクラスでの出来事が原因になっていたのだ。

 

 佐藤や田中ほどではないが、演劇部での活動をしているうちに徐々にではあるがノブも自分を認めてもらいたいという気持ちが湧いてきていた。


 だからこそ自ら一人二役をかって出たのである。


 自分を認めてもらいたい。そして......

 

 山田部長に褒めてもらいたい......


 これは人間にとって大事な感情であると思う。

 この感情があるからこそ人は努力し失敗してもまた頑張れるからだ。


 ただ小学四年生の少年とすればこういった小さな出来事でも大きなショックとなるのである。


「しかし、田中が台本にない事をベラベラしゃべりだした時はとても焦ったわ!! 一時はどうなる事かと思ったもの!!」


 イナゴ役を演じた轟が言うと同じくイナゴ役をしていた安達も首を縦に何回も振ったあと


「そうよ!! あの時、福田君が機転をきかせてイナゴの王のところを『田中ぁ!!』って呼んでくれたから田中も我に返ったもんね? それが意外と会場からも大きな笑いがとれたし本当に助かったわ。福田君ありがとね」


「ほんと。あんたにしては珍しく頑張ったわねっ!!」


 佐藤が皮肉っぽく福田に言うが福田は動じずこう言った。


「実はあの時、俺もとても焦ってたんですよ。ほんと、どのタイミングで出ようか迷ってたんです。そしたら耳元で水井君が『福田さん、こうなったら田中ーっ!!って呼んで出て行けばいいんじゃないですか? そして間違えたみたいなことを言って出て行けばもしかするとウケるかもしれませんよ』って言ってくれて......。その言葉のお陰で俺は迷いが無くなってあのセリフが言えたんですよ。だからあの場面は俺が凄いんじゃなくて、水井君が凄かったんです。さすが副部長だよっ!!」


「お――――――っ!! そうなんだ!? 水井君凄い!!」


 石田が目を丸くし驚いた表情で言った。


「水井君は脚本だけじゃなくて演出家としての才能もあるかもしれないわね......」


 女優志望の大浜が大人びた口調でそう言うとノブは恥ずかしい時の癖である頭をポリポリとかくのであった。


「そっ...そうだったのか!? あの時、僕が気持ちよくセリフを言ってたのを止めたのは水井のしわざだったんだなっ!!」


 田中が怒り口調で言い出すとバシッ!


 横で岸本が田中の頭を叩いた。


「いてっ!! 岸本さん何するんだよっ!? い...痛いじゃないかっ!!ぼ...暴力反対!!」


「あんたほんとにバカよね。水井君の機転が無かったら演劇が台無しになるとこだったのよっ!! もうあんたは演者は無理ね。セリフも棒読みだしさっ!!」


 棒読みというワードが田中以外の演劇部全員のツボに入り教室中爆笑の渦になってしまった。

 

 田中はそれを一人不服そうにしながら椅子に座り缶ジュースをやけくそ気味にぐびぐび飲みだした。


「いずれにしてもみんな本当にお疲れ様。とても良い思い出ができました。本当に本当にありがとう......」


 山田が場を締めるような感じで挨拶をするのであった。



 こうして演劇部の打ち上げが終わり全員下校する。


 ノブは帰り道、ふとあることを思い出していた。


 そういえば山田部長に運動会での出来事をまだ聞いていなかった。

 でも聞きづらいし恥ずかしい......。でも聞きたい......


 文化祭の準備で忙しかったから、この事はすっかり忘れていたが文化祭も無事に終わり、ホッとした瞬間、急に思い出してしまったのである。


 山田部長が卒業するまでに聞いてみたい。


 でも中学も同じ中学だから中学生になって今よりも心が強くなってから聞こうか?  


 でも二年も経ったら山田部長に俺は忘れられるのではないか?

 

 いやいや...、俺が一年生の時から覚えてくれていた山田部長が俺の事を忘れるはずがない!! 


 そう思いたい......


 ノブは久しぶりに色々な感情が溢れてきて、なにか体が熱っぽくなってきた。


「早く家に帰って風邪薬飲んで寝よ......」


 そう呟き急いで自宅に帰るのであった。


 十一月半ばは日によって暖かい日もあるが、まもなく冬が来ることを感じさせる肌寒い日もある。


 単純だが寒い冬が来ないと暖かい春は来ない。

 十歳の少年が春という成長を迎えるためには冬という辛い経験が必要なこともある。


 これからやってくる冬がノブにとってどんな冬になるのか......

 

 もうそこまでやってきている。

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