第33話 一人二役
【文化祭当日】
この日、ノブは『つ』が取れて晴れて十歳になった。
あぁ、とうとう十歳かぁ......
でもいつもと変わらないなぁ......
まっ当たり前かっ......
ノブはそう思いながら初めて演劇をする緊張感もあり少しこわばった顔で学校に行った。
すると山田部長と山口顧問、そして福田兄が困った顔をしながら話をしている。
「どうかしたんですか?」
ノブが恐る恐る聞くと山口顧問が困り果てた表情でノブにこう言った。
「実は福田誠君(福田の双子の弟)が今朝、急に体調を崩してしまって今日の演劇に出演できなくなってしまったの......」
「えっ!? またですか? あっ、すみません......」
ノブは福田兄の方を向いて謝った。
「いやいや~水井君、そんなこと気にしなくていいよ。うちの誠の方がみんなに迷惑かけてしまったんだから......」
福田兄は笑顔でそう言った。
「ただ、福田君は私と最初に出演するウサギ役なのよねぇ......。私の後ろには他の動物役の人達もいるし......。そしてウサギ役は劇の一番最初のセリフを言わないとダメだから、裏方さんから急遽代役をたてるか、それともあとから出演する鳥役の人達に二役をやってもらうか、それをどうするか今悩んでいたの......」
山田部長が困り顔でノブに言う。そして山口顧問が現状を話し出した。
「今回、劇に出演してもらう人達を無理やり増やしたということもあって裏方は九名でやらないといけないし、そこから一人抜くのはさすがに厳しいわね。やっぱり鳥役の人達かイナゴ役の人達に二役してもらうしかないわね」
「ノブ君はどう思う? 何か良い方法あるかな?」
山田部長がノブに問いかけた。
「い...いや、僕はよくわからないですが......。ただ前の七夕祭りでも照明二台で四名必要だったから、残り五名で舞台裏のことをやらないといけないし、僕も誰かが二役するのが一番いいかなとは思いますけど......」
「やはりそうね。それじゃぁ誰に二役やってもらおうかしら?」
「どうかしたんですか?」
あとから来た高田、大浜、佐藤、高山、石田、岸本が不思議そうな顔で聞いてきた。そして状況を山口顧問から聞き、全員、戸惑いを隠せない。
「わ...私、今回はハゲタカ役だけで精一杯です!! 二役なんか無理ですから!!」
焦った表情で佐藤がそう言うと続いて大浜が
「私はカラス役で、今から顔を黒く塗るつもりなので、さすがにウサギ役は無理かなぁ......」
そしてすかさず高田が話し出す。
「山口先生、香織......。今回、私達鳥役は大きな翼をつけたり、くちばしをつけたり衣装にとても凝ってるから、もしウサギ役もして急いで舞台袖に行ったとしても鳥の衣装に着替えて自分の出番に間に合うかどうかとても不安です。それにイナゴ役も最初から顔を緑色に塗るって田中君がはりきっていたからイナゴ役の人達も難しいんじゃないかと......」
「う――――――ん......。そ...そうよねぇ......」
「高田さんの言う通りね。今回鳥役からもイナゴ役からも代役は難しいわね」
みんなうつむいたり天井を見たりしながら「うーん」と考え込む。
数分の沈黙のあと......
「あの~」
ノブが手を挙げながら声を出す。
「どうしたの、ノブ君?」
山田部長が優しい声で聞き返す。
「ウサギ役ですけど、ぼ...僕がやりましょうか......?」
「え――――――っ!!??」
全員、目を丸くして驚いた。
「ノッ...ノブ大丈夫なのか!? お前、鳥の王だぞ!?」
高山が心配そうにノブに言った。
「そうよ、水井君!! 今、みんな鳥役が二役するのは難しいって言ってたばかりじゃないっ!!」
石田も驚きと心配とが混ぜ合わせた表情でそう言った。
実際ノブも何故そんなことを言ってしまったのか自分でも驚いていた。
これも十歳になったからなのだろうか?
それとも一人前になりたいからなのだろうか?
ただノブは一つ気が付いたことがあったのだ。
「高山も石田さんもありがとう。でも一つ気付いたんだけど、俺は鳥の王で鳥の中では一番最後に登場するし、他の鳥役の人達よりも衣装が簡単なので、ウサギ役をやってから舞台袖に行っても他の人達よりは着替える時間があると思うんだよ......」
数秒の間があき、そして山田部長の表情が自信のある表情に変わり口を開く。
「言われてみればそうね。このメンバーの中ではノブ君が一番時間に余裕があるかもしれないわね......」
山田部長は納得した顔でそう言うとノブが続いて話し出す。
「それに山田部長や先生のお陰で鳥の王はセリフも少なくしてもらったし、ウサギのセリフもそんなに多くはないし、それだったら俺でもできそうな気がしたから......」
そしてまた数秒の沈黙があったが
「さすが今日が誕生日のノブだなっ!!」
高山が大きな声でそう言った。




