第31話 ここのつとう
【十一月某日 文化祭前日】
実は文化祭当日はくしくもノブの十歳の誕生日でもあるのだ。
少し前にノブの父、和仁がノブに言っていた事がある。
「ノブは知らないと思うけど数字の数え方で、『ひとつ』『ふたつ』『みっつ』という数え方があるだろ? 『ここのつ』までは最後に『つ』がついてるけど次の十は『とお』って言うから『つ』が取れるだろ? 昔から『つ』が取れたら『一人前』って言われてるらしいんだ。まぁ昔の十歳と今の十歳では環境が全然違うけどな。でも子供の中では一つ段階が上がるのは間違いないと父さんは思ってるんだ。だから十歳になったらノブは子供の世界では『一人前になる為の入り口』の前に立つことになるんだ。だからこれからは色々な事を自分で決めて色々な事に挑戦してほしい......」
ノブは演劇のリハーサルのために集まっている体育館の舞台裏で父親の言葉を思い出していた。
明日、俺はチョットだけ一人前になるのかなぁ......?
いや、絶対無理だな。俺にはよく分からないや......
「おいノブ、何を悩んだ顔してるんだ?」
高山がノブに不思議そうな顔をしながら声をかけてきた。
「あっ、そういえば高山はさぁ、何月生まれなんだ?」
「えっ? 俺? 俺は九月生まれだけどさ......。それがどうかしたの?」
「いや別に...別に何でもないんけどさぁ......。高山は俺より二ヶ月も前に『つ』が取れてたんだなぁって思ってさ......」
「へっ?? 『つ』?? 『つ』って一体何の事なんだ?」
ノブは高山に父親に言われたことを説明した。
「なるほど!! そういう事かぁ......。それはなかなか面白い話だねぇぇ」
ガヤガヤ......ガヤガヤ......
「ん? 何か向こうの方が騒がしいな?」
二人とは反対の舞台袖で田中が何やら騒いでいる。
「僕は『イナゴの王』なのに、どうしてこんなにセリフが少ないんですか!? 悪役だけど一応、王なんでほんとはもっとセリフ欲しかったのにっ!!」
田中が自分のセリフが少ない事に対して山田部長や山口顧問にブツブツ文句を言っていた。
「ねぇ田中君......? 文化祭前日にそんな事を言われても先生困ってしまうわ。もう少し前にでも言ってくれれば何とかなったのに.....」
山口先生は困り果てた表情で田中に話している。
「田中君、この『イナゴの王』は君が選んだ役よ。なんで今更文句を言うの?」
山田部長は少し怒り気味に田中に言った。
「だってぇぇ......。ほんとは僕も、『獣の王』とか『鳥の王』とかやりたかったのに先に部長がその二つの役を部長とノブでやるって決めちゃったから......。でも同じ王だからイナゴでも我慢しようと思ったんですよ!! でも思っていたよりもセリフ少ないし......。日にちが経っていくうちに、なんかもう我慢出来なくなってきて......」
それを聞いたノブは、部長が決めたあの時に言ってくれれば喜んで『鳥の王』を田中に譲ったのにと心の中で思った。
すると急に高山が田中の方に歩き出した。
「おっ...おい、高山どうしたの?」
ノブは少し焦り気味で高山を呼び止めるが、高山はそれを無視して田中に近づいて行く。
そして高山は田中の前まで行き、こう質問した。
「田中さぁ、お前誕生日何月なんだ?」
「はっ......??」
田中を始め山田部長も山口顧問も不思議そうな顔をしている。
それでも高山は再度、田中に同じ質問をする。
「だから田中はさぁぁ、何月生まれなんだよ!?」
高山が少し強い口調で聞き直したので田中も少し強い口調で言い返す。
「なっ...なんだよ、高山!? なんで急にそんな事を聞くんだよ!?ぼっ...僕は三月生まれだけど何か文句あるのかいっ!?」
高山は田中が三月生まれだとわかるとノブの方を振り向き大きな声でこう叫んだ。
「おーい、ノブ!! 田中、三月生まれらしいぞっ!! こいつの『つ』が取れるのはまだまだ先みたいだわ~っ!!」
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お読みいただきありがとうございました。
また次回もお楽しみに(*^▽^*)




