第30話 メェメェ
そのころノブは山田部長と『鳥の王』と『獣の王』が和解する大事な場面の練習をしていた。
しかしノブは未だに運動会での出来事が頭から消えていない為に山田の顔をまともに見れずにいたのである。
「ノブ君、ここのシーンは王同士がお互いの目を見てがっちり握手するところだから、ちゃんと私の目を見てくれないかな?」
山田は少し微笑みながらノブに言ったがノブは
「は...はい、すみません......」
と言いながらも結局、一瞬山田の目を見るもすぐに視線を逸らしてしまう。
「もう、ノブ君......。あまり時間がないから、このシーンに時間を取り過ぎる訳にはいかないのよっ」
山田は笑みはそのままだが少し強い口調でノブに言った。
「は...はい、すみません......」
ノブはさっきと同じ返事をしてしまう。
「分かったわ、ノブ君。少し休憩しましょう!! 私も一緒に休憩するから.....ね?」
山田がそう言うとノブは慌ててこう言った。
「い...いえいえいえ!! 俺、頑張るんでもう少し練習しましょうよ!!」
今のノブにしてみれば山田と一緒に練習するのも恥ずかしいくらいなのに、練習ではなく一緒に休憩だなんて......
今のノブが山田部長と普通の会話なんて出来る訳無いし、今のノブには絶対耐えられるはずがない。
演劇部に入部した日に初めて山田部長と知り合ったと思っていたのに、実はノブが今までの人生の中で『一番恥ずかしい場面』で声をかけてくれた女の子が目の前にいるのだから。
前から山田部長はノブの事を知っていたんだと考えるだけで体が熱くなり変な汗が出てくる......
でも色々と聞きたい。でも聞けない......
そんな感情が運動会後からノブを襲っていたのである。
「ダメ!! 休憩しましょ!!」
山田部長はそう言い、その場に座り込むのであった。
なのでノブも仕方なしにその場に座り込む。
すると山田部長は急に立ち上がり、ノブに近づいたかと思うとノブの横にピッタリと座り直して来たのだった。
「えっ!?」
ノブが顔を赤くしながら慌てた表情をすると、山田はノブに対してニコッと微笑み、直ぐに窓の外を眺めるのであった。
ノブも緊張で脂汗を掻きながら同じく窓の外を眺め、数分間沈黙が続く。
ノブにとってはある意味『拷問』に近かったかもしれない。
休憩後、再び二人で練習を再開するが、やはりなかなか大事なシーンでノブは山田から視線を逸らしてしまう。
元々相手の目を見て話すのが苦手なノブにとっては今の練習は苦痛で仕方がない。
でも山田部長と二人で練習するのは本音を言えば苦痛ではなく喜びでもあったと思う。
小学四年生の男子、いや思春期の入り口にいる少年少女達は皆複雑なのである。
そんな二人がなかなか噛み合わない練習をしている横で『ヒツジ役』の木場と『ヤギ役』の夏野がアドリブを入れながら仲良く練習をしている。
「メェメェ......ヤギさん?」
「メェメェ......何かなヒツジさん?」
「メェメェ......鳥たちは今度いつ攻めてくるんだろうメェ?」
「さぁ、いつだろうメェ?」
「考えても仕方ないメェ......」
「そうだメェ......」
「そうだメェメェ......」
「 「メェメェ......メェメェ......」 」
二人のやり取りがノブと山田部長の耳に嫌でも入ってくる。
「・・・・・・」
二人は練習をやめ木場と夏野の方を向いて同時に言った。
「二人ともメェメェメェメェうるさいよっ!! メェメェ言いたかったら向こうの方でやってくれるかなっ!?」
木場と夏野は二人の声に驚いて
「 「メェ~ッ!!」 」
と言いながらその場を逃げるように去って行った。
その様子を山田がクスっと笑うとノブもつられて笑い出し、そしてお互いに大きな声で笑い合い、いつの間にかノブは山田の目を見ながら笑っているのであった。




