あの日のパニック障害の恐怖
ーそれは、突然、始まった。「ー死ぬーっ!。」夕刻、湯船に浸かった途端、突然の恐怖に襲われたー。「死ぬ!死ぬ!怖いっ、怖い!。」ーザバッー!と風呂場から水しぶきを上げ裸のまま廊下へ飛び出したー。身体の奥から得体の知れないドス黒い何かが逆流して、突き上げて来る。血管が沸き立つように熱く、燃えるようだ。手足がブルブル震え、顎も小刻みに揺れ、ガクガクと声さえ収まらない。何かの恐怖で脚がじっとしていられない。部屋中を意味もなく駆け回った、「う~っ!う~っ!!っ。」獣のような重く鈍い、声にならない声が、喉の奥から絞り出される。何っ?怖いっ!、脚がっ!脚が熱いっ!何なのっ!?。私、おかしいっ!おかしいっ!!。プルプル震える指で、ドレッサーの引き出しを開けようとするが、指に力が入らない。額に冷たい脂汗が滲む。嫌っ!開いてっ!開いてよっ!。「死ぬーっ!。」ガタガタッ!とドレッサーごと上下に揺するように、無理やり抉じ開けた。片手程の大きさのベルベットの宝石箱の中から、金の鎖の付いた水晶玉のペンダントを引き出す。力余った弾みで箱は宙を飛び、床に音をたてバタリと落ちた。乱雑な手でその石を掴みにすると叫んだ。「助けてー!。死ぬ!死ぬー!。」震える右手の拳の中で、やがて水晶玉がじんわりと熱を帯びた。ハアッ…!ハアッ!ハァッー。涼やかな清水の気が、右手から左腕へ、胸からその下へと身体を流れて巡り、外へ外へと、猛る火が押し出されていったー。ふっ!ふぅうっ!。身体の内側の熱さが、スゥッと静かに冷えていく。ーあぁ!ああっ!怖かった、怖かった!。何なのよぅっ!。もどかしいような生暖かい大粒の涙がボロボロと床に落ちていったー。「パニック障害の可能性があります。藤原 瑠花さん。」知人の紹介で訪れた神経内科クリニックでの診断だった。パニック障害…?。私、病気…?。病気になったの…?。固く握り締める手の中に、あの日必死に掴んだ、金鎖の付いた水晶玉が小さく震えていた。




