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夕焼け色の猫  作者: 鈴寿
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私がこの世の主人公!。

お金ってさ、なくても生きられるんだなぁって思った。ほんの1ヶ月前、財産を溶かされた時は、どうやって死のうかと、終わりの手段だけを模索していたのにー。こう言っては何だが私は結構メンタルは強いかなって思ってたんだよね。育った家の中は安らぎとは程遠い場所だった。食事中も少し母や弟と話をしただけで親父に「五月蝿いっ!。」と血走った目で怒鳴られた。執拗な怒り声に母が異論を唱えれば、髪の毛を掴んで外迄引き摺られ殴られていた。まあ、しかし1時間もしないうちに、吠えまくる狼親父を睨みつけ続ける母の足元で、項垂れる召し使いの小男のようになり下がっては、いた。小学校は多分だか4回は転校した。中学生になって知ったが、安いアパート代も払えず、夜逃げを繰り返していたようだ。その後もずっと、色んな借家で過ごした。甲斐性もない男が唯一威張れる場所が ゛家〝だったのだろう。子供心に、幾度もあの男をこの手で成敗する方法を考えた。色々考えあぐねたが結局思った。「あんな阿呆でも、外面的には人間なのだ。手を下す私が罪人と観なされる。それって、可笑しくない?ー馬鹿馬鹿しい!。」そう思った私は、親父が早く悲惨な運命を受けて地獄へ落ちて行くよう祈って待つ事にした。ところが中々希望は届かず、顔も皺だらけに歪んだ高齢者の域になって、ようやっとで最近成就した。火葬場で「こんなにしっかりした骨格なのに、癌になるなんて…。」と係員が呟いていた。ー天罰だ~ってー。残った母も、これで人生やり直しが効くだろうと思ったら、1年もしないうちに病であっけなく息を引き取った。ーよく解らん夫婦だー。野良仕事で1日居ない両親に替わり、祖母に小学校前頃迄、育てられた私は、母に馴染めず、性格も合わなかった。2人の死に顔も他人事のように眺めただけだった。弟も性格は母似で、お互い水と油の関係だった。でも入院手続きや葬式関係では初めて協力し合い、この時だけは弟が居て良かったと思ったものだ。でなければ遠い県外に居た私は、仕事も出来なかっただろう。けれどこんな私でも、今回何もかも失ったドン底の時、近しい他人からのほんの小さな優しさの、暖かさを知った。猫の福ちゃんのママの瑠花さんは私の救いだった。緊急の依頼に答えてくれて有り難いからと、細やかな気配りを受けた。仕事帰りのアルバイトになった福ちゃんの御世話に行くと、テーブルには唐揚げ、サンドイッチ、お握り、冷蔵庫にはプリンやジュース等々、沢山のお八つを用意して下さっていた。食欲というものを忘れたと思ったのに、一口だけでもと手を出したら、一つ、又一つと結局平らげていた。福ちゃん勤務を終え3階の部屋に帰ると、お腹の中からゆったりとした暖かさが身体全体を包むようだった。ー食べ物の味を思いだした日だった。ーその、福ちゃん初出勤日は、何日ぶりかで気持ち良く眠れた。一度風邪を引き、咳をしながら何時もより早めに帰宅した時は、翌朝、部屋の郵便ポストに風邪薬が差し入れられていた。福ちゃんが御飯を食べている時、おもちゃで一緒に遊んでいる時、猫用ベッドでぐっすり休んでいる時、色んな福ちゃんの写メールの下に、様子を細かく記載して、私の意見とかも付け足した。瑠花さんの返信も続き、まるでペンパルのようになった。その内、何時の間にか、ポツポツと自分の体調やら仕事の愚痴や、率直な今の悩み等もさらけ出すようになったのだった。瑠花さんはかなりの富裕層のようだった。同じマンションなのに入り口から別世界だ。ブランド物の大きな玄関マットから始まり床一面のふかふか絨毯。2つの部屋に纏まるチューリップ型の可愛いシャンデリア。福ちゃんは、本当にお嬢様猫。思ったより沢山の依頼を受けたので、しっかりしたアルバイト代が入った。月末には給料も受け取り、精神的にも落ち着いた。何とかなるもんだ。少しずつだが数字が揃って来た。ーあの時は0だったのにー、なんだ増やせるんだー。ーあの500万で死のうとしたのに…。…え?待って…?。じゃあ私の命って、その値段って事?。え?。少しずつ増えて行くお金の価値と一緒なのが、私の命って事?。…え?。なんだ、それ…。ーそりゃ哀しかった、悔しかった。怒り一杯だった。一気に心が落ちた。ーでも、失くしたその数字と私の命は同じ重さな訳?。そう思った途端、心と身体から何かが抜けた気がした。「なんだぁ~っ…。」暖かい涙がポロポロ零れた。今までの頑張った分の形は、もう失くなったけど、苦労は土台になって私は今、此処に立っているじゃない。だから仕事があるし、屋根の下で生活も出来ている。失くした前と変わらない。暫くしたらボーナスも用意されて、又、お金の足跡が残る。貯めれば良い。生きていれば自然と増えて行く。ドン底迄落ちて苦しんだけれど、ドン底が今なら、もう下はないんだ。これ以上辛い事はないんだ。ーなんだ。後は上がって行くだけの人生だって事じゃん!。なんだぁ~っ。ーそうだ、自分の世界を捨てたら全部終わる…。でも、今見えてる景色も、周りの人々の動きも何も変わらない。今、生きてる私が、私の人生の主人公なのだ。頬を伝う涙が熱い。ーあの地獄の時は怖い程に冷たい涙だった。ー私が居るから目に見える全てが躍動しているんだー。口の両端が強く引き上がる。生きれば良いだけー生きれば良いんだー。自分に言い聞かせるように、何度も何度も、胸で唱えていた。




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