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夕焼け色の猫  作者: 鈴寿
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猫は天使。

小さかった私の家は、小学校の校舎を見下ろす岡の上にあった。ある秋の日の土曜日、学校へ迎えに来た母と弟と共に家に帰ると、古い借家に置いてあった薄い作りのタンスや小さい鏡、粗末な家財道具全てが消え失せていた。6畳と4畳の狭い部屋の中、畳の隅の日焼けしていない部分が、ついさっき迄あった道具達を思い起こさせた。「…っ!~!…っー。」声にならない声を飲み込み、立ち尽くした母は、暫くすると血走った目で「早くっー!、行くよっ!二人共、用意してっ!。」ーあぁ、またかーっと思いながら私と弟は、とりあえずの荷物を纏める。ギャンブル狂の親父のせいで、度々、金目の物は全て持って行かれ、その都度に母は私達を連れて逃げた。物心付いてから何回目だか、もう覚えていない。でも意味もなく毎日怒鳴りつけるばかりの、あの男から離れられると思うと自然に笑みが出た。とは言え、大した資金も持ち合わせない主婦でしかない母が、頼る先は、県外の親戚だけ、だからすぐ捕まった。え~っ、また帰って、こいつと暮らすのかっ?。その度、身体の力が抜けた。なんで、こんな男が息をして生存しているのか解らなかった。テレビでは毎日のように事件事故の死亡報道が続くのに何故この男には、それが起こらないのか?。つい先日も、この野郎は小学生の私の貯金を盗んでギャンブルに使ったばかりだった。当時流行りの人形の着せ替えの靴やバッグや帽子を買いたくて、御年玉も使わずコツコツ郵便局で貯金した。かなり貯まったはずだから、おもちゃ屋に行こうとタンスの奥から大事にしまっていた通帳を引き出した。心踊らせ通帳を開いた途端、信じられない数字が目を突いた。一万円以上あった積み立て額は、なんと0円に擦り取られていたのだ。あまりの驚きと絶望に、ありったけの声を絞り、泣き崩れた。騒ぎに驚いた母が動き、暫くして「ごめんっ!馬鹿親父が盗ったって……。ごめんなっー!、母さんが後で、きっと返すからっー。」止まらない涙をしゃくりあげながら、うん、うん、と頷いた。ー勿論返って来る事はなかった。毎年、私の御年玉は「ちょっと貸してな。後で返すから。」と、言いくるめるのが母の日課だったから。貧しい食卓の日々の生活費にと、消えて行った。しかし何十年も、あんな趣味悪い泥棒男を何故連れているのか理解に苦しんだ。おぞましい事この上ない。母も母で鍋蓋に綴じ蓋とはよく言ったものだ。私達には、都合の悪い事になると直ぐ親父のせいにして逃げた。何時もは、馬鹿だの間抜けだの、1人では何も出来んと、地の底迄貶めているくせに。何十回目かの逃避行で、どこの県の川だったかも覚えていないが、古い石作りの橋の上で幼い私達を見下ろし吐き捨てるように言った。「ーお前達さえ居なければ。あの男から逃げられるのにー。」じゃあっ産むなよっ!!。そう言い放ちたかった。あんなモグラ男っ!連れられてっ!こっちが迷惑だよっ!。ーまあっ、言えば、発狂だったろうなー。早く昇天してくれ二人共。小学生の頃からずっとずっと祈った。でも中々、祈りは届かずで、ようやっと老人の域に入り片方は癌で、連れは肺炎で年も跨がず生を離れた。ーああ、あの時々は、本当に、心が軽くなったなあーっ。不道徳と言わば言え。ー私が唯一愛を感じるのは猫だった。猫が居たから耐えられた。でも幼い頃一緒だった猫は、夜逃げ昼逃げする家族に愛想が尽きたのか、何回かの帰宅時には姿を見せる事はなかった。「猫にも捨てられた家なんだなぁ…。」そう思った。無理もない何回も何十回も突然居なくなり、何日もご飯も水もないのだ。高校卒業してから寮生活だったが最近、このマンションに引っ越したのだった。そうして会えた福ちゃん。猫を見ていると自然に笑みがこぼれる。胸の中の黒い物も消えて行くー。猫は居るだけで見る者が救われる。天使ー。

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