何とかなる、かも?。
このマンションの名前はブランカ。スペイン語で白という意味だそうだ。N市の田舎町で山と田んぼに挟まれて立っている。駅から少しばかり遠いが私は好きだ。仕事先に近い住みかを探していて気に入ったマンションだった。エレベーターはなく、外壁に巻き付いたような螺旋階段を登り降りする。その三階に私の部屋はある。人の住む家も田んぼの端々にポツポツと立っている程度。広い窓から見えるのは大自然そのものだ。だから、夜は真っ暗。私の心を映しているような暗闇が、今夜は重い。猫ちゃん、もう寝たかな。夜も出窓のクッションで寝るのだろうか。ーいやいや奥の部屋に猫ベッドがあるよね。きっと。このマンションは2DKだ。防音設備等してないだろうに中に入れば外には殆ど何も聞こえない。だからか一応はペット禁止なのだがチラホラ犬や猫を窓や扉越しに見かけるし、誰も何も言わない。ある時、一度引っ越しの挨拶に、ロングコートチワワを抱っこして姿を見せた若夫婦には心の中で笑ってしまった。そんな、のどかさが好きなのだ。生きなければならないなら、此処に居たいなあ…。ああ、でも、寝なければ、明日は仕事だ。目眩なんかしていられないのだ。結局食べ物らしい物は口に入れても飲み込むのも辛く、お茶碗半分にお茶を注ぎ、ただ、グイグイ掻き込んだ。味等何も解らなかったが、お腹の中がじんわり温められると、何となくホッとした。心も身体も冷え切っていたようだ。ベッドに横たわっても眠気は来ず、疲れているのに、頭はグルグル動き回っていた。何も考えてもいないのに、ただ台風のように訳もなく動いていた。ああ、私、どうなってしまうんだろう…。そうして、結局、まんじりともせず朝が来たー。やはり、食べられない。一口大にお握りを作り、ふりかけをかけて2つ口に入れた。飲み込むのに、こんなに力が必要だったのかと思う。お茶で飲み下すようにして流し入むと、部屋を出た。脚がカクカクと鳴るようで、力が入らない。まるで身体が操り人形になったようだ。ーもう、私、無理かもしれない…。朝に夕にの行き帰り、何時も歩く砂利道を通り駐輪場へ向かう白い壁に、気が付くと、よそよそしい貼り紙があった。何時も猫が座る出窓の壁の端に、それは、あった。思わず顔を上げると、どこからか、サアッと一陣の風が吹いた。「…なんとかなる、かも?¨。」私は、そう呟いていた。




