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夕焼け色の猫  作者: 鈴寿
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光の向こう側

ープァーンーー。電車がプラットホームに立つ、私のスカートを乱暴にハタハタと翻す。電車の進んだ方向へグァッーッと吸い込まれそうな感覚が苦手だー。駅に着いてしまったー。怖い怖い。怖い。生温い風にはためいた後のスカートの脚の辺りを右手でギュッと握ったー。外出なんて何ヵ月振りだろうか…。頭で理解出来ない発作の恐怖は、元々インドア派の私の心を千千混ませた。あぁ、又あの感覚に襲われたらどうしよう。抑えられず喚き出したら、どうしたらいいのか…っ。ー物凄い恐怖が全身を襲い、狂ったようになる。足元からイライラする熱が吹き上がり、脚をバタつかせ走り回らなければならなくなる。私が私じゃなくなって行く姿に苛まれる恐怖ー。後で知ったが、パニック障害の症状とは、人が心身共に非常に危険な状況下に陥った時、自己の生存率を高める為に出現する行動らしい。しかし、それが、全く意味を成さない時点で起こるのが、この障害だ。ー考え始めると緊張感に喉が渇き、ごくりと生唾を飲み込む。縋る気持ちで胸に掛けた水晶玉を震える指で撫でた。ー途端にフワァッと暖かい気が、指から手へ、そして胸から全身へと優しく包み込んだ。硬く沈んでいた顔が、ゆっくりと緩んで行く…。「有り難う…。クリオス…。」水晶の力を実感するようになってから名付けたー。水晶では言いにくいしと調べたら、クリスタルの語源がギリシャ語の、クリオスー氷のように冷たいーという意味合いから抜粋されたようだ。クリオスも、この名称を気に入ったようで、クルクル旋回して光りを弾いていたー。今回の移動手段については、家には運転手付き乗用車があるし、或いはタクシー移動等も考えていたのだが、あの狭い空間で窒息感を感じないかという不安が募ったのだった。あれからも二回位、突然の恐怖に苛まれた。最初程ではないにしても、突然、理由もなく、喉が詰まる、苦しい、怖い、という頭の中の判断に支配され、身体が震えたー。ー私の身体は虚弱体質とは言え、それこそ大病自体、患った事はなかった。しかし14歳の時、叔母の家に来る過程の中で、環境変化の緊張や疲労からか、玄関先に着くなり、倒れてしまったのだ。心配した叔母は、御抱え医師を私の主治医として、毎年の定期診察を決定した。その縁から、今回その医師の紹介で隣町で開業している神経内科クリニックを受診した。薄いブラウンの眼鏡を掛けた3~40台位の優し気な口調の男性医師だった。側に付き添っているのは看護師の奥様らしいー。元々総合病院に勤務していたが、今はクリニックを開き、夫婦二人が中心になって、切り盛りしていると主治医から聞いた。ーなんとなく和やかな空気に心も休まっていくー。辿々しいながら真剣に話を続ける私に、うん、うん。と一つ一つ丁寧に頷きながら、思考している姿に親近感を持った。信頼しても大丈夫そう…。ー結果は、パニック障害の確定診断だった。諸説ある疾患ながら、未だ原因不明な病らしい。私は薬に対して強い過敏症があり、風邪薬以外は服用していない旨を主治医からの紹介状に記載されていて、私の希望からも、相談の上で漢方薬治療を開始する事になったー。特に苦味も強くなく抵抗なく飲めて、身体の芯が安心して行く感覚が、あった。帰宅して、久しぶりだかに、ゆっくり落ち着いて過ごせた。優しい陽射しに、何時の間にかソファーで微睡んで居た、その時ー…。「ねぇ猫ちゃんー…?。死んだら、一緒に育ったあの猫と同じ場所に、行けるのかなぁー…?。」「でも、苦しいのは嫌…。やっぱり煉炭買おうかなぁーー…?。」ー窓越しに入る光の向こう側から、消え入りそうな掠れ声がした…。

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