34.完璧の裏側
「愚かな真似をしたな、王妃よ」
それはとても静かな声。怒りでも嘲りでもない、ただただ静かな……哀しみ。
「それ程までに王妃でいることは寂しかったか?私はずっと同じ未来を見て歩めていると思っていたよ」
「……申し訳ありません」
同じ未来……そうね。まだあなたが王子だった頃、この国の未来を語り合ったわ。なぜあの頃のままでいられなかったのかしら。
「私が間違ったのだろうな。子供を、世継ぎとして育てる事が辛いのだと思っていた。だから、ジークに過保護になるのを許してしまった。
だが違ったのだね。君がただ愛されたかったのか?ナディヤよ」
恥ずかしい。ただ一人の女として愛されたかった。そんな欲に負けて愛する息子を傷付けただなんて……
どうして自覚することができなかったの?こんなに浅ましい自分を。
違う……分かっていたはずよ。だからあの子の行動が自分のようで怖かった。本当は愛する者にしがみついて、相手が苦しもうとも離したくない、狂った執着。
いつからこうなったのかなんて覚えていない。
「なぜ言ってくれなかった?」
「え?」
「寂しいと、愛されたいと口にすることはそんなにもプライドが傷付くことだったか?
私はずっと幼い頃からお前しか知らない。女心なぞ分からんつまらない男だ。それでも、お前が本音を打ち明けてくれたら、変える努力ぐらいしたさ」
「……あなたは何でもできる人だと思っていました」
いつだって完璧な人。王子の頃から何でも卒なくこなし余裕な態度で。王になってからもそう。貴方はいつだって……
「そうあるように育てられたからな。振りくらいはできる。だが、完璧な人間などいるわけがないだろう。
だからお前が同じ未来を見て、共に歩んでくれることがどれ程心強かったか。
お前の望むものとは違ったかもしれないが、私はお前が大切だし愛しているよ。
私はずっと満足していたのだ。だから、ナディヤが愛されていないと思って寂しがっていただなんて思いもしなかった。……すまなかった」
あぁ、私はなんて傲慢だったの。
口に出しもせず、愛されていないのだと不満に思っていた。この人の完璧の裏なんて気付きもしないくせに、なぜ私の寂しさを分かってくれないのか恨んでさえいた。
「ごめんなさい、私が愚かだったの」
完璧なあなたが気付かないはずが無いと思い込んでいた。知っていて無視をするのだと思っていた。
「……私は、裁かれるのかしら」
「いや、公にはしない。だが、このままにも出来ない」
幽閉かしらね。いっそこのまま殺してくれたらいいのに……
「罪を償う努力をしてくれ。お前が死んでもジークもリーゼロッテも幸せにはならない」
本当に私は駄目ね。この期に及んでまだ自分だけ楽になろうとするなんて。
あの子達は優しい。どれだけ愚かな私でも、死んでしまったら自分達を責めるだろう。
私に何ができるだろうか……
「……祈りが力になるのなら……あなた達の幸福を祈るわ。今の私にできることはそれくらいだと思うから」
「そうか。アルブレヒト達にそう伝えよう。
──愛している。ナディヤ」
ありがとう。こんな愚かな私を愛してくれて。私に魔力は無いけれど、それでも祈ろう。
あなた達が幸せでありますようにと──




