33.愛と狂気
違う、違うと言いながら王妃様はまだ現実を見ようとしない。いえ、もしかしたら今更気付きたくないのかもしれない。自分の過ちに。
でも、そんなこと許されないのよ。
「王妃様。私の性格が以前と変わった気がしませんか?」
「……ずいぶん生意気になったわね」
「一年感情を抑えつけられた反動みたいなんです。私は怒りが溢れてきます。
ではジーク様はどうでした?愛に狂ったジーク様は、私を傷付け続けた学園の生徒や先生達を殺しに行きましたか?
本当に狂気を孕んでいるなら、魔法が解けた後の学園はさぞ凄惨なことになっていたはずですよね。
でも彼はそんなことしなかったでしょう。
……魔法が解けて、ジーク様がしたことはひたすら私に愛を告げることでした。
確かにそれは過剰で、反動があるなんて知らなかった私は、彼の求愛も執着も怖くて仕方がありませんでした。
それでも、私がどれだけ拒絶したとしても暴力的な振る舞いは一切なかったんです。
それ以外は今まで通りしっかりと公務をこなしていたのでしょうし、学園でも穏やかな笑顔でしたわ。
……ねぇ、どこが愛に狂った化物なの?
私みたいにこうやって怒ってもいいはずなのに、彼はひたすら愛するだけ。本当にそれだけで……。
ジーク様の中に狂気なんてないのよ」
自分への嫌悪感はあるから自傷衝動はあったみたいだけど。
あの頃の頭がおかしいかと思った求愛行動が一年分の反動だっただなんて、こんなことを自分で言うのはもの凄く恥ずかしい。
でも、ここまで言わないと理解できない馬鹿がいるのだもの!
「あ、……そんな……ごめ、ごめんなさい、私はなんてことを……」
ごめんなさいと何度も言いながら王妃様は泣き崩れた。
やっと言葉が届いた安堵と、ようやく心からの謝罪が貰えて、少しだけ心が落ち着いた気がします。
「さて、これで全部吐き出せたかな」
「はい。国王陛下、このような機会をいただきありがとうございます。だいぶスッキリ致しました」
「なに。一年分の感情を溜めておくなど心配だったからな。マルティナとの面会も取り付けてある。実はもうこちらに来ているんだ。今日会うかい?」
陛下は仕事が早いなぁ。王妃が出てこなかったら本当に早くに事件が解決してたのでは。
「そうですね、よろしくお願いします」
「では、アルブレヒトに案内させよう。私はまだ王妃と話がある」
「……分かりました。王妃様、ごきげんよう」
王妃様と言葉を交わすのは最後かもしれない。でも、もう言いたいことは全部言ったわ。偽魔法使いの王妃様が今後どうなるかのかは知りません。
私は裁きたいのではなく、罪を認めて謝罪して欲しかっただけだから。
「母が本当に悪かったね」
「……殿下もこれから大変ですね」
「そうだな。まぁ、あの人が寂しがるからとジークに過保護なのを許していた父も悪い。
だが、まさかあんなにも歪んでいるとは思わなかった」
寂しい、か。王妃という位は確かに寂しいのかもしれない。あの方は本来与えられたい人なのでしょう。愛するより愛されたい。尽くすより尽くされたい。
公務はしっかりこなす方だったから誰も気付かなかったけれど、心に狂気じみた愛を飼っていたのは王妃様自身なのでしょうね。
ジーク様の幼い姿に自分の狂気を見てしまったことが、この悲劇の始まりなのかもしれません。
王妃様とジーク様は顔立ちも似てるから。
きっと、ご自分の分身のように愛してしまったのだろう。まあ、本人は否定してたけど。無自覚なところが本当に迷惑な話です。
「母の罪が公になることは無いだろう」
「……はい」
やっぱり。だからこうやって私に断罪の機会を作ってくれたのだろうと思っていました。
学園には多くの貴族子息子女が通っています。そこで起きた事件を自国の王妃がいたずらに拡大させただなんて公表はしないだろうとお父様も言っていました。
「いずれ病という名目で王妃の座を退き北の塔に幽閉される。
もともと父はあと5年位で退位される予定だった。そうしたら母とゆっくり暮らすはずだったのに……
愚かだな。自分のせいで一生愛されない人生を送ることになるなんて」
きっと今頃後悔していることでしょう。
でも、もう誰にもその運命を変えることは出来ない。けれど……
「北の塔では寝覚めが悪いです。離宮での蟄居で良いのではないかしら。公にできないのなら、少しくらい口出しをしてもいいですよね?私の未来の義母でしたから」
「意外と甘いな」
「そうですか?今日一日でずいぶんと発散させていただけましたからね。
反省して欲しいし謝罪もして欲しいです。なんなら閉じ込めておくのも勿体無いから書類仕事でもなんでもさせたらいいとは思ってます。せっかく能力はあるのですから使わないと損ですよ?
でも復讐したいとは思わないですね」
復讐しても私は幸せになれないもの。嫌な記憶が増えるだけだわ。
私はこれ以上不幸になりたくない。
絶対に幸せになると決めたのだから。




