32.母親という魔法
「まぁ、断罪?何かのお芝居かしら」
哀れな子供を見つめるかのような慈悲深い眼差しが気に障る。
「そうですね、空想の物語だったらどれだけよかったかと思っていますわ。
でも残念ながら現実ですの。今回の事件をここまで大事にして下さった影の功労者に文句の一つでも言わないといけないでしょう?」
陛下達はとりあえず見守って下さるみたいね。不敬罪は存在しないものとして言わせていただこう。
「面白いことを言うのね。私に何を言いたいのかしら。
魔法を掛けたのはマルティナ。それに便乗したのは学園の生徒と教師達。
私は何もしていないわよ?」
王妃のくせに何もしていないのがおかしいのだと気付いていないのかしら。
「なぜ何もしなかったのですか?国王陛下に、殿下に関わることだからご自分が責任を持つと言って調査団を管理していたのですよね?」
「まぁ、陛下と仲良しなのね。でもね、残念ながら魔法の調査は難しいの。懸命に頑張った調査員達を責めないであげて?」
信じられない。調査員のせいにするつもり?
「そんなこと考えもしませんでしたわ。だって。すべての罪が王妃様にあるのは明白ですもの」
「……可哀想だと思って優しくしてあげていたら。ずいぶんと生意気を言うようになったみたいね」
あらあら怖いこと。でも脅すということは真実だということよね?
「ふふ、きっと王妃様の教育のおかげです」
あなたの脅しくらい笑顔で躱してみせますよ。だって怒っていいのは私の方だ。
「知っていますか。子供は親の分身なんかじゃないんですよ?」
「……なんですって?」
「ですから、子供は子供。親は親。まったくの別人だということです。ご理解いただけましたか?」
まったく理解出来ていないようね。
内容ではなく、なぜ今そのような話になったかを理解出来ていない。そんな顔。
「なぜこんな話をするか分かりませんか?
王妃様がジークハルト様をご自分の分身のように思っていらっしゃるようなので、その間違いを指摘させていただいたのですよ」
「何を言ってるの?そんなはずないでしょう」
もしかして無自覚だったのかしら。一番迷惑なタイプね。
「では、なぜ殿下の心を決めつけているのです?まさか王妃殿下も魔法が使えるのだと仰るのかしら」
「なっ!私がいつ!」
「『私は母だから分かるのです!』でしたっけ?
凄いですね。母親になると魔法が使えるようですわ。でもそのわりに世間には知られていませんね。もしかして!これも禁忌魔法でしたか?」
あら、陛下と王太子殿下の頬が引きつってるわ。ここまで不敬な発言をするとは思わなかったのかしら。
残念ながら私はとても怒ってますので!
「……私は間違っていないわ。あの子は!私が気を付けてあげないと愛のために他を傷付けることを厭わない化物になってしまうのよ!」
「それこそどこの物語ですか?殿下は確かに溺愛体質ですよ。彼の中で愛はかなりの上位ランクです。
それでも、ジーク様はご自分が王子だという意識を常に持っていました。間違っても愛に狂うような人ではないのです。
婚約者として5年側にいた私が知っていることを、どうして魔法使いの母親は知らないのですか?」
「だから!あなたが理解できないだけよ!!
あの子を愛してるから信じたくないのは分かるわ。でも大丈夫。いつかあなたも子供を産めば分かるようになるわ」
凄いな。見事に話が通じない。
「では、魔法使いの王妃様に質問です。今、王太子殿下は何を思っているでしょうか。母親魔法を使って教えてくださいませ」
「……え?」
「同じ大切なご子息ですよ。もちろん分かりますよね?」
殿下を見てから気不味そうに目を逸らす。
やっぱり分からないのよね。私は分かるけどなぁ。自分の母親がヤバイ人だった!これ一択でしょう。
「おかしいですね。なぜ分からないのでしょう。そうなると、母親はやはり魔法を使えないということですか。
では、王妃様が言う恋愛狂いのジークハルト様は妄想だということです。
そんな妄想の彼を隠す為に調査妨害をしていたのですか?」
「違うわ!本当に分かるのよ!」
どこまで認めないつもりなの。自己暗示でも掛けているのかしら。
「ではなぜジーク様はここにいないの?」
「あの子は……自分の真実の姿を知って傷付いてしまったのよ」
「母上、違いますよ。あなたのその狂った考えのせいで自分の人生を狂わされたことを知って、ジークは出て行ったのですよ」
王太子殿下がとうとう我慢出来なくなったようだ。二人は仲の良い兄弟だから腹も立つだろう。
「……アルブレヒト、何を言ってるの」
自分の息子からの言葉はさすがに心に届いたようです。
「自分の母親に狂ってると言われて平然としていられるとでも?
そのせいで大切な婚約者を傷付けるまでに至ったんだ。あなたの顔も見たくないだろう」
「私は!」
「妨害しただろう?調査を。あいつの残酷な姿を他に知られたくなかっただと?
あなたがそんなことをしなければ、もっと早くに解決出来たんですよ。
そうしたら婚約は白紙になんてならなかったかもしれない。学園の生徒や教師達だって、まだ踏みとどまれる状況だったかもしれない。
狂っているのはジークじゃない。
狂っていたのは、母上。貴方自身です」




