31.愚か者たちの末路
それまでは鷹揚な笑みを浮かべていた国王陛下の瞳が冷徹な眼差しへと変わりました。
「王族に準ずる者への危害だ。重い刑罰を与えたいところだが、魔法が関わっているからそうもいかん。
よってお前達の望みを叶えてやろう。
娘達は皆の意見に染まるのが好きなようだ。
ならば、お前達に足りない清貧と慈愛の心に染まれるように、グラーツ修道院に入ってもらおう。
期限は一年。間違っても寄付などで待遇は変わらぬから無駄なことをしないように。
神に仕える者達の心の美しさに早く染まって、素晴らしい淑女となり、学園に戻れる日が来ると良いな?」
あらまぁ。グラーツ修道院はとても厳しいと有名な場所だわ。
気候のいい場所にあるし、建物も立派で食事などもきちんと与えられる。
ただ奉仕活動が大変なのよね。併設されている治療院の看護補助があるから、入院患者の入浴や排泄のお手伝いとか、令嬢にはかなりキツいと聞いたことがある。
一年は私を虐めた期間かしら。苦痛の中の一年は想像するより長いと感じるでしょうね。
それに、修道院に入ったとなると何かしらの問題を起こした令嬢だという証明になるから結婚が難しくなるわ。
「そんな!一年も修道院に入るだなんて、そこまでの罪ではないはずです!」
「そうですわ!大怪我をしたわけでもなく、少し転んだくらいで!」
やっぱり反省してないのね。そうだと思った。
「なるほど。修道院はそんなに嫌か。では、そのまま学園に通ってもよいが。その代わり制服には『私は虐めをする愚か者です』と書かれたケープを着けさせよう。必ず卒業するまで着続けなさい。もちろん卒業パーティーもそれを着けて出席してもらうぞ。
周囲の人間に貶され嘲りを受ける日々がどれ程辛いか。実際に体験して己の過ちを反省するといい。
抜き打ちで確認に行かせるからな」
『ごめんなさい』……たったこれだけの言葉を言えば済んだことなのに。これで学園卒業すら難しくなったわね。
「教師達は学園を辞めてもらおう。生徒の身分によって指導が出来なくなるようだからな。王族も通う学園ではさぞ大変だっただろう。
代わりに平民が多く通う学校への紹介状を出すから安心するといい」
平民の学校ってまさか地方の町にある学校かしら。お給料がずいぶん減ってしまうわね。
殿下のせいにしたりするから。愚かだわ。
陛下に許しを乞う叫び声が響き渡る。
そう、この期に及んで陛下になのだ。
「陛下、発言をお許しいただけますか?」
「ブリッチェ伯爵、もちろん許す」
ここまでずっと黙って聞いていたお父様が陛下に一礼して皆に向き直る。たぶん、この場にお父様がいた事を忘れていた人もいるだろう。
「この場を借りてお伝えします。今日を以てここにいる方々の家との取り引きはすべて終わらせていただきます。以上です」
「そんな!?なぜそのような!」
「なぜ?ここまで我が家を馬鹿にしておいて取引だけは続けたかったのか?ありえないだろう」
「っ、……すまない!私達が悪かった!!」
やっとだ。自分の身可愛さにようやく謝罪の言葉が出た。でもそれって謝罪じゃないわよね。
「今更だな。今日までにどれだけの時間があった?陛下や娘の話を聞いても謝罪一つ出てきやしない。
保身の為の謝罪は必要ない。そんな信用ならない家とは取引する価値がない。それだけだ」
その後も納得がいかずに騒いでいたが、陛下もお父様もまったく揺るがず、皆泣く泣く帰って行った。
「ブリッチェ伯爵、リーゼロッテ、今回は本当にすまなかった」
皆が出て行った後、陛下と王太子殿下が頭を下げてくれた。
「……王妃様はどうなさったのですか?」
まだ終わっていない。陛下の言葉には返事をせず、今日一番会いたかったお方の名前を出す。
「もうすぐ来るよ。さすがに皆と一緒にはできないから。リーゼロッテ、母がすまないことをした」
「……申し訳ありません。まだ、そのお言葉に答えることができません」
「うん、分かっているよ。それでも言いたかったんだ」
やっぱり兄弟ね。ジーク様と似てる。
「ジークハルト様は今どちらに?」
「あぁ、少しこの国から離れたいと本人から希望があってね。今はギレッセンにいるよ」
「そうなんですね。先日とても綺麗な器をいただいたのですが、送り先がなかったので。
……隣国にいらっしゃるのですね」
いいな、私はこの国を出たことがありません。やっぱり留学って憧れるかも。
「リーゼロッテ!久しぶりね、元気そうでよかったわ。療養に行ったと聞いて心配していたのよ」
王妃様が嬉しそうに入ってきた。いつもと同じ優しい笑顔。この人も、罪悪感などないのだろうか。……魔法にすら掛かっていないはずなのに。
「ご無沙汰しております、王妃陛下」
「まぁ、そんなに堅苦しい挨拶はやめてちょうだい。今日はどうしたのかしら?」
どうしてこんなに美しく微笑むことができるのだろう。この方を怖いと思ったのは初めて。
でも怯んじゃ駄目よ。しっかり目を見て。
「私は……あなたを断罪しに来ました」




