23.小さな贈り物
風が気持ちいい──
王都を離れ、領地に来てすぐに熱を出した。思っていたよりも私は疲れていたらしい。気持ちに引き摺られたのかなかなか熱が下がらず、お母様達を心配させてしまいました。
「私なんかの為に皆を付き合わせてごめんなさい」
領地に着いてすぐそう告げた時、お父様に叱られました。大切な娘をなんかなどと言うのは絶対に許さないと。
優しくておおらかなお父様にこんなにも本気で叱られたのは初めてでした。
それでも、「どうしても私は自分の価値を見出だせない」そう言ってしまったのです。
だって皆が私を嫌っていました。
いくら魔法だからって学園中に嫌われるなんて、私が無価値だからじゃないの?
なぜだろう。弱音がポロポロと溢れて止まらない。ずっとずっと見ないふりをしてきた沢山のものが溢れてしまう。
ジーク様があんなに酷いことをしたのは、本当に疎ましいという気持ちが心の奥底にあったんじゃないかな。
先輩だけが側にいてくれて……でも本当に?先輩は殿下をライバル視していた。彼の思いは殿下の婚約者を奪うことによって得られる優越感なのでは?
ビアンカ達だって謝ってくれて嬉しかった。でも一年間も放っておいたのは私への悪感情があったのでは?
すべてが私に悪意を向けている気がする。蓋をし続けた反動?よく分からない。弱音と一緒に涙も溢れだす。
価値があるから大切なんじゃない。大切だから価値があるんだよ。そう言って、温かい大きな手で頭を撫でてくれた。
幼い子供に戻ったみたい。
ずっと変わらないお父様達だけは信じられる。
心が疲れているから悪い考えになるんだよ。大丈夫、頑張り過ぎただけだ。だからちょっとお休みしよう。
ここにはお前を傷つけるものはないよ。
溜め込んでいた弱音を吐き出し、泣きたいだけ泣いて熱まで出して。なんだかずいぶんスッキリした気がする。
でも、身体は寝込み過ぎてすっかり体力も体重も落ちてしまった。
無理のない程度にのんびりと散歩をすることにした。
少し歩いていくと、庭先で子猫を見つけた。
可愛い!どこから来たのかしら。辺りを見ても親猫の姿が見えない。どうしよう、触っても大丈夫かな。それとも親猫が戻って来る?
しばらく少し離れた場所で様子を見る。
小さな身体でよちよち歩き、みーみーと鳴いている。可愛過ぎてたまらない。
気が付けば1時間は見ていた気がする。体力の落ちた身体が限界を訴えている。でも、子猫のことが心配で動くことが出来ない。
「お姉様、こんなところにいたんですか!」
なかなか戻らない私を探しに来てくれたらしい。ユリアも子猫を見て目をキラキラさせています。
お父様を呼んでくるね!っと走って行ってしまいました。
結局子猫は我が家の一員になりました。
まだ小さい為あれ以上放置すると生命の危険があるからです。今はミルクを飲んでお風呂で蚤取りもしてもらって満足そうに眠っています。
膝の上の小さなぬくもり。癒やされるわ。
「可愛いわね、ミア」
子猫はミアと名付けた。ふわふわで気持ちいい。
「幸せそうね」
「本当に。何か夢でも見ているのかしら」
「あら、違うわ。リーゼが幸せそうよ」
確かに。ミアを膝に乗せて撫でているだけでとっても幸せ。こんなにも小さいのに凄い癒やし効果よね。
「はい、すっごく癒やされます」
「ミアは何もしていないわよね?」
「はい?」
「でも、あなたは幸せになっている」
「……はい」
「幸せなんてそんなものよ。小さな温もり一つで幸せは訪れるの」
驚きました。確かにそうね。ミアは何もしていないし、その身以外は何も持っていません。それでも愛しいと思うし、見てるだけで幸せになる。
「あなたは殿下が一目惚れしたのを呆れていたけど、彼にとっては真実だと思うわ。あなたの笑顔が本当に心に残ったのでしょう。心からの笑顔って素敵だもの。
もちろん、その後はちゃんと沢山話をしたでしょう?それでもずっと仲がよかったのは、あなたの内面も好きになったからよ。
だからあなたも彼のことを愛したのでしょう。それは疑っては駄目よ。あなたはちゃんと愛されていたし、あなたの気持ちもちゃんと届いてたの。
ミアはきっと神様からの贈り物ね。あなたに、ただ、そこにいるだけで愛しいという気持ちを思い出させてくれたんだもの。
出会えてよかったわね、リーゼ」
そこにいるだけで幸せ……
そうね。殿下が魔法に掛けられるまではそうだった。彼が笑ってくれるだけで、側にいてくれるだけで幸せだったわ。
「……ありがとう、お母様」
「あら、ミアのおかげよ。お母様はミアを抱っこして癒やされてるあなたを見て幸せになっているのよ」
どうして忘れていたのかしら。価値があるから好きになるわけじゃないのに。ただ、彼との優しい何気ない日々が愛しかったのに。
穏やかな日々が心に刺さった棘をひとつひとつ抜いて癒やしていく。
私も、魔法に掛かっていたのかしら。




