パン屋のジェイク
今日は宇宙ステーション『高山柳』の探索を行う日。
到着まで少し間があるので、アランは独房に向かった。
「起きているかジェイク?」
「起きているに決まっているさ」
声を掛けて直ぐ、ジェイクが起き上がった。
「起きているに決まっている? 暇だから寝ていても良いと思うけどな」
「敵地で寝てはいられないさ」
「それは不本意だな。パン屋の店主だから朝が早いと言ってくれた方が良かったけどね」
「パン屋か……旦那に聞いたのか?」
「その通りだよ。戦闘中にイーサンから聞いた」
「旦那はまだ俺をパン屋の店主だと思っているのか……」
ジェイクの表情に影が落ちる。
(何故だ? パン屋の店主ではないのか? 何が気に入らない?)
「ジェイクはパン屋の店主ではないのか?」
「昔の話だよ。6年前、第一次宇宙戦争でファングに参加してから一度もパンを焼いた事は無い」
「何故だ? 6年間ずっと休戦状態だったじゃないか?」
「人殺しの作ったパンなんて食いたいやついるか? 俺の手は血と油と硝煙で汚れている。こんな手では、うまいパンを作れないさ」
「そんなの気にする必要はないと思うけどな」
「俺は気にするさ。俺はファングの兵士になったんだ」
「そんなの関係ないだろ? 終戦後にどうするつもりだ? 今はファングの兵士でも必ず戦争は終わる。ジェイクは戦争が終わった世界でどうやって生きるんだ?」
「戦争が終わった世界? 考えた事もなかったな。E.G.に勝利して戦争を終わらせる為に戦っていたのに」
「戦争が終わっても兵士は不要にならない。それでも、他の人生を歩めるなら、俺は兵士なんて止めて欲しいと思っている」
「アランは色々考えているんだな。本当に少年か? こっちが年下みたいだよ」
「残念ながら15才だ。色々考えているのは、今まで出会った人達のお陰だ」
アランは今まで出会った皆を思い出した。
死に別れた者、敵対している者、そして今も仲間として共に戦う者達……
多くの出会いと別れを通して様々な想いを受け取った。
それは、ただファングを憎み、敵を殺す事だけを考えていたアランを確実に変えていた。
「そうかい、良い出会いだったんだな。で、目的は何だ? パンの話がしかたっただけじゃないんだろ?」
「そうだよ。始めに言っておくが、俺達はE.G.軍ではない」
「何を言っている? E.G.軍のエースと一緒に旦那と戦っていただろ?」
「あぁ、元々E.G.軍だからね。でも、正規のE.G.軍ではないのさ。俺達はE.G.とB.o.D.の裏で暗躍する組織を追っている」
「裏で暗躍する組織? 何を言っている?」
ジェイクが戸惑う。
(とぼけている? いや、違う。ジェイクは感情が表情に出やすい)
「その反応。ジェイクは知らないみたいだな。詳細は分からないが、両陣営を影で操っている組織がある」
「どういう事だ? 世界を二分する組織を操る組織だと! そんな事が可能なのか?」
「可能かどうか分からない。だが、両陣営の動きに不審な点がある。だから独自に調べている」
「何故それを俺に言う? 極秘任務ではないのか?」
ジェイクが怪訝な表情をした。
世界を二分する巨大組織の裏で暗躍する組織。
極秘で調べている事を捕虜であるジェイクに話すのは普通であれば考えられない。
だから、ジェイクが怪訝な表情をするのも分かる。
それでも、アランは話しておく必要があると考えている。
下手をすれば、E.G.軍とファングの両軍から命を狙われる可能性があるからだ。
そうなれば、ジェイクも巻き込まれる事になる。
捕虜だったからでは済まされないだろう。
ジェイクもアラン達と一緒に葬られる可能性が高い。
「巻き込んでしまったからだ」
「そんな事を気にしてるのか? 敵なんだ。放置すればよいだろ」
「そうもいかない。世界と敵対しているんだ。俺達と関わった以上、消される可能性がある。それはファングに戻っても同じだ」
「あぁ、そういう事か。事実を知っているかの真偽は関係なく、関わっただけで消されるんだな」
「そういう事だ。今は捕虜扱いだが、不測の事態が起きた時は開放する」
「いいのか? 敵だから見捨ててもいいんだぜ?」
「敵でも見殺しには出来ない。俺の目的は敵の虐殺ではないんでね。窮屈かもしれないが、しばらくはそこで大人しくしていてくれ」
「分かったよアランの旦那!」
ジェイクが力強く言った。
(アランの旦那? 今、アランの旦那と聞こえた気がするが気のせいか?)
「アランの旦那?」
「あぁ、アランの旦那だ。どうやらアラン達と関わった事で、ファングの兵士として復帰は難しいようだ。それなら旦那の部下として働くしかないだろ?」
「それで良いのか?」
「良いよ。イーサンの旦那と再会したら裏切るけどな。それでも良いか?」
「良いよ。元々味方ではないからね。宜しくジェイク。それでは行くよ。そろそろ調査開始の時間なんでね」
「無事を祈ってるよ旦那!」
アランは独房から立ち去った。




