懲罰
アーサー、カーライル中尉、ウォルフ技師長の3人が戦艦フリージアに帰還した直後、艦長のフィオナからブリーフィングルームに呼び出された。
席に着いて直ぐ、艦長から作戦の概要が伝えられた。
アーサー達が不在にしていた間にE.G.軍宇宙艦隊の次の攻撃目標が決定されていた。
攻撃目標はタロースの裏側、月の第二都市アルゲース。
アルゲースはタロースと異なりB.o.D.側とのつながりが強い。
反乱による支援は期待出来ない。
総司令官であるブレナン大将は、解放したタロースの防衛を放棄し、全軍での攻撃を指示した。
タロース防衛の為に戦力を割いたら、最終目標である宇宙連盟ブルーム・オブ・ダンデライオンの本土であるブラック・ダンデライオン侵攻の戦力が不足するからだ。
地球での戦況は思わしくなく、援軍は期待できない。
今の戦力で敵本土の攻略が出来なければ、アースガバメントは全面降伏する事になる。
苦肉の選択。
だが、見捨てられた形なったタロースの市民はブレナン大将の作戦を支持した。
作戦を指揮するブレナン大将から、ファングを打倒し、宇宙をB.o.D.の支配から解放する強い覚悟が伝わったからだ。
出撃は明日。
アーサー達は作戦開始前にギリギリ帰還出来た状況だった。
一通り説明をした後、艦長の表情が険しくなった。
(僕の懲罰についてだろうな……僕がやった事は決して許される事ではないから……)
アーサーはこれから艦長が話す内容が自身の懲罰に関わる事だと予想した。
「フィオナちゃん、俺も聞いてていいのか?」
カーライル中尉が気まずそうに聞いた。
「駄目です!」
「だよねー」
カーライル中尉が席を立とうとするがーー
「駄目なのは呼び方です。艦長かエイベル少佐と呼びなさい。これから話す事は全軍に公開されている事です。カーライル中尉とウォルフ技師長も聞いて下さい」
「はいはい、艦長。俺も聞きますよ」
「一応聞いておくよ。不在だった俺には何の話か分からんがな」
カーライル中尉が再び席に着いた。
「アーサー、今後貴方は暫定的に二等兵として扱います」
「分かりました」
アーサーは頭を下げた。
「おいおい、それは重すぎる罰だろ! 何でこんな事になった!」
「これがブレナン大将の決定です。私も決定を受け入れました」
「何だよそれは! それが必死に戦ったアーサーに、そんな仕打ちをするのかE.G.は!」
「カーライル中尉も侮辱を受けていましたよね。他の兵士が聞いています。上官であっても許される発言ではありませんでした。侮辱罪が適用されます」
「そんなの知るか! 取り消せよ! 俺は年下の後輩が生意気言ったくらいで訴える小物じゃねぇんだよ!」
ドン!
カーライル中尉が立ち上がり、拳を机に叩きつけた。
何を言われてもアーサーは反論をしない。
(ごめんなさいオリヴァーさん……僕は……貴方に酷い事を言った。だからこれは正当な罰なんだ……)
自分の行いがどれほど身勝手で、友軍を危険にさらしたか理解しているからだ。
「貴方が訴えなくても処罰は覆りません」
「なぁ、暫定的にとはどういう意味なんだ?」
ウォルフ技師長が艦長に問いかけた。
「本来の処罰は除籍でした。でも、戦時中の特例として、二等兵として作戦参加を許されました。今後ファングと真剣に戦うなら籍を残すという事です」
「アーサー、何したんだ?」
「僕からはうまく説明出来ないです。正気ではなかったと思うので……」
「私から説明します。友軍兵士への暴言と脅迫。新型機の無断使用。そして、無断出撃で乗員の命を危険にさらしました。規定通りであれば銃殺ですが、幸いにも人的被害が無く、過去の貢献を考慮して除籍処分となりました。後は先ほど説明した通りです」
「くっ、俺が……俺が情けなかったから。俺が止めてれば……」
カーライル中尉が声を震わせる。
無力さを後悔するカーライル中尉を見て、アーサーは申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。
(仕方がない。僕は皆の命を危険にさらした。エースなら……ファングを倒す英雄なら何でも許されると勘違いしていた。英雄なら何でも許されるのは物語の中だけなのにね。そんな簡単な事も分からなくなっていたのか僕は……)
「僕は皆に恨まれても当然の事をしました。謹んでお詫び申し上げます」
「まぁ、整備班は恨んでないだろうけどな」
「えっ?」
ウォルフ技師長の発言が予想外だったので、アーサーは思わず声を上げてしまった。
「何故です? 一番危険だったのは格納庫にいた整備班の皆さんですよ」
「危険なのは承知の上だ。携帯端末の爆発でさえ人が死ぬんだ。チャリムの様な巨大兵器の武装がぶっ飛んだらどうなると思う? 俺達はいつだって命がけだ。そして、お前らパイロットも同じく危険な仕事だって知ってる。出撃っていえばカッコよく聞こえるが、俺達は毎回処刑台に送るような気分で送り出してんだよ。だから、お前らパイロットの我儘は出来るだけ聞いてやろうと思ってる。お前が本気で選んだ事なら恨みはしないさ」
「でも……」
「お前がどう思っているか分からない。でもな、お前は俺達のヒーローなんだよ」
「ありがとう御座います。ウォルフ技師長。最近、整備班の皆と距離を置いてました。戻ったら皆と話をしてみます」
「でも、それっておやっさんの想像だろ? 整備班のみんなが怖がってたらどうするよ?」
「ばかもん! カリバーンを見れば分かるだろ! どれだけ真摯に手をかけているか分からんのか? 俺がいなくても完璧に整備されていただろうが!」
「分かんねぇよ。でも、おやっさんらしくて好感度高いよ」
「おめぇの好感度なんか、いらねぇよ!」
ブリーフィングルームに笑い声が響き渡る。
険しい顔をしていた艦長の表情も和らいでいた。
悲痛な雰囲気は消え、以前の戦艦フリージアの和やかな雰囲気が戻っていたーー




