敵を助けた理由
アランはアーサーとカーライル中尉を連れて格納庫に向かった。
「遅かったな。整備は終わってるぞ」
ウォルフ技師長が腕まくりをした。
「ありがとう御座います、ウォルフ技師長」
「やっぱ気が利くな、おやっさんは」
「おだてても何も出ないぞ」
「残念ながら、僕もお渡し出来るお礼は無いですけどね」
「アーサー性格悪くなったか?」
「素直になっただけですよ。オリヴァーさんこそ、最近ポンコツ感が増してきてると思いますけどね」
「あぁ、やっぱり性格悪くなってるよ。なぁ、アラン?」
「いや、アーサーは事実を言っているだけだと思うぞ」
「アランまで酷でぇな。お兄さん拗ねちゃうよ」
「拗ねてる暇があったら努力しろ! 気が緩み過ぎだ!」
ウォルフ技師長が急に怒り出した。
「ちょっと、おやっさん! そんなに真剣に叱られたら、俺だってへこんじゃいますよ」
「それなら、アーサーにからかわれるくらいが丁度いいって事だな」
「あーっ、おやっさんまで俺をからかうんですかい」
カーライル中尉が肩を落とす。
(ウォルフが急に怒り出したから驚いたが、そういう事だったのか。ウォルフは演技が上手いな)
「どうやら弄られキャラはアーサーからカーライル中尉に変更されたようだな」
「ハイハイ、今後は俺が弄られキャラね。さて、おやっさん乗ってよ。俺の機体でエスコートする事になったからさ」
カーライル中尉がアルダーン・カスタムのコクピットに案内したが、ウォルフ技師長がコクピットに乗り込む直前に立ち止まり振り返った。
「アラン、捕虜に声を掛けてやってくれ。名前はジェイクだ。アランに興味があるってさ」
「ありがとうウォルフ。後で立ち寄るよ」
ウォルフ技師長がアルダーン・カスタムのコクピットに乗り込んだ。
「それじゃぁ、元気でね」
「俺達がピンチになったら駆けつけてくれよ! 期待してるぜ!」
「了解した」
アーサーとカーライル中尉もそれぞれ自機に乗り込み、コクピットのハッチを閉じて、機体をカタパルトにセットした。
格納庫とカタパルトの間の隔壁が閉じ、カリバーンとアルダーン・カスタムがカタパルトで射出された。
(捕虜のジェイクが俺に興味を持ったというが、ウォルフは何を話したのだろう? それに勝手に人の名前を教えた事も気になる。ウォルフが気を許せる相手だったのか? 直接話してみるか)
アランは捕虜のジェイクに会いに独房へ向かった。
*
アランが独房を覗くと中年の男性がベッドで寝ころんでいた。
(この男がジェイク……ファングの兵士……)
どの様に声を掛けようか悩んでいたら、ジェイクが起き上がった。
アランの気配に気づいたのだろう。
「軍艦なのに少年がいる……君がアランか?」
「俺がアランだ」
「本当に少年だったのだな。君の様な幼い子供が相手だったとはね」
「戦うのに年齢は関係ないと思うけど?」
「戦いに年齢は関係ないだろうな。だが、自分の息子と同年代の子供が戦場にいれば気になるさ」
「俺には分からないな」
「年食って子供でもできりゃ分かるさ」
「俺には来ない未来だな」
「そいつは残念だな……」
ジェイクは心底残念そうだった。
(何が残念なのだ? 俺には分からない……)
アランには年を取り、結婚して子供が出来る未来が想像出来なかった。
戦って、戦い続けて、最後は戦場で死ぬ。
最近まで、そういう未来しか考えていなかったからだ。
それ故、ジェイクが孫の顔が見れない祖父みたいな表情をした理由が理解出来ない。
「ところで、俺に何を聞きたい?」
「何故、俺を助けた?」
「分からない」
「分からない? 自分で助けたのに?」
「そうだ。俺が助けたけど理由が分からない」
アランはジェイクの質問に答えられなかった。
わざと誤魔化したのではない。
本当にジェイクを助けた理由が分からなかったのだ。
「戦場で人を殺す事にためらいがあるのか?」
「少しはある。でも敵は撃つ、相手が誰であっても」
「敵は撃つか……なら俺は敵じゃなかったのか?」
「敵じゃ……ない?」
ジェイクの言葉が脳内に響く。
(敵じゃない……それなら説明がつく。だが、ジェイクはファングの兵士だ。どう考えても敵だろ? 俺は何故敵ではないと思ったのだ?)
敵であれば撃っていた。
それは間違いない。
だからジェイクを撃たなかったのは、敵ではないと思ったからだろう。
でも、その理由が分からない。
自分自身の事なのに……
「俺がアランを殺そうとしていたら、アランは俺を撃墜していたのだろう。でも、俺はイーサンの旦那を守る為に自爆しようとした。仲間を守る為に自分を犠牲にした俺は、アランにとって敵じゃなかったんだろ?」
「敵ではなかった? ジェイクが仲間を守ろうとしただけだから?」
「アランはイーサンの旦那と同じで優し過ぎるよ。その甘さは戦場では命取りになる。だから死なねぇように気をつけな」
「敵である俺を心配するのか? 何故だ?」
「大人が子供を心配するのに理由なんてねぇよ。アランだって、更に年下の子供が危ねぇ事してたら心配するだろ? それが敵であるブラック・ダンデライオンに住む子供であっても」
アランは戸惑いを隠せなかった。
(戸惑っている、俺が? ファングの兵士であるジェイクに隙を見せてはならないのに……)
「殺すつもりはない。だが、解放する事も出来ない。しばらくはそこで大人しくしていてくれ」
「分かったよ、アラン」
アランは話を打ち切り、独房から立ち去ったーー




