それぞれの決断
「以上でシニチが残したデータは終わりだね」
崔大佐がモニターの電源を切った。
「簡単には信じられない内容だよ。でも、あの恐ろしかった福山少佐が本気で残したデータだから、本当の事なんだろうな……」
「どうするんだ? 聞いたところで何も出来ないだろ? 今度はE.G.軍と戦うのか?」
アーサーとカーライル中尉は福山少佐が残したデータを見て、E.G.の不正を信じ始めていた。
だが、カーライル中尉の言う通り、どうする事も出来ないのも事実だ。
既に始まっているファングとの戦闘を止める事は出来ないし、E.G.の上層部と戦う事も出来ない。
どう対処してよいのか戸惑いを見せるのも当然だ。
「場合によってはE.G.軍と戦う事もありうるね。でも、出来るだけそういう事態は避けたいのだけどね。反攻作戦の指揮を執っているのはブレナン大将と聞いているが、ファングと真剣に戦う意志がある様に見えるかい?」
崔大佐がアーサーとカーライル中尉に質問をした。
「ブレナン大将は真剣に戦っている様に見えます。僕の意見を取り入れてくれて、月面都市タロースに駐留していたファング第一艦隊を撃退しています。わざと敗北しようとしている様には見えないです」
「俺も同じ意見だな。ブレナン大将だけじゃねぇ、第二艦隊のパウエル中将からも凄い気迫を感じる。わざと負けようとしている様にはみえないぜ」
「なるほど、危機を感じますね」
二人の意見を聞いた崔大佐の意見は、アランにとって意外なものであった。
(大佐が聞いたのは裏切者を探すのが目的ではなかったのか? 何故危険なのだ……大佐なら即答してくれるだろうから、聞いた方が早いな)
「大佐、何故危険なんだ?」
「俺も気になるな。仲間の危機は見逃せねぇからな」
「僕もです。わざと負けようとしていないなら問題ないのでは?」
「もしもアースガバメントそのものがE.G.軍の勝利を望んでいないのであれば、今の反攻作戦に参加した将兵は、政府の意向にそぐわない目障りな存在という事になる。だから何らかの方法で一掃する事を考えているだろうね。ファングを使って壊滅させるか、罪を着せて排除するか……」
「罪を着せる? どうやって? 俺には想像出来ないな」
「嫌な言い方をするが、君なら経験あるよね?」
「くっ」
カーライル中尉が眉を顰め、歯を食いしばる。
過去に所属していた部隊での経験を思い出したのだろう。
知らない内に悪名を背負わされた過去を……
「僕達が罪を着せられるかどうかは分からない。だけど、ファングを使って壊滅させるのは不可能だよ。ここには僕達がいる」
カーライル中尉が醸し出す暗い気分を振り払うように、アーサーが明るい声で宣言した。
「大した自信だね。シニチですら戦死したのに。君はシニチより強いというのかい?」
「強いと言わせてもらうよ」
「傲慢だね。戦場は君一人で御しれるような甘い物ではない」
崔大佐にとってアーサーの宣言は不快であったようだ。
アランから見ても、アーサーの考えは甘いと思うものだった。
それでも、その気楽さが本来のアーサらしさであり、好ましいものだとも思っている。
「傲慢だって分かってますよ。でも、その傲慢を押し通す。僕は英雄なんかじゃない。それでも、僕とカリバーンはE.G.軍の希望だって事には変わりない。だからE.G.軍のエースパイロットとして勝利をもたらす。それが僕の軍人としての仕事です」
「俺も一緒に戦うさ。軍人の先輩としてね。俺には守りたい人達がいるんだ。E.G.軍に疑念があっても、戦う事から逃げらんねぇんだよ」
「そうですか。無謀だと思いますが、覚悟は伝わりましたよ。で、アランはどうするね?」
「俺は大佐と行動を共にする。アーサーとカーライル中尉と再会出来たのは嬉しいけどな」
アランにも戦艦フリージアに戻りたいという思いはある。
だが、福山少佐が残したデータと、ウォルフ技師長に聞いた秘密の謎を調査するには崔大佐と行動を共にした方が効率が良い。
だから、崔大佐と行動を共にする事を選んだ。
「また僕達と一緒に戦って欲しかったんだけどな。元気でねアラン」
アーサーがアランに向かって敬礼した。
「戦艦フリージアには戻らないけど、ファングとは戦う予定だ。だから、これからも一緒に戦おうアーサー」
アランも敬礼をした。
「あぁ。これからも宜しく、アラン」
「でもさ、凛ちゃんには何て言えばいい? 信じてるって言ってたけど、彼女も心配してたと思うぞ」
カーライル中尉がニヤニヤしながら言った。
「凛なら問題ないだろ? 心配しているなら生きてるって伝えといてくれ」
「おいおい、そんな冷たい事を言ってると捨てられるぞ?」
「凛が何を捨てるんだ? 凛がいらない物を捨てても、俺には関係ないと思うが? 捨てるなら分別を忘れるなとでも言っておけばよいのか?」
「あー、とぼけてる? それとも天然?」
「オリヴァーさんが無駄に恋愛に結び付けようとするから混乱するんですよ。そんなに恋愛の話がしたいなら自分でやればいいのに」
「俺はそういうのいいんだよ。さて、帰るとしますか。門限過ぎてるから怒られるだろうけど」
「そうですね。特にオリヴァーさんは艦長から叱られそうですね」
カーライル中尉が落ち込んだ振りをした。
(門限を過ぎているか……門限など無いけどフィオナ艦長には叱られるのだろうな……)
アーサーもカーライル中尉がフィオナ艦長に叱られる姿が想像しているのだろう。
カーライル中尉の隣で笑いを堪えている。
(後はウォルフだな。そろそろ捕虜との話を終えている頃だろう)
「そうだ。帰るときにウォルフを連れて行ってくれ。息子同然の整備班と再会したいって言ってたからな」
「分かったよ。俺が乗せてく。護衛は任せたよアーサー」
「頑張りますよオリヴァーさん」




