大量破壊兵器開発容疑
柳は後悔していた。
あの時、確実に仙李の行動を止めていれば良かった。
研究費用を出した先進国を裏切り、発展途上国の支援を行った事への報復が行われる事は分かっていたのだ。
高田研究所を焼き払った核ミサイルを撃った国は特定出来なかった。
それは当然である。
首謀者は核保有国の全てだからだ。
まるで特定の国家が首謀者であるかのように装い、互いを非難する茶番を繰り返している。
このまま茶番を続けて、世間が忘れるのを待つ算段なのだろう。
『仙李が核兵器を捨てろと言ったから、高田研究所に捨ててやった』
そういう幼稚な悪意で全てを奪われた。
柳は仙李の元に駆けつけようと思ったが、直ぐに断念した。
逆に仙李を苦しめてしまうと思ったからだ。
柳の開発したG.D.アウトバーストで世界を抑え込んでいれば……
柳の提案通り、研究資金の供与を行った先進国にもG.D.ジェネレイターを供給していれば……
柳の提案を受けていれば、この悲劇は防げていたかもしれない。
だからこそ、仙李を後悔させてしまうだろう。
全てを失った仙李が自殺をしないか心配であったが、仙李は何事も無かった様にG.D.ジェネレイターを世界中に広める事に専念していた。
今回は核兵器の保有の有無に関わらず、G.D.ジェネレイターの供与を開始した。
今更制限を解禁しても手遅れと言えるが、それでも仕事に専念する事で、仙李が兎衣を失った苦しみを忘れられるなら良いと思った。
以前と変わったのは、仙李が利益を重視している事だ。
先進国へのG.D.ジェネレイターの供与で、再び貧富の差が開き始めたが、仙李は支払いが良い相手を優先させた。
金払いが良ければ国家でも企業でも関係ない。
そうして得た利権は莫大であった。
仙李がどれだけの資産を築いたか正確には分からない。
だが、柳が共同開発者として得た利益から推測すると、国家予算に匹敵するだろう。
そんな仙李に対して世間は冷たかった。
人々は仙李を金の亡者だと批判し始めた。
(自分勝手だな……誰も仙李と兎衣を守らなかったくせに。自分達の事しか考えていない。仙李、これが俺達が守ろうとした世界なんだよ……)
柳は仙李を擁護しようと考えたが、ニュースで見る仙李はそのような批判を気にも留めていなかった。
「いずれ分かってもらえますよ。私の目指す未来の素晴らしさを!」
画面の向こう側で笑顔を見せる仙李に、柳は一抹の不安を覚えたーー
*
高田研究所が消失してから3年。
柳は以前と変わらず研究に没頭していた。
変わった事と言えば、コーヒーを飲む量が増えた事だろうか。
元々、兎衣が好きで飲み始めたコーヒー。
柳は、はちみつを入れるのが好きだったし、仙李は砂糖とミルクを入れないと飲めなかった。
だけど、兎衣の好みに合わせて、仙李と競ってブラックコーヒーを飲む様になった。
昔は少ししか飲めなかったが、今ではコーヒーはブラックで飲むのが当たり前になっていた。
コーヒーを飲んでいる時だけが、幸せだった時間を思い出させてくれる……
(研究所が騒がしい。何事だ?)
柳は研究室の外が騒がしい事に気付いた。
「何だ! 君たちは! 柳君に何の用だ!!」
部屋の外からアークライト教授の叫び声が聞こえた。
(珍しいな。アークライト教授が叫んでいる。俺が原因のようだが……)
柳が部屋を出ると、アークライト教授が警察官と思われる人達と揉み合っていた。
「何をしている! 教授を離せ!!」
「柳博士。貴方には大量破壊兵器開発の容疑がかけられています。ご同行願えますか?」
「大量破壊兵器だって……」
柳の頭にG.D.アウトバーストがよぎった。
(俺の開発した大量破壊兵器。それを知っているのは仙李と兎衣の二人。兎衣はもういない……仙李の仕業か?!)
「どうやら心当たりがある様ですね。連行しろ!」
柳の反応を見て、警察は柳が大量破壊兵器開発に関わっていると確信したのだろう。
「待て! 待ってくれ!!」
「押さえつけろ!」
「柳君!!」
柳は警察官に抵抗したが、あっけなく押さえつけられてしまった。
アークライト教授も助けようとしてくれているが、警察官の腕力には敵わない。
柳は仙李が何をしようとしているのか気付いていた。
仙李は、柳が本当に大量破壊兵器を開発したという証拠を公表していないのだろう。
公表していれば、警察が最初に同行という緩い対応を行った事の説明がつかない。
仙李の目的は、柳を拘留する事で罪がかからない様にする為であろう。
それは、仙李がG.D.アウトバーストを使用して世界に敵対する事を意味する。
(俺はお前まで失いたくない! 今度こそ俺が止めなければ!!)
だが、柳の腕力では及ばなかった。
抵抗空しく、警察官に両脇を抱えられ連行された。
「頼む! 待ってくれ!! 仙李が! せんりいいいい!!」




