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白銀のシンセシス  作者: 大場里桜
余話:ここにいるよ
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ここにいるよ

 復讐の準備が整った。

 準備には、この3年間で集った同志達が手伝ってくれた。

 仙李以外にも、国によって大切な者を奪われた人々は大勢いたのだ。

 既に大量破壊兵器G.D.アウトバーストの配備は完了している。

 唯一仙李を止められる可能性がある柳は拘留中だ。

 もう、仙李を止められる者は存在しない。

 仙李は世界中に宣戦布告を行った。


「私は高田仙李。愚かな人類を裁く者である。私は悪意にまみれた世界の全てに宣戦を布告する! 手始めに核保有国の全てを滅ぼす。3年前愚かにも核兵器を使用した事を後悔するがいい!」


 仙李の宣戦布告は世界中に伝えられた。

 だが、誰一人真剣に受け止める者はいなかった。

 ただの一個人に何が出来る?

 世間は仙李の宣戦布告を嘲笑ったが、仙李にとっては想定通りの反応であった。

(最初に恐怖を味わってもらおう。いきなり殺しても面白くはないからね)

 仙李はG.D.アウトバーストを起動した。

 世界中の核兵器を保有している軍事基地が白銀の光に飲み込まれて消滅した。

(軍事基地が消滅した事を知れば、俺が本気だったという事が分かるだろう。今頃、恐怖におののいて、責任の擦り付け合いをしているのだろうね。もう少し醜く狼狽えていてもらいたいが、逃がしてしまっては元も子もない)

 仙李は再びG.D.アウトバーストを起動した。

 世界中の核保有国の首都が白銀の光に飲み込まれて消滅した。

 この時点で世界中の人々が、仙李が使用した大量破壊兵器の威力を知った。

 そして恐怖した。

 高田博士は本気で人類を滅ぼす気なのだと……

 世界中の軍隊が高田博士を討伐する為に日本を目指した。

 侵攻を始めたのは先進国だけではない。

 ターゲットにならなかった非核保有国も含めて、全ての国家が高田博士討伐軍を編成した。

 G.D.アウトバースト起爆から12日後。

 遂に高田博士討伐軍が日本に上陸した。

 この12日間、仙李は何も行動を起こさなかった。

 何もしなかった理由はただ一つ。

 人類最後の核兵器を搭載した原子力潜水艦を誘き寄せる為だ。

 日本侵攻が始まれば、普段は居場所が特定出来ない原子力潜水艦を、太平洋か日本海のどちらかに誘き寄せられる。

(ここからは持久戦だ。補給で姿を現すまで見学させてもらうよ)

 日本に上陸してきた高田博士討伐軍が無差別に人々を殺し始めた。

 討伐軍は大量破壊兵器への恐怖で、明らかに正気を失っている。

(俺の研究所が標的となった時、迎撃ミサイルは一基も起動しなかった。日本もグルだったって知っているのだよ。さぁ、核兵器が無い平和な世界への代償を払ってもらうぞ!)

 仙李は潜伏先の富士山山頂で日本が蹂躙されていくのを眺めていた。

 平和に生きていた市民達が、仙李と同じ日本人というだけで殺されてていく……


『ねぇ、仙李。これで良かったの?』


 不意に聞こえた兎衣の声。

 これは幻聴だ。

 兎衣の声が聞こえるはずがない。

 兎衣は殺されたのだ、この世界の全てを満たす悪意によって……

 仙李は迷いを振り払うように叫んだ。


「当然だ! 奴らは報いを受ける必要がある! それだけの罪を重ねたのだ!」

『本当に? 今死んでいる人達に罪があるの?』

「あるさ! 奴らは俺達が掲げた平和を否定したのだ! 奴らは自らの欲を満たさない存在を否定する汚い生物だ!」

『本当に? しっかり見たの? 大切な人を守る為に必死だよ』

「身内だからだろ? 兎衣の事は守らなかった! そんな奴ら俺には必要ない!」

『必要ない者は見捨てるの? それって、彼らが私達にした事と同じじゃない?』

「同じではない! 私はアイツらも守ろうとした! 世界は平和になれたんだ! それをアイツらが台無しにしたんだろ!」

『そうだね……でも、一回失敗したくらいで諦めるの? 私は失敗しても諦めない仙李が好きだった……』

「諦めるさ! 俺が諦めなかったのは兎衣に認めて欲しかったからだ! もう努力する意味なんてないんだよ! 兎衣を奪った世界など滅べばいい!!」

『ならどうして苦しんでいるの? どうして彼らから目を背けるの?』

「それは……」


 兵士に撃たれた女性が兎衣に見える……

 戦車に踏みつぶされた男性が柳に見える……

 殺され続けている人々が、他人だとは思えず心が引き裂かれそうだった。

 自分の大切な人達を殺されている様で、直視する事が出来なかった。


『仙李は優しいから。本当は辛いんだよね?』

「俺は……もう……何も出来ない。全てが手遅れだ……」

『まだ出来る事があるよ。仙李なら出来るから!』

「僕は何を間違ったんだろうね?」


 虚空を見つめながら呟いたが、もう幻想の兎衣は答えてくれなかった。

(最後は自分で決めろって事か……そうだよな。これは俺が始めた事なのだから……)

 仙李が潜伏している富士山の山頂は3人の思い出の地であった。

 3人の中で最も優秀だった柳を日本一にしようと言って、高校生の時に登った。

 日本一高い処に生える『柳』だと3人ではしゃいだのが楽しかった。

(あの時は3人だったけど、今は俺一人か……でも、それで良かった。こんな事に大切な仲間を巻き込まなくて……)

 仙李は自撮りした写真に一言添えてSNSに投稿した。


『ここにいるよ』


 原子力潜水艦から核ミサイルが放たれ、富士山頂に降り注いだ。

 仙李は、その命を標的にする事で人類最後の核兵器を消し去ったのであったーー


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