平和を願った代償
柳が高田研究所を去ってから1年。
遂にG.I.N.ダイヤモンドを使用した動力機関、G.D.ジェネレイターの開発に成功した。
仙李は発記者会見を行ったが、会見の内容について賛否両論であった。
それは仙李が提示したG.D.ジェネレイターの利用条件が原因であった。
『核兵器の撤廃』
そのたった一言が世界を混乱に陥れた。
だが、仙李は迷わなかった。
何度となく叫ばれても、一度も実現していない核兵器の撤廃。
それを仙李は成し遂げようとしたのだ。
(柳は新しい大量破壊兵器を生み出したけど、俺達が生きる世界にそんな物は必要ないんだ。見ているよ柳! 俺は核兵器も根絶して、世界を平和にして見せるさ!)
*
G.D.ジェネレイター発表から半年。
仙李の提案に賛同する国家は、G.D.ジェネレイターの恩恵で経済成長率は400%を越えた。
それは当然の結果といえる。
エネルギーのクリーン対応への経済負担が深刻であった世界で、エネルギー利用の経済負担が実質0になったのだから。
逆に、核兵器を保有している先進国は、G.D.ジェネレイターへの非難を強めていた。
発展途上国との経済格差が大幅に縮まっているからだ。
今の状況が続けば、あと2年で追いつかれるだろう。
遂に世界の全てが平等になる。
仙李は更に多くの賛同者を集める為、世界各国を飛び回っていた。
そんな仙李の元に予想外の嬉しい来訪者が現れた。
親友の柳だ。
彼は仙李が高田研究所にいる日を狙って、帰国して来ていたのであった。
仙李が部屋に招き入れると、柳はすぐにソファーに寝ころんだ。
以前と変わらない柳の態度に懐かしさを感じた。
「何をしてたんだい? 連絡をよこさないから心配してたぞ」
「私は挨拶なしで夜逃げしたの許してないからね! 今日は説教3セットだからね!」
「何って? 宇宙開発の研究だよ。説教はコイツで勘弁してくれ」
柳が兎衣に土産を渡した。
「これはアメリカのアニメね。こっちはイギリス! 気が利くわね柳! 少し見てくるね。ちょっとだけだから!」
兎衣が退出していった。
「兎衣は変わってないな。今夜は部屋から出てこないかもな」
「いいのか柳? 久しぶりに会ったのに話が出来なくても」
「いいよ。別に二度と会えなくなるわけではないし」
「でも、柳が宇宙開発か……驚いたよ」
「お前のせいだろ。宇宙が好きな仙李少年は何処にいった?」
「そうだったな。俺が宇宙を目指そうって誘った。それより、友達出来たか? 寂しかったら戻って来いよ」
「仙李のご想像通り友達はいないよ。でも、今はアークライト教授と研究してるから寂しくはないさ。覚えているか?」
「アークライト教授だって! 僕らの憧れで、宇宙開発の第一人者じゃないか! 羨ましいな!」
「そう思えるのは直接会っていないからだ」
「何があった?」
「カーボン板を恍惚の笑みを浮かべながら撫でていた」
「なんだよソレ。それで柳はどうしたんだよ」
「立ち尽くしていたよ。そしたらさ、新開発のカーボン板だよ。君も愛でてみるかいって言ったんだぜ!」
「キツイなソレ。俺の夢を壊すなよ! で、本題はなんだ?」
仙李は真剣な眼差しで柳を見た。
仙李の覚悟を感じた柳が、意を決して本題について話始めた。
「今すぐG.D.ジェネレイターの使用制限を無くせ!」
「それは核保有国にも分配しろって事かい?」
「そういう事だ。忘れたのか? 俺達の研究費用を負担したのが誰なのか」
「覚えているさ。先進国の全てが支援者だ。核保有国も多い。それが何か?」
「何かじゃないだろ? 研究費を払って研究成果が得られなかったら、どう思う? それどころか、世界のリーダーとしての立場を失っている。追い詰められた各国の指導者達が、何をするか分からない。危険を理解しているのか?」
「危険は理解しているさ。でも、何かを成し遂げるのにリスクは必ずあるだろ?」
「あるけど……俺はそのリスクの中に、お前達の命が入るのであれば阻止したい」
「柳は大げさだよ。世界各国を飛び回っている俺は暗殺されるかもしれない。でも、日本にいる兎衣や、関係ない柳には迷惑をかけないよ」
「関係ないか……その通りの様だな。わりぃ、言い過ぎた」
「別に気にしないさ。俺達3人は仲間だろ?」
「あぁ……」
その後、柳は黙ってしまった。
そんな柳を仙李はそっとしておいた。
なぜなら、柳が黙った理由に気付いていたから。
彼が黙ったのは仙李の手元を見た後からであった。
仙李の指にはめられた指輪が彼を黙らせてしまったのだ。
(関係ないって、そういう意味じゃないんだけどな。でも、柳をG.D.ジェネレイター関連のトラブルに巻き込みたくないから、これでいい……)
そして、柳は再び高田研究所を去っていったーー
*
柳と再会してから半年、恐れていた日は突然起きた。
仙李は訪問先の空港で子供たちにサインをせがまれて、飛行機に乗り遅れてしまった。
1日長く滞在したところで次の予定に問題はなかったので、乗り遅れた事を気にしなかった。
だが、翌日に仙李の人生は一変していた。
その日、高田研究所に多数の核ミサイルが撃ち込まれたのであった。
研究所だけではない。
高田研究所の為に新設された空港、工場、更に親交があった知り合いの研究所……
全てが一瞬で焼き払われた。
仙李はあらゆる伝手を頼って研究所を目指した。
研究所の周辺は、見渡す限り焼けただれて建物の面影はなかった。
今だに放射線濃度が高く危険ではあったが、仙李は気にせず足を踏み入れた。
(銀ダイヤ……あれが反応する周波数の電磁波を照射すれば……見えた!)
仙李は弱々しく輝く白銀の光を目指して走った。
そして、すすの中から小さな宝石を手に取った。
初めて電子レンジの残骸から拾った時と同じように、白銀に輝く兎衣の銀ダイヤ。
それは兎衣がこの世に存在しない事の証明であったーー




