手折られた希望
「おやおや、無視ですかイーサン様。貴方の考えは読めておりますよ。これ以上、閣下の邪魔をしないで下さい」
ギルモア博士がイーサンに問いかけた。
どうやら直ぐに攻撃を仕掛けてこない様だ。
「それは出来ない。お前とネイサンの会話は聞こえていた。俺を生かしておいたのは間違いだったな」
「馬鹿ですねぇ。貴方を生かしておいたのは、戦況に影響がないからですよ。私の機体を使っておきながら負け続けではないですか。あぁ、実に情けない」
「情けなくはないさ。相手が凄かっただけだ」
「その凄かった相手も、直ぐに閣下の親衛隊に駆逐されますよ」
「それはどうかな? 今までの戦いで成長した俺達なら切り抜けられるさ!」
「諦めてもらえませんかね? 閣下との会話が聞こえていたなら分かりますよね? 邪魔をすればイーサン様を殺す事になりますよ」
「諦めるのはギルモア博士。お前の方だ! リベレスティンの性能は知ってるだろう? その程度の戦力で俺を殺せると思っているのか?」
「リベレスティンの性能……知っていますとも。イーサン様より遥かにね。それは私が作った。その意味を、まだご理解して頂けていないようですねぇ」
「理解しているさ。俺とアランがリナリアを落とす! アマンダとジェイクは援護に徹しろ! 行くぞアラン!!」
イーサンが戦闘指示を出した。
敵は戦艦リナリアと親衛隊仕様のリベレーン8機。
対して、こちらはシンセシスー2、リベレスティン、アルダーン、リベレーンVEの4機。
戦力的には劣っているが、ここで負ける訳にはいかない。
敵戦艦のリナリアから砲撃が始まり、アラン達は避けたが、イーサンのリベレスティンは動かなかった。
「イーサン!」
アマンダのリベレーンVEがリベレスティンに抱き着き、砲撃の射線上から移動させた。
直撃は避けたが、アマンダのリベレーンVEが半壊した。
このままでは、半壊した機体が誘爆して死ぬ可能性がある。
今すぐ脱出する必要があるが、それを敵が待ってくれるとは思えなかった。
「何してやがるイーサンの旦那!」
「叫んでないでイーサンを援護しろ、ジェイク!」
「だいじょう……ぶ……イー、サン?」
「何をしているアマンダ! 脱出しろ!!」
「出来……ない。言ったで……しょ……貴方を……守るって!」
アマンダのリベレーンVEがリベレスティンを抱えて脱出しようとする。
「何なんだ! 動け! 動けよおおおお!!」
イーサンの叫びだけが空しく響いている。
今、敵のチャリム部隊に接近される訳にはいかない。
アランはシンセシス・ライフルのけん制射撃で敵機を遠ざけた。
「これは想定外ですねぇ。今ので死んで頂けたと思ったのに」
「何をした! ギルモア!!」
「リベレスティンを停止させただけですよ。イーサン様は知っていたのでしょう? 知ってるって言ってましたよね、リベレスティンの性能を! <タカネ>ですら操作出来るのに、高々チャリム一機程度操作出来ないと思っていたのですか? 私の創作物が、創造主の私に逆らえるはずがないでしょう? ヒントはいくらでもあったのに間抜けですねぇ。だから貴方は閣下に及ばないのですよ」
ギルモア博士からの通信で、リベレスティンが停止した理由が分かった。
それは最後の希望が断たれた事を意味する。
もう、アラン達には<タカネ>を止める事は出来ない。
(出来る事は生き延びる事だけか……それも難しそうだがな。もうイーサンは戦えない……それなら!)
「ジェイク! イーサンを連れて撤退しろ!!」
「出来るか! アランの旦那一人でどうするんだよ!!」
「いいから行けぇぇぇぇっ!」
「くそぉ!」
「誰でもいい! アマンダを助けてくれ! 俺は見捨ててもいい! だからっ!!」
ジェイクのアルダーンが、リベレスティンを抱えたアマンダ機を援護しながら撤退していったーー
「最高でしたよイーサン! 彼から救いを懇願する声が聴けるとはねぇ。通信機能は停止しなくて正解でしたよ」
「お前は何の為にここに居る?」
「閣下の崇高な目的の為に……なぁーんて言わないさ! 君たちの様な劣等種が足掻く姿をあざける為ですよ。面白いですよねぇ。希望を持った若者の心をへし折るのは!! イーサン様は無様な英雄ゴッコを見せてくれましたが、残った君はどの様な役割を見せてくれるんですかねぇ?」
アランの役割……
アランは英雄ではないし、軍人とも言い切れない。
(俺はもう戦いたくはなかった……それでも、コイツの様な悪党を放置出来ないという思いはある。憎しみを生み出す敵を討つ。それしか、俺には出来ない……)
「俺は……俺は……敵を討つ!」
「敵ってなんですかぁ?」
「俺の敵は、憎しみを生み出す者全てだ!!」
「それは人類全てを滅ぼすって事だよ。他者を憎まない人間は存在しないって知ってるぅ?」
「それでも! 俺は俺にとっての悪を滅ぼす!!」
「出来ると思うなよ小僧! 親衛隊! さっさと叩き潰せ!」
敵のチャリム部隊がシンセシスー2への攻撃を開始した。




