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白銀のシンセシス  作者: 大場里桜
前編:Grayish future
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絶望の鳴動

 ブラック・ダンデライオン<タカネ>がアース・ガバメント傘下に入る事を宣言する日になった。

 <タカネ>自治区代表パトリック・アームストロング議長とパウエル中将が式典会場に登壇した。


「まず、言わせていただきたい。私はアース・ガバメントの存在を全面的に認めてはいない。宇宙の民を蔑ろにしたのを許す事は出来ない。それ故、宇宙同盟ブルーム・オブ・ダンデライオンの樹立は必然であった。だが、地球に侵攻したのは過ちであった。対話で解決すべきだったのだ。野蛮な侵略などしなくても問題を解決出来たのだ。善良で崇高な我ら宇宙の民なら!」


 アームストロング議長の演説を聞いて盛り上がった民衆によって、会場が拍手の音で埋め尽くされた。


「今日、我らは無益な戦いに終止符を打つ! アース・ガバメント傘下でも<タカネ>の民の人権は保障される。取り急ぎ食料の輸入を再開する予定である」


 アームストロング議長の食料輸入再開の宣言を聞いた民衆が更に沸き立つ。

 6年前の第一次宇宙戦争『灰かぶりの夏』以降、食料難に苦しまれれてきた宇宙の民にとって、食料の輸入再開は最も望んだ事であったからだ。


「宇宙同盟ブルーム・オブ・ダンデライオンが<タカネ>を攻撃する可能性があるが安心して欲しい。ファング第四艦隊がE.G.軍宇宙艦隊と共に退けーー」


 突然の衝撃が走り、アームストロング議長は演説を止めた。

 揺れ動く大地に怯え、狼狽える民衆。

 民衆が狼狽えるのは当然といえる、宇宙空間に浮かぶ人口の大地であるブラック・ダンデライオンには地震がないのだ。

 初めて感じた大地の鳴動は住人達を恐怖に陥れた。

 いち早く行動したのは、地球育ちで地震に耐性があるパウエル中将だ。

 部下に状況を把握するように指示を出した。

 <タカネ>の外で襲撃を警戒していた宇宙艦隊からの報告で、<タカネ>が地球に向けて移動をしている事が分かった。

 事態を把握したアームストロング議長は緊急事態宣言を発令して住人を避難させた後、パウエル中将と共に<タカミ>のコントロールルームへ向かった。


「何故だっ! 何故制御出来ない! <タカミ>の機能は全てコントロールルームで制御しているのではないのか!?」


 アームストロング議長がコントロールルームの職員に向かって怒鳴った。


「出来ないんですよ! 故障じゃないんですか! でなければ操作を受け付けない理由が分からない!」


 アームストロング議長が相手でも、コントロールルーム職員は苛立ちを隠さなかった。

 表向きはアース・ガバメント傘下に入ると言っておきながら、友軍が来るまで時間稼ぎをしているのではないかと疑っていたパウエル中将も、演技ではなく本当に異常事態が発生していると理解した。


「アームストロング議長、他に制御する手段はないのですか? 我々に手伝える事が御座いましたら、遠慮なく申し出て下さい」

「申し出は有り難いのですが、どうすれば良いのかーー」

「アポジモーター止まりません! 地球方面へ移動を続けています!」


 コントロールルームの職員の叫びがアームストロング議長の会話を遮った。


「叫んでないで対処しろ! 緊急避難システムを作動させろ! 住民だけでも避難させるのだ!」

「緊急避難システム作動しません! 住民達がシェルターに閉じ込められました!」


 シェルターの出入り口がロックされ住民達が閉じ込められてしまっている。

 市民の安全を守るはずのシェルターが、逃げ場のない牢獄となってしまった。


「何をしている!」

「何もしてませんよ! 前方に宇宙要塞ヘカトンケイル! このまま進めば激突します!」

「何だと! 回避しろ! 急げ!」

「だから動けないんですって!」

「くっ、アレは大きすぎてE.G.軍宇宙艦隊でも完全に破壊出来ん! どうする議長?」


 パウエル中将がアームストロング議長に問いかけた。


「どうも出来ない! 逃げて下さい! 宇宙戦艦なら脱出可能でしょ!」

「議長は脱出しないのですか?」

「住民を見捨てて逃げられない! 私は彼らの代表なのだ!」

「駄目です! 間に合いません!」


 パウエル中将は自分一人で逃げず、<タカネ>の住民を救おうとしているアームストロング議長が立派だと思った。

 だが、全て手遅れだった。

 既に宇宙要塞ヘカトンケイルが目前に迫っている。

 ブラック・ダンデライオンは、多少のスペースデブリが直撃しても問題ないよう頑丈に作られている。

 それでも、全長10kmの宇宙要塞ヘカトンケイルに激突して耐えられる強度は無い。

 コントロールルームにいる全員が最悪の事態を想像した。

 だが、想像とは違った形で最悪の事態は起きた。


「緊急避難システムが作動しました! A1、B3区画が射出されます!!」


 コントロールルームにいる全員がモニターを注視した。

 タンポポが綿毛を飛ばす様に居住区の一部が放たれ、宇宙要塞ヘカトンケイルに突き刺さった。

 そして、居住区の直撃により破砕された宇宙要塞ヘカトンケイルの残骸が、<タカネ>の進路から逸れていった。


「バカな! 居住区には避難した住民がいたんだぞ! こんな事が……こんな事が許されてたまるかあああああ!」


 アームストロング議長が叫んでも、<タカネ>の暴走は止まらない。


「ファングの基地に通信を繋げろ! これよりE.G.軍宇宙艦隊はアポジモーターを破壊して<タカネ>を止める! 戦える兵士は我らに続け!」


 パウエル中将はファングの兵士に呼びかけた後、戦艦バルムンクが停泊している基地へ向かった。

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