走馬灯よりは緩やかに
「イーサン! こっちです!」
通路の先の道路に停車しているEVの運転席からアマンダが呼んでいる。
イーサンがEVに駆け込むと同時に急発進した。
「待てアマンダ。他の兵士達を置き去りにするのか?」
イーサンは運転席のアマンダに問いかけた。
「イーサンの救出が最優先です。首謀者のいないクーデターは失敗ですからね」
「何故俺が首謀者なんだ? そもそも俺は指示を出していない」
「指示を出していなくても、支持はされているんですよ。皆がイーサンの帰還を望んでいます」
「何が起きている? ファングを解体するとはどういう意味だ?」
「閣下にとって、目的を果たせなかったファングは不要だという事です。ファングを解体して、閣下直属の親衛隊の配下に再編成するとの事です」
「そんな事を言えば混乱するに決まっているだろう! 何を考えているんだアイツは!」
「イーサンが分からなかったら誰も分かりませんよ。家族でしょ?」
「分からないさ。俺は何時でも蚊帳の外だった。アークライト家に馴染めてない事くらい知ってるだろ」
「そうですか……でも、今後については決めて頂きますよ。私達、第一艦隊が従うのはイーサンだけです。着きましたよ」
ファングの基地についた後、そのまま停泊していた戦艦ルナリアに乗り込んだ。
そして、艦隊の指揮を執る為にブリッジに入室した。
直ぐに指示を出すべきであったが、イーサンは何を指示すべきか迷った。
選択肢は二つある。
一つは、このままネイサン・アークライトの本拠地であるブラック・ダンデライオン<セイヨウ>を占拠してクーデターを成功させる。
もう一つは、ブラック・ダンデライオン<タカネ>に向かいネイサン・アークライトの計画を止める。
(<セイヨウ>で戦えば<タカネ>の人民と地球を見殺しにする事になる。だが、<タカネ>を止めればクーデターは失敗して多くの将兵を死なせる事になる。俺が選ぶべきは……)
「迷わないでイーサン。私達は覚悟を決めているから。何があってもイーサンの理想に殉じるってね」
アマンダに背中を押され、イーサンは決意を固めた。
(情けないな……即断出来ないとはね。迷うなイーサン! ファングが設立された意味を思い出せ! 答えは最初から出ている!!)
「ファング第一艦隊は<タカネ>に向かう。ネイサン・アークライトが<タカネ>の緊急脱出システムを悪用して地球に打ち込む事を画策しているからだ。ファングとはブラック・ダンデライオンを守る獅子の牙! 宇宙の民を守る為の存在! ここで<タカネ>の民を救えなければ存在する価値が無い! 全艦出撃!!」
イーサンの宣言を受けて、ファング第一艦隊が<タカネ>に向かって出撃を開始した。
イーサンは<タカネ>への航行を艦長に任せて、指揮官室で休む事にした。
*
「イーサン、今話せる?」
「開いてるぞ、どうした?」
イーサンはベッドに寝ころんだまま答えると、アマンダが指揮官室に入室してベッド脇に座った。
「大丈夫?」
「いきなり大丈夫とか言われても意味が分からないけど?」
「イーサン、無理してるでしょ?」
「無理をさせられてるよ。気が付いたらクーデターの首謀者にされていたのだからな」
「そういう意味じゃないわよ。皆の前ではカッコイイ事言ってたけど。本当は迷ってるでしょ?」
「迷っていない……とは言えないな。俺は甘かった。戦争だから戦死する事は普通だと思い込もうとしていた。でも、バリーが……身近な人が戦死して怖くなった。アマンダは怖くないのか?」
「怖いわよ。でも、今の世の中で安全な場所なんてない。それなら、自分の意志で戦える場所に居たいと思った」
安全な場所などない……それでも、アマンダなら戦いとは無縁の場所で生きる事も出来たはずだ。
妹のケイシーの様に。
それでも自分の意志で戦う事を選んだの凄いと思った。
「それが、ファングに志願した理由か? 理想を叶える為の功績が欲しかった俺とは違って立派だな」
「そんな事はないですよ。イーサンの理想に共感したから、第一艦隊の皆はここに居る。それにファングに志願した理由は違う理由だから」
「違う理由?」
「個人的な理由よ」
「父親の影響か?」
「イーサンには早かったかな? まぁ、分からないなら良いけど」
アマンダが嬉しそうに言った。
イーサンにはアマンダが嬉しそうな理由が分からない。
(何故だ? 理解されていないのに嬉しいのか? この戦いで人生が終わるかもしれないんだぞ?)
「この戦いで俺は生き残れない……それでも、皆を守ってみせるよ」
イーサンは死を覚悟している。
<タカネ>の中枢システムがある区画まで侵入した後、脱出出来る見込みはない。
(多くの兵を死なせてしまった……それなのに自分だけ生き残れるとは思わない)
「大丈夫、イーサンは私が守るから。リベレスティアは修理が終わらなくて動かせないけど、リベレーンVEで出撃するから」
「無理はするなよ」
「それはイーサンもですよ。そう言えば、小学校に入学した時もねーー」
気が付いたら昔話を始めていた。
死ぬ間際の気分になると、過去に思いを馳せてしまうのだろう。
イーサンはアマンダと過ごした日々を次々に思い出していった……




