クーデター
イーサンは目を覚まして周囲を確認した。
周囲には昔遊んだ玩具やバーベキューセットが置かれていた。
(ここは別荘の倉庫だな。どれだけ時間が経った? 早く抜け出して暴挙を止めなければ)
イーサンは押し入れから抜け出せる方法がないか確認した。
ドア、窓、排気口……全てが完全に塞がれており、自力で抜け出す事は出来なかった。
(無様だな。アランに負け、アーサーにも負け、上層部の悪事を知りながら、閉じ込められて何も出来ないとはね)
今のイーサンには何も出来ない。
床に仰向けに寝転がり、自分以外にネイサン・アークライトの計画を止められる存在がいないか考えた。
<タカネ>の移動を封じるには、初動の段階で推進装置であるアポジモーターを破壊する必要がある。
事前に知っていれば動き出す前に破壊可能だが、今の疲弊したE.G.軍宇宙艦隊では破壊に手間取り、対応が間に合わないだろう。
一度動き始めてしまったら止める事は不可能だ。
最も火力が高い宇宙戦艦の主砲であっても、全長50kmの構造体を止めるだけの力はない。
止めるには、地球に辿り着く前に緊急避難システムを作動させて<タカネ>を分離させる方法しかない。
だが、緊急避難システムもアークライト議長によって封じられるだろう。
外部からの制御は受付ないだろうし、<タカネ>のアームストロング議長も止める事は出来ないだろう。
システムダウンした緊急避難システムを動作させるには、制御システムの中枢に直接アクセスする必要がある。
制御システムの中枢へは<タカネ>後部からチャリムで侵入すれば辿り着けるが、内部構造を知らないE.G.軍の兵士では辿り着く事は出来ないだろう。
それが出来るのは、ブラック・ダンデライオンの構造を熟知しているアークライト家だけ。
結局のところ、イーサン以外に止められる存在はいない。
(もう駄目か……<タカネ>の住人は兵器として地球の大地に打ち込まれ、地球の人々は死に絶える。あの動物園も……アランと一緒に過ごしたハワイも……全てが失われてしまう)
何も出来ない悔しさで頬を涙が伝う。
ドン!
ドアの外から鈍い爆発音がした後、傷だらけの男性が転がり込んできた。
「旦那が泣くなんて珍しいな。写真を撮ってお嬢に売りつけようかな」
バリーが血を流した腕を庇いながら軽口を言った。
「バリー! どうして?」
「旦那の戻りが遅かったからに決まってるでしょ?」
「馬鹿か! そんな理由でB.o.D.に反逆したのか!」
「反逆なんてしてないですぜ。我らファング第一艦隊が従うのは旦那のみ。元々、B.o.D.には従っていないので反逆にはならんでしょ」
「そんな屁理屈はいい! 治安部隊から命を狙われるぞ」
「その心配はないですぜ。既に狙われてるんでね。ほいっ」
バリーが拳銃を手渡してきた。
イーサンは受け取って残弾を確認した。
「怪我は大丈夫なのか?」
「ちょっと撃たれただけですぜ。心配ないですよ」
バリーは心配ないと言っているが、かなり出血している様に見える。
「俺が先行する。バリーは援護を頼む!」
「さて、逃げるとしますか」
土地勘があるイーサンが先行して、別荘から脱出した。
市街地に出たところで銃撃音が聞こえた。
路地裏に身を潜め様子を伺うと、ファングの兵士と治安維持部隊が銃撃戦を繰り広げていた。
(何故だ? ファングはネイサン・アークライトの計画を知らないハズなのに……)
「バリー、何が起きている?」
「クーデターですよ」
「クーデター? 誰が主導している?」
「誰も主導していないですよ。旦那が戻らなかった。そして閣下がファングを解体すると宣言した。それだけでクーデターが起きてしまいましてね」
「唯の暴動じゃないのか?」
「暴動ではないですよ。既に地球侵攻中の第一艦隊と第四艦隊が宇宙に戻り始めてます」
「デトロイトとエジプトの駐留部隊だな。宇宙に戻って何をするのだ?」
「閣下に従う<アカミ>の第二艦隊と、<クモマ>の第三艦隊を打倒する予定ですぜ」
バリーの言っている事が本当であれば、まだ希望がある。
ファング第一艦隊と第二艦隊で、アークライト議長の勢力を抑えて、イーサンが<タカネ>に乗り込む事が出来れば全てを救える。
事情を話せば、<タカネ>に駐留しているE.G.軍の協力も得られるだろう。
少なくとも、アランなら協力してくれるだろう。
「行くぞ! バリー!!」
「おう!」
イーサンとバリーは、銃撃戦の合間を抜けて市街地を進んだ。
(ここさえ切り抜ければ、ファングの基地方面に抜けられる)
ドサッ。
背後から物音が聞こえたので振り返った。
バリーが血を流して倒れていた。
別荘で確認した時より出血量が多い。
身を盾にしてイーサンを庇っていてくれたのだろう。
「バリー?」
「この先に……お嬢達がいます」
バリーが指を差した。
「医者に……」
「医者なら、ここに居ますぜ。だから……心配ない……」
バリーは心配ないと言っている。
だが、医療に詳しくないイーサンでも、それが嘘だと分かる。
「そうだったな。バリーより腕が良い医者はいなかった」
「なぁ、旦那。何があっても……止まらないでくれよ……」
「必ず俺達の理想を実現する。今まで有難うバリー」
イーサンはバリーが指し示す先に向かって迷わず走った。
(俺は止まらない! たとえ負け続けても! 俺の為に犠牲になった仲間が誇れる様に!!)




