人類への制裁
イーサン・アークライトは自身のコネを最大限活かして、B.o.D.の最高議会が開催されている場所を突き止めた。
開催場所は出身地であるブラック・ダンデライオン<セイヨウ>にある、アークライト家の別荘の一つであった。
部下を連れて大勢で行ったら、会談自体が中止されてしまう可能性が高いので、危険を承知で別荘に向かった。
別荘外周を確認すると、警備は2人だけであった。
(警備が厳重だと悟られるから、警備員の人数を減らしたか……)
警備員に見つからない様に、別荘裏の配管をよじ登って、ベランダに上がり物陰に隠れた。
室内も警備員が見回りをしていた。
(夏に家族しか来なかった別荘が賑やかになったものだ。確か、ここだな。子供の頃に夜遊びする為に外から鍵を開けられるように改造しておいたのが役に立つとはね……)
イーサンは警備員が去ったタイミングで、ベランダの窓を開けて廊下に侵入した。
(会談を行えるのは……あの部屋しかない!)
イーサンは2階奥の大部屋に駆け込んだ。
部屋の中では探していた人物達がテーブルを囲んでいた。
ブラック・ダンデライオン<アカミ>の自治区代表のヴィンセント議長。
ブラック・ダンデライオン<クモマ>の自治区代表のバリントン議長。
そして、ブラック・ダンデライオン<セイヨウ>の自治区代表であり、宇宙同盟ブルーム・オブ・ダンデライオンの盟主、ネイサン・アークライト議長ーー
「何をしに来たイーサン。立ち去れ!」
アークライト議長はイーサンの侵入に激怒したが、ヴィンセント議長とバリントン議長は面白がっているようだ。
「まぁ、良いではないか。ご子息もそろそろ政治を学んだ方が良いだろうからね。スタンリーの倅みたいに醜態をさらす前に手を打った方が良いからね」
「スタンリーのヤツは無様よな。つまらんスキャンダルでパトリック坊やごときに政権を奪われたからね」
「その心配はない。その為にダリモアの娘をあてがってやったのだからな」
「ダリモア……あぁ、あの堅物軍人の娘ね」
「それなら、そこらの金持ちの娘より躾られているだろうから安泰ですな」
イーサンは不愉快だと思った。
アマンダは幼なじみとして今まで見続けてきた。
同じ軍にまで配属された時は呆れたが、今では誇り高き立派な軍人だ。
父親であるアーノルド・ダリモア中佐は、彼が本当の父親であったらと思う立派な男だ。
<タカネ>のパトリック・アームストロング議長も同じだ。
不倫問題で失脚したスタンリー家から政権を奪取した後の、彼の政治手腕は凄かった。
彼のお陰で<タカネ>は活気に満ちている。
こいつらの様な性根が腐った連中が批評していい相手ではない。
不愉快な思いをしたが、今は我慢しなければならない。
失った戦力を補充して、E.G.軍と戦わなければならないのだから。
「閣下、俺に戦う機会を下さい。戦力を整えて<タカミ>を奪還します」
「それは許可出来ない。<タカネ>の処遇は既に決まっている」
「処遇とは何ですか?」
「愚かなE.G.軍に罪を背負わせる。宇宙の民の誇りを忘れて、E.G.へ恭順した<タカネ>の住人も同罪だ」
「何をするつもりだ?! 彼らに何の罪があるというのだ!」
「<タカネ>を廃棄する。そして、<タカネ>に住む一千万人の命を奪った罪をE.G.に着せる。E.G.軍が多くの命を奪う姿を目の当たりにすれば、人類の全てが目を覚ますだろう」
「何を言っている……<タカネ>を廃棄? どうやって?」
「忘れたのかイーサン。ブラック・ダンデライオンの開発には宇宙開拓の祖であるアークライト家が関わっている。私には<タカネ>の制御システムにアクセスする権限がある。内部の酸素を無くすことも、重力制御装置を止める事も自由なのだよ」
「お前は! 理解しているのか! 何をしようとしているのか!」
「理解しているよ。理解していないのはイーサンだ。自身の立場を理解しているのか?」
「立場の問題ではない! 俺が止めて見せる!!」
同じ宇宙の民が住む<タカネ>を廃棄する。
その異常な発言を聞いてもヴィンセント議長とバリントン議長は薄ら笑いを続けている。
(こいつら、最初からそのつもりだったのか……仲間の命を何だと思っているんだ!)
「どうやらご子息には早かったようですな。折角、面白いものが見れるというのに勿体ない」
「いくら閣下のご子息であっても、止める事は出来ないですよ」
「出来るさ。緊急避難システムを作動させる。何故ブラック・ダンデライオンと呼ばれているのか知っているだろう?」
イーサンもアークライト家の人間だ。
ブラック・ダンデライオンの構造について熟知している。
ブラック・ダンデライオンには、緊急時にタンポポが綿毛を飛ばす様に、居住区を分離して避難させるシステムが搭載されている。
「おぉ、そういう機能がありましたな。良い事を思い出させてくれた。それなら地球に送り込みましょう」
「居住区を地上に打ち込むのですな」
「なるほど、かつて神の杖と呼ばれた運動エネルギー爆弾として利用するという事か。ヴィンセント議長の案を採用しよう。人類は制裁を受けねばならんのだからな」
「ならっ、お前たちをーー」
イーサンはうつ伏せに倒れ、体の力が抜けていくのを感じた。
(麻酔銃か……いつの間に……俺が止めなければならないのに……)
消えゆく意識を必死に保ち、視線を向けた先にはギルモア博士がいた。
「ギルモア、いざという時はお前が手を下せ」
「良いのですか。ご子息が命を失うかもしれないですよ?」
「お前はそういう事を気にする性格ではないだろう? 『Transparent desire』をやり直す事は出来ぬ。障害になるのであれーー」
最後まで会話を聞き終える前にイーサンの意識は途絶えた。




