episode3
ヴィリオスは毎日レティシアに読み聞かせをした。ヴィリオスが用意した絵本以外のものを自分で持ってくるようになり、その本は段々難しいものになっていった。
レティシアは飲み込みが早く、すぐに自分で文字を読めるようになった。ヴィリオスはレティシアが自分で読み書きの練習をしているのを知っていた。
けれど、どれだけ自分で本を読めるようになってもレティシアはヴィリオスに読んでもらいたがった。
ある時レティシアの手がヴィリオスの身体に触れた。すぐに手を引っ込ませた彼女を見て、ヴィリオスはレティシアを膝の上に座らせた。びっくりしたレティシアはヴィリオスを見たが気にせず彼は本を読んでいる。
レティシアが本に夢中になってから、ヴィリオスはそっと彼女の頭に触れた。
すっぽりと彼の手のひらに収まるくらいの小さな頭を撫でる。
ふわふわの髪は触り心地が良かった。
ルードから彼女は9歳だと聞いた。同年代の子どもたちに比べれば彼女は小さく、痩せている。袖から除く腕には痣があった。
膝の上で寝てしまったレティシアを抱え、ヴィリオスは自分の寝室へ転移する。彼女を自分のベッドに寝かせ、布団をかけてやる。
むにゃむにゃと可愛らしい寝言を言って、レティシアは寝返りを打った。その寝顔と懐かしい面影が重なる。誰だか思い出せないが、とても愛おしかったような気がした。
ふっと自然と笑みをこぼす。
ヴィリオスは寝室を後にして、ルードの元へ転移した。
食堂で夜食を食べていたルードは突然背後に現れたヴィリオスに驚きスプーンを床に落とす。
ヴィリオスはスプーンを綺麗にして、テーブルの上に置いた。
「なんなんですか?ヴィリオス。突然俺のところに来て。」
ルードの文句を無視して、ヴィリオスはルードに尋ねた。
「レティシアは今までどこにいたかわかるか?」
「はっ?」
心底驚いてルードはヴィリオスを見る。
「なぜ、今更そのようなことを?」
今更、という言葉にヴィリオスは少し苦味を覚える。
「あの子の身体に痣がある。」
ルードは食事を再開して、食べながら言った。
「随分あの子に思い入れが出来たみたいですね。でも、あの子が普通の子どもではないことくらい最初から分かりますよ。」
ルードは呆れたように笑った。
「今更子育てのやる気ができたなら、育児書でも読めばいいんじゃないですか?」
ルードの嫌味を真に受けたヴィリオスは、すぐに図書館へ転移した。
大真面目に育児書を探しているヴィリオスを見て、リリィはまた爆笑した。
けれど、レティシアの為に一生懸命なヴィリオスを愛しく思い、助言をした。
「レティシアには極端に欲がない。それは、抑圧されてきたからもあるだろうか、あの子が無知だからもあるだろう。外へ連れ出してやりなさい。」
リリィの助言に従って、ヴィリオスはレティシアに尋ねた。
「外へ行ってみたいか?」
レティシアはきょとんとした。何も分かっていない様子のレティシアにヴィリオスは言った。
「明日、近くの街へ行くぞ。」
翌日、魔塔の魔法使い達に沢山の防寒魔法やら、防寒具やらを着けられたもこもこのレティシアを連れて、ヴィリオスは街へ向かった。
魔塔の管轄地で1番大きな街フィリヴィル。
年末の浮かれた空気が漂っている街は活気に満ち溢れていた。
様々な人種の人々が歩いており、魔法や魔法具が溢れている。レティシアはヴィリオスに抱かれながら目をきらきらさせていた。
「何か気になるものはあるか?」
レティシアにそう聞いたヴィリオスの頭をリリィが後ろから叩く。
「阿呆か?お前は!そんな馬鹿正直に聞いて、レティシアが答えられるわけがないだろ?!」
ぴくりとも動かずヴィリオスはリリィに尋ねた。
「ではどうしたら?」
「とりあえずレティシアを下ろせ。」
言われた通りにレティシアを下ろす。レティシアは興味ありげにきょろきょろしていた。
「はぐれないように手を繋げ。レティシアが興味を持ったところに行くんだ。」
ヴィリオスはレティシアの小さな手を握る。レティシアが向いた方向に歩き始めた。
リリィの助言通り、とにかくレティシアか興味を持ったもののところへ行った。
奇抜な出し物や、美味しそうな屋台のご飯、可愛らしいぬいぐるみや、分厚い本。
レティシアが少しでも欲しい素振りを見せたら何でも買ったり、見に行ったりする。
そうしていくうちに段々とレティシアの好みというものが見えてきた。
レティシアが欲しがるおもちゃは、可愛らしいデザインのものが多く、黄色やピンク色といった明るい色をしていた。
甘いものにも目がないようで、食べ物を食べている時の表情が、しょっぱいものより甘いものを食べている時の方が、輝いていた。
興味のある本は、物語や伝記、専門書など多岐にわたったが、一貫して魔法を題材としていた。
魔法を学ばせるか。ヴィリオスは、買ってもらった魔法書を大事そうに抱えるレティシアを見て思った。
レティシアからは豊富な魔力を感じる。きっと素晴らしい魔法使いになるだろう。
沢山のレティシアへのプレゼントを連れて、魔塔へ帰る。
レティシアの部屋は一瞬で可愛らしい様相になった。




