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第3話 文明の十字路

                 -Taxila

 再びバスに乗り次なる遺跡へ。来る前はタキシラというひとつの遺跡があるのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。タキシラは都市名であって、遺跡にはそれぞれ独自の名が付けられている。


 なだらかにうねる緑の山々が車窓から見える。その麓にはうっすらと草に覆われた農地。素朴で、どこか懐かしさを感じさせる風景だ。ここから少し北に位置するフンザは桃源郷の里として名高い。パキスタンというと荒れ地をイメージしがちだが、それが偏見に過ぎないことが来てみて初めてわかった。


 そんな丘の一角にかつての都市の跡が残されている。建物は既に姿を失い、今では石積みの土台しか見当たらないが、それでも碁盤の目状に整然と並んでいて、一見して高度に計画されたものであることがわかる。まるでローマ遺跡だ。


 街の中心を太い道が貫いている。幅10mはあるだろうか。当時としては異様に大きい。傍らに一本の老木が立っていた。幾重にも茂った葉の重みで垂れ下がる枝が、重ねてきた齢の長さを物語る。何とも郷愁を誘う風情だ。


「ここはタキシラでも中心都市だったと考えられています。住宅や商店街だけでなく、王宮も見つかっています。こちらを見てください。東西文明融合の証が刻まれていますよ」


 石で囲まれた区画にストゥーパの基壇が残っている。その壁に彫られているのはギリシャ風の柱、インド風のアーチ、そしてペルシャ起源の双頭の鷲だ。三つの文明を代表する造形が臆面もなくそのまま組み合わされている。古代人にこんなベタな感覚があったとは、ある意味感慨深い。


 人の声が聞こえる。振り返ると、メインストリートの向こうから女子校生の一団がやって来ていた。民族服である色鮮やかなシャルワール・カミーズに身を包んでいる。修学旅行のようだが、よく見ると護衛の警官らしき人が付いている。女性の外出はこの国ではまだまだ大変なのかもしれない。


 主だった遺跡を見て回り博物館に戻る。併設されたレストハウスで昼食をとり一休みしていると、目の前をロバの隊列がトコトコ歩いて行くではないか。パンパンに膨らんだナップザックをいくつも背負い、誰に引かれるともなく規則正しく通り過ぎて行く。


 だが、何か変だ。ロバの背中でキョロキョロ動く荷物がある。近寄ってみると、まだ産毛も抜けない子羊が、食糧や生活雑貨などの物資と一緒に乗せられている。「ボクたち、どこに連れて行かれるの?」とでも言いたげに、心細そうな顔をして揺られている。


「ドナドナ、ドーナー、ドーナー」


 思わず歌が口をついて出る。それを聞いて妻がたまらず吹き出した。可愛らしくも滑稽だ。動物に運ばれる動物など金輪際見たことがない。


 その横を今度はミニバスが行く。幌を被せた軽トラックの荷台に人がぎゅうぎゅう詰めに乗っている。というか、落ちないようにしがみついている。あまりの過積載に後輪のタイヤはパンク寸前。ほとんどぺしゃんこだ。


「なるほど。こうやっていろいろなものが行き来してきたのか」

「それ、冗談で言ってるの?」

「いや、真面目に感心している」


 そうだ。ここは古来からのクロスロード。東西の文明が行き交う通り道だったのだ。

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