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第2話 ゴダイゴの歌にのせて

                 -Taxila

 「ガンダーラ」と聞くと、ある年代以上の人はゴダイゴの歌を思い出す。何を隠そう僕もそうだ。しかし当のガンダーラが何を意味するのかについてはあまり知らない。国なのか、地域なのか、それとも文化史的な時代分類なのか。ひとつ確実に言えるのは、それが歌詞で謳われたインドではなく、実際はパキスタン北西部にあるということだ。


「タキシラはガンダーラ最大の都市でした。古くから交通の要衛として発展し、西から来たギリシャやペルシャの人や文物が東から来たインドの人や文物と出会い、独特の融合文化を生み出しました」


 まず博物館の前で講義を受ける。田舎の小学校を思わせるちっぽけな建物だが、煉瓦造りの壁が一面のツタに覆われていて、醸し出す風情が素晴らしい。周囲の木立と併せてまるで一幅の絵画のようだ。見た瞬間に気に入ってしまった。


 内部にはタキシラに点在する遺跡からの出土品が収められている。特にクシャーナ朝時代の遺品が多い。大きなものや派手なものこそないが、どれもみな味があり、展示面積の割には見て歩くのに時間がかかる。


「ガンダーラの最大の功績は世界史上初めて仏像を制作したことです。よく見てください。皆さんが知っている仏像と少し違いませんか?」


 言われて初めて気がついた。顔が違う。瓜実型の輪郭に切れ長の細い目ではなく、彫りが深く目鼻立ちがはっきりしている。明らかに白人がモデルだ。


「インドで誕生した仏教が、ここでギリシャやローマの美術と出会ったのです。すなわち、ガンダーラは東洋の西端であるとともに、西洋の東端でもあるのです」


 遺跡の前に博物館を見学するというのは良いアイディアだ。知識が体系立って整理され、これから観光する対象の概要を把握しやすい。スケジュールとして理に叶っている。


 最初の遺跡は丘の上にあった。急な岩坂道を登り詰め、視界が開けたと思うとそこに僧院跡が拡がっていた。しかし、現存している遺物はあまり多くなく、往時の姿をイメージするのは難しい。


 どこから現れたのか、地元民らしき男が僕を見つけて手招きする。無言のまま、上目遣いで何やら怪しい。さては偽仏像売りか。物陰に連れ込んで粗悪なレプリカを本物だと言って売りつけようというのか。上等だ。それもまた話の種に面白い。


 半信半疑のままプレハブの平屋まで付いて行く。中に入れと男がしつこく勧めるので警戒しつつ覗いてみると、なんと大量の石仏が並んでいるではないか。指差しながら「本物?」と日本語で訊くと、男は腕組みをしながら満足気に頷く。倉庫だったのだ。もしかしたら、博物館に入り切らない分をこちらに置いているのかもしれない。


 仏像は僧院の基壇らしき破片の壁面にレリーフとして彫られている。建築資材はおそらく漆喰。そのために白く、下手に触るとボロボロと剥がれてくる。


 やがて、他のツアーメンバーがやってきた。なんのことはない、見学ルートを先回りしていただけのことだ。男はこの遺跡の見どころを知っていて、わざわざ案内してくれたのだ。


「実は良い人だったんだね」

「疑って、悪いことしたかな」


 ゴダイゴもガンダーラは「愛の国」だと歌っていた。昔から善人ばかりが住んでいる場所なのかもしれない。何しろ「そこに行けばどんな夢も叶う」というのだから。

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