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第13話 強者たちの戦い

 礼拝堂内に赤い閃光が明滅し、轟音が絶え間なく響く。

 礼拝堂の端を、ブレムとメイアスは慎重に歩いていた。


 ブレムは天井付近を見上げる。


 視線の先では、キキョウが鯨の攻撃を相殺、反射しながら、同時に雷の魔術を展開、絶え間なく喰らわせていた。


「キキョウが優勢だな」

「まあね。あいつは真っ当に強いから」


 礼拝堂内は攻撃の余波を受けてか、あちこちが無惨に破壊されていた。

 それでもブレムが苦労しながらも移動できているのは、キキョウが可能な限り被害が広がらないように、あの鯨を押さえ込んでいるからだろう。

 

「本教会には、キキョウみたいにあんな複雑な魔術式を一瞬で組める奴がゴロゴロいるのか?」

「まさか。それならとっくにあの鯨の魔物なんか討伐出来てるよ」

「それはそうか」


 逃げ遅れた人々を探すと言っても、既に礼拝堂内には人影は見当たらなかった。

 恐らく、本教会に駐在していた兵士たちが既に避難を完了させたのだろう。

 

「そういえば……ブレム君は僕と同じくらい保有魔力が少ないけど、結構魔術について詳しそうだね」


 上空の攻防を楽しそうに眺めていたメイアスが、ふと気づいたように呟く。

 

「まあ、多少はな。正確には魔術じゃなくて魔術式についてだけど。魔術式を読み解いたり、実際に紙に書いたりするのは好きだからさ……魔術は使えないけど」

「でも魔術式が書けるのはいいことじゃん。僕はいくら勉強しても、どう発動するかの仕組みがさっぱり分からなくて。地頭の問題かなぁ」

「俺も頭自体はそんなに――」


 と、ブレムが言いかけたとき。


「――遅れました!」

「炎よ、我が前に集え――」

「その奔流をもって敵を焼き尽くせ――」


 突然、ローブを身にまとった数十名ほどの集団が、礼拝堂の両扉を大きく開け放って一斉になだれ込んできた。


「彼らは?」

「本教会駐屯の魔術師達だね。本命の増援じゃない」


 魔術を行使する方法の一つに、『詠唱』がある。

 魔術式を言葉として出力することで、魔術を発動するのである。

 特別な道具も必要とせず、安定して魔術を発動出来るため、一般的に最も主流の発動手段だ。

 しかし、簡単な魔術でも数秒間、高度な魔術の場合は数分間の詠唱時間を要するなど、前衛がいない状況では発動前に無力化されてしまうという欠点もある。


「「『紅蓮爆砕』!!!」」


 ただし彼らの場合は、隊列を整えると即座に十数個の紅蓮の炎が出現し、一直線に鯨へと飛んでいく。


(突入前にある程度の詠唱を終えていたのか?頭いいな……)


 そう感心するブレムをよそに、再び大きく口を開け、光線を放とうとし始めた鯨に炎が直撃するが――。


「あまり効いてないね」

「詠唱――魔術式自体はそこまで高度じゃなかったからな」

 

 鯨に殆ど傷はなく、鯨は何事もなかったかのように魔術師達の方を向くと、そのまま光線を放つ。


(――まずくね?)


 と、ブレムの胸に不安がよぎるが。


「『神護絶壁』」


 突然現れたバッカスがその間に割り込み、手に持った大盾を地面に突き立てると、虹色に光る半透明の障壁が展開される。


 光線は直撃するが、障壁は轟音を立てながらも、揺らぐことなく防ぎ切る。

 

「すいません、バッカス様!まさか少しも怯まないとは……」

「構わない。それに――」


 謝罪する魔術師の1人を一瞥しながら、バッカスは告げる。


「本命は次だ」


 メイアスはブレムの肩を叩きながら、楽しそうに笑う。


「来るよ」


 その声に従い、ブレムは視線を、メイアスが向けている方へとやる。

 地面へと降り立ったキキョウの周りに、幾重もの幾何学的な模様が浮かぶ。

 その声は、近くにいたブレムにもはっきりと聞き取れる事ができた。


「『空間転移』」


――鯨の身体が、頭部から身体の半分以上が、跡形もなく消え去った。

 同時に半透明の肉片のようなものが、礼拝堂内に雨のように降り注ぐ。


「一撃か。流石だ、キキョウ」

「転移魔術……」

 

 メイアスの賞賛をよそに、ブレムは今の現象に目を見開いた。


(相手の身体を、どこか別の空間に転移させた……だけじゃない。それだけだと転移先で再生する可能性があるから、転移範囲を細かく区切った上で、別々の場所に転移させたのか……バケモンか?)

 

「気を抜くな!追撃!」


 バッカスの号令と同時に、地面に落下した鯨の死骸めがけ、魔術師達が詠唱を開始する。

 これも事前に詠唱を済ませていたのだろう、即座に次々と魔術が放たれる。

 

「お疲れ様、キキョウ」

「ありがとうございます。成功するか不安でしたが、コアは完全に破壊できました」

 

 膝をついたキキョウにメイアスは労いの言葉をかけ、キキョウも疲労と安堵を滲ませて笑う。


「追撃止め!」

 

 そのバッカスの号令と共に、魔術師たちも詠唱をやめて、安堵したようにその場に崩れ落ちる者もいた。

 礼拝堂内に、わずかな安堵が広がった。



 

 ――その瞬間。



 

「――いやまだだ!バッカスさん!!障壁を――」


 初めて聞くような、メイアスの焦燥に満ちた声が、緩んだ空気を切り裂くように、礼拝堂に響き渡る。

 しかし、それが最後まで言い切られることはなかった。

 


 次の瞬間、死骸が内側から爆ぜた。


(――は?)


 理解する間もなく、事態は最悪の方に転がる。


 衝撃波が礼拝堂を薙ぎ払い、瓦礫と炎を巻き込みながら一直線に迫ってくる。


 バッカスが障壁を展開したのをブレムは視界の端で捉えた。

 ブレムはそれが魔術師たちを覆うように展開したのを確認した。

 それが、ブレム達を護るには距離が遠すぎることも、ブレムは確認した。

 

 閃光。


 視界が白く染まる。


 ――ブレムは後方へ吹き飛んだ。


 爆発によるものではない。


 初めて見る表情で、焦りに満ちた表情で、メイアスがブレムを蹴飛ばしたのだ。

 

 その反動で、メイアスはよろめき、その体が光に飲み込まれんとして――

 

「――良かった、間に合いましたね」


 ブレムの体が地面に衝突する直前に、何かに包まれたのを感じた。


 ――音が、消えた

 すべてが、止まった。

次回は明後日の22:00に更新します

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