落ちこぼれエンチャンターと真の仲間(13)
デバフの神様
落ちこぼれエンチャンターと真の仲間(13)
猛毒を受けたエンチャンターは僧侶のデバフ消去の治癒スキルを拒んだ。
マウンテンビッグタートルの右足側にいる勇者達もピンチだったから。しかし、それだけではない。自分の剣、マーリの杖、ファランカの杖が光って見えたのだ。
初めての事だった。
「(あれ? え? もしかしていけるのか?)」
苦痛に歪む顔とは裏腹に確かな希望が見えていた。彼が見た勝ち筋。勝利の一撃を。
それは、自分のバッドステータスを【リターンヒット】(※お返し返礼スキル)として攻撃に乗せるのではなく、武器に付与してしまう事だった。
今まではソロで【リターンヒット】を繰り出してきた。武器にデバフを付与する事など考えた事も頭に過ぎったことさえもなかった。
そしてこれまでパーティーに存続することなど皆無でもあったから。仲間の武器にデバフを付与できるなんて思ってもみなかったのだ。
しかし、状況はできると確信させた。杖の発光がそれを教えてくれる。その光はエンチャンターにとって"できるぞ、やらないのか"と話しかけて来ているようだった。
そして【猛毒】を、魔術師マーリの杖に付与する。
マーリが放った氷の槍は見事に【猛毒】を乗せていた。
『死滅の大岩・マウンテンビッグタートル』の死因は【猛毒】。自分の吐いた毒で命を散らしたのだった。
「「「勝ったー!!」」」
全員が勝鬨を上げてハッとしたところに、エンチャンターはムクリと立ち上がる。
「あー、死ぬかと思った」
「「「生きてたー!!!?」」」
「勝手に殺すなよ」
「「「いやいやいやっ!?」」」
死にかけてたよね!? なんて突っ込むも、リヴァイスは何事も無かったように首をコキコキ鳴らした。
「よっしゃ、帰るか?」
「リヴァイス、あれを取ってからだよ?」
エンチャンターは宝箱を目にしてニヤリと笑った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「入るぞー」
ガチャリ。
ノックもせずに、呼ばれてるんだから入る、というのが彼の今回の主張である。
パーティーがギルドマスターの部屋で説明やら報告をする間、エンチャンターは討伐のドロップ品について買取カウンターの職員と打ち合わせ込みの長話をしていただけだった。
全員そろったところで改めてギルドマスターとの詳細を詰める。
エンチャンターが行った詳細を本人から確認する必要があったからだ。過去の最強のエンチャンターでさえ成し遂げることの出来なかった偉業を、彼らが達成出来たのは何故か。
それは、相性と言っても過言では無い。
『死滅の大岩・マウンテンビッグタートル』の真の脅威はその攻撃力ではなかった。もちろん彼の亀の攻撃力は十分に脅威であるのは間違いではない。では何が脅威なのか。
それは咆哮によるスキルデリートだ。全てのバフを解除してしまう事にある。
普通のエンチャンターはバフを掛け直すのだ。時間をかけて。
武器に、体に、全員分。防御優先であれば、まずバフをパーティーの人数分掛ける。身体強化を、属性をと言った具合に。そして武器には最低でも自分には掛ける。残念なことに、エンチャンターには範囲にかけられるスキルが無い。その間に技後硬直から立ち直ったマウンテンビッグタートルの攻撃を受ければひとたまりもないのだ。そうして、削られて人数を減らして全滅。
まして火力特化のエンチャンターが防御力皆無であることからすれば、属性付与をしたところで容易に沈む。火力を失ったパーティーの殲滅速度は途端に落ちるのだ。ジリ貧確定の負け戦である。
勇者アキラスパーティーが奇跡的にも勝てたのは、エンチャンターが"デバフの神様"だったことにある。
消されるバフの恩恵があまりにも少なく、マウンテンビッグタートルの技後硬直の間に僧侶がかけ直して終わりだった。受けたデバフはお返しする始末。そしてリヴァイスは追撃型のエンチャンターだ。バフをかける時間を攻撃に充てられる。
削りに削った体力と、【猛毒】のお返し。仲間に付与したものがデバフなどと誰が思いつくものか。蔑まれたスキルでケリを付けるあたり、"デバフの神様"は伊達では無い。
「討伐方法は公表しても構わんか?」
勇者は付与術士を見て、促した。
「ああ」
公表されて困ることなどほとんどない。後続が出ようが、大した事でもない。真似したければ真似すればいい。戦い方の幅は広がるだろう。器用貧乏に逆戻りすることになっても。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「晴れて、パーティー存続おめでとさん」
「「「カンパーイ!!」」」
いつものギルド併設の酒場のテーブルを囲むは勇者アキラスと仲間達。
今日は祝勝会だ。
『死滅の大岩・マウンテンビッグタートル』討伐。偉業を成し遂げた彼らはいつものように同じテーブルを囲む。新人冒険者パーティーが羨望を込めた視線をやり、ベテランは嫉妬や称賛を、同世代は場所を移している者がほとんどだ。
絡んでくる酔っ払いはもう居ない。
"なんかヤバイ"はもう古い。彼らはもう崖っぷち冒険者でもない。強さを証明した本物のBランク冒険者だ。そんな者達に絡む勇気はただの蛮勇、愚か者のする事である。
「しかし、最後のアレには本当に驚きました」
僧侶ファランカが徐ろに振り返る。
「リヴァイス、死んじゃうって本気で思ったよね」
「「うん」」
ちょっとしんみりモードだ。肝が冷えたとはこの事だろう。
「まぁ、そう言うな。勝てばいいんだ勝てば」
彼の口癖とでも言うべきモットーが口からするりと出る。そんないつも通りの彼の態度に、安堵させられるのも今回ばかりではない。
何度も何度も彼の言葉に救われてきた勇者達。
「俺の依頼は達成されたな。今まで楽しかった。ありがとな」
そうなのだ。リヴァイスが加入したのは期限付き。ギルドマスターの指名依頼だ。勇者パーティーと組んで迷宮30階層の素材を取ってくること。これは28階層エリアボス『死滅の大岩・マウンテンビッグタートル』討伐によって達成された事になった。30階層への挑戦など、この偉業に比べればなんの試練にもならないと判断されたからだ。
既にエンチャンターには成功報酬が支払われている。
「共有財産はそのままお前たちの財布に入れとけよ? 俺はちゃんと成功報酬貰ったからな。不要だ」
唖然とする勇者達になおもエンチャンターは続ける。
「お前らと組まなかったら、デバフエンチャントなんて生み出されなかったろうよ。大きな収穫だな。エンチャンターの需要もさらに上がるぜ」
聞いてんのか? なんて言葉を挟んでも、勇者達はショックで言葉を発せないでいた。抜けるのか? そんな疑問が頭から離れないから。なぜ?
エンチャンターから見れば。
世話のかかる奴らだった。
してもらって当たり前と思っている奴ら。
感謝しない奴ら。
謝ることを知らない奴ら。
人としてダメなところばかりが目立つ奴らだった。
だけど、それは若さ。経験の無さだった。
教えればものにしていった。導けば体得していった。誘導すれば成長を見せた。まだまだ伸び代がある者達だった。
知らない事が罪では無い。知らない事を放っておくのが罪なのだ。彼らは罪を知った。彼らは改めた。彼らは謝ることを知った。彼らは感謝する事を知った。
彼らと過ごした時間はエンチャンターにとっても貴重な時間だった。噛み砕いて教える事で、自分に足りない物を知った。
人とは何か。
尊重とは?
誇りとは?
様々な事を考える機会になった。追い出される日々を忘れるくらいには幸せな時間だった。協力する事の大切さを学んだ。教えながら確実に強くなっていく彼らを誇りに感じ始めていた。
「そんなわけだ。俺はお前らに感謝してる。ありがとう」
エンチャンターは立ち上がる。
ギルドの酒場のいつものテーブルには四人の英雄達が残された。
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