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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
仕事【春チャレンジ2026】
307/308

新王の死因は尊厳破壊だとする後年の書評があるらしい

なろうイベント「春チャレンジ2026」のお題「仕事」ということで書いてみた話。



本項のタグ:「春チャレンジ2026」「仕事」「責務」「矜持」「公式見解」

 

 この国に唯一残された王子アーティスが聖女を妻にすると宣言したのは、彼が学園を卒業するその日のことだった。

 前回の聖女降臨から数十年が過ぎ、聖女の血を色濃く引いた王族は既にその多くが勤めを果たしていたこともあり、彼の宣言はやむなきこととして受け入れられた。

 現王による裁可により聖女は次期王妃として扱われることが決まったが、それで彼女へと向けられる害意が減るわけでもない。聖女として判明するのがあと一年早ければ、救われた命は五桁を越えただろう事実は、それに比例して行き場のない怨嗟を怒りへと転化させて彼女へと向けさせた。

 それが最も顕著だったのが、本来のアーティスの婚約者だったベルメル伯爵家令嬢ディシディアである。

 王子の卒業後の学園ではことあるごとにディシディアが聖女メルリーに対して殺意を向けていたという証言が記録されている。それを裏付けるように魔術損害による学園内の修繕費は跳ね上がっており、彼女の実家から多額の寄付が行われたのは周知の事実だ。

 それは学園内には留まらない。瘴気の氾濫先を聖女メルリーが訪問した履歴を辿ると、必ずと言っていいほどにディシディアが供として付き従っていた記録があり、また聖女が瀕死の重症を負ったという記録も数多く確認できる。

 中にはアーティスが対応した跡地を再訪問して事後処理をした記録もあったが、その記録はときが経つにつれて当時の混乱期における誤った記録だとして廃棄された。

 かくしておよそ十年のときをかけて国内、およびその周辺における瘴気被害の発生は沈静化し、ようやく次代に向けて前向きな空気が国内を覆いはじめた。それを後押ししたのがアーティスの王位継承と、聖女メルリーとの間にもうけられた第一子の生誕である。

 これは数の少なくなった王族が力を取り戻すきっかけでもあり、また聖女の血を引いたものが増えたことによる未来への安全性の保証でもあった。

 おりしも隣国を越えた先の国が瘴気により壊滅的な被害が出たこともあり、この国がそうならないという安堵はかつての怨嗟を裏返し、聖女への期待と願望という形に終着した。

 また四人の側妃によってそれぞれに新王の子がもうけられたことも大きい。聖女嫡子ではなくとも王族という聖女直系血族の子である。

 のちのち、かつての王族たちと同様にその身を投げ捨ててでも国や民を守るだろうことは大きな安心感を国内に満たした。そのため、その直後に新王が病に臥したことはそれほど大きな悲劇とは受け止められなかった。

 そうしてさして惜しまれることもなく儚くなったアーティス王のことを、僅かに瘴気に相対する役目を果たさず逃げた王族と謗る声が残ったものの、次代へと聖女の血を残したことから役目を果たした王族の一人として慎ましやかに見送られたのである。



 さて、遡って当事者たちとしてはどうだったのだろうか。

 これらは公的な記録には残っていない、定年後のメイドや近衛などの声から推察された当時の状況である。

 まず聖女は全く聖女として名を残す意思がなく、ただ高位貴族に阿るだけの人物だったという。まるで娼婦のように淫らな格好をして王子アーティスに触れ、痴態を晒すことを厭わない姿が学園内でも散見されていたという。

 それを嗜めていたのがディシディア嬢であるが、王子アーティスは彼女との婚約破棄宣言および聖女メルリーとの婚約宣言を済ませて一足先に卒業してしまった。残された聖女がその後の学園内で暗殺未遂を数えきれないほどに受けていたが、それらを阻止したのが他ならぬディシディア嬢であるという。そもそもの話として人柄によらず聖女と認定された時点で王族と契ることは避けられないため、あるいはメルリー嬢のささやかな抵抗だったのではないかと推察する声もあった。

 ともあれ当時、二人の令嬢は常に行動を共にしていた。徐々にその行動や立場が受け入れられたのだろう、後に側妃となる他の三人の令嬢たちが当時から少しずつ彼女たちと交流を深めるようになった。彼女たちが学園から卒業する頃には再び瘴気被害が発生していたが、アーティス王子が対応した記録は残っていない。

 学業よりも民の安全のために奔走する聖女メルリーと、その道中をディシディア嬢の伯爵家が補佐したという発言が散見され、ときに他の側妃の家が手を貸した、また助けられている事実がある。

 しかしそれらの多くは公的な記録としては残されておらず、王子アーティスが先見の明から各家に働きかけたという記録が公的には残っている。だがそうした働きかけができたのは病床の先王であっただろう。

 それはこの時点で彼女たちが王子との婚姻関係に関して既に受託していたとする噂話からも推察できる。王子との婚約破棄を経たディシディア嬢は改めて側妃となる契約を結び直し、他の側妃たち三人は同時期に婚約を白紙化している。

 それをアーティス王子が勘違いしていたという証言もあった。


 聖女メルリーとは真実の愛で結ばれており、それでも諦めきれぬディシディア嬢が縋り付いたため受け入れ、それに追随した令嬢たちの愛を無下にすることもできない、モテるというのは罪なことだ。


 そのように高笑する姿があったことを、複数の証言が裏付けていた。

 当たり前のことではあるが、その姿や振る舞いが彼女たちに伝わらないはずもない。あるいはその姿が伝わった事実こそが病床にあった先王の死期を早めたとさえ言えるだろう。それでも四人の側妃たちは自らの仕事を理解していたという証言もある。

 どの令嬢たちも血筋を辿れば古くに聖女直系の子が絶えないように養子を受け入れたことがあり、王族と契ることで次代に聖女の血を濃くすることが責務であると理解していた。だからこそ本来の婚約を無かったことにしても側妃という立場を受け入れたのだ。

 この国と民を守るために。


 もしアーティス王子の振る舞いや彼女たちの本心が市井に知られていたならば、あるいは王族への厭悪は取り返しがつかないことになっていたかもしれない。しかしそれは知られることもなく、彼女たちの献身により秘されたのだ。


 では、瘴気を調伏するという責務から逃げおおせた王子アーティス、いやアーティス王はなんら報いを受けなかったのだろうか。

 実は彼の死因にこそ、その報いがある。決して公表されることのない秘密だ。


 アーティスは真実の愛を理由として、聖女メルリーとしか肌を重ねていない。

 しかしそれも成婚する前までのことで、成婚してからは指先ひとつ振れることさえ拒まれていたという。理由は第一側妃ディシディアの弁である。

 真実の愛があるなら他の側妃を抱く理由などないだろう、と彼女たち側妃は皆、アーティスに素肌ひとつ見せていない。しかし、四人の側妃と聖女は皆、アーティスの子をもうけている。その手法が妊娠指南を請け負った先王の乳母により残されていた。煮沸した容器に取り出した子種を速やかに子宮へと注ぎ込むことで指先ひとつ振れることも、素肌ひとつ見ることもなく子を成す方法である。

 アーティス王の寝所渡りの記録を見れば週に一度ずつ順番に彼女たちを訪れたと残されている。また同様にその寝所に三面ほどの近衛と二名のメイドが待機していたことも。


 ある近衛が休みの日、酒場でぼやいていたという。

 毎週毎週、他人のナニを掴んで搾り取ることが仕事になるなんて思っていなかった。自らやる方法なんぞ知る機会のないお坊ちゃんが、綺麗な器に吐き出すように促されて誇りも矜持もなく泣いてたけど、それの処理をさせられるこっちが泣きたい。

 そんな愚痴である。


 何をとは言わなかったが、うっかりアーティス王が漏らしてしまわないように彼の視界に入らないようにメイドたちが行動範囲にいないようにしていたという証言もある。

 そうした生活を重ねること数年、待望の子がもうけられ、それならばもういいではないかという思いを綴った手記がアーティス王の寝室から見つかっている。

 果たしてそれがどういう意味を持つ言葉だったのか、王族から公式の見解は発表されていない。





令嬢系で側妃とか妾妃とかに据えたがる王子をたまに見かけるので、それが欲望を満たせるとは限らないよなぁとか思い書いてみた。

主観にするとR 18になりそうだったので濁しているけど、そういう尊厳破壊系ざまぁが好きな人もいるんだろうなぁとか思ってみたり。

……どっち側に投影するかは皆さんの自由ですよ?




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