異世界?
この声、知らない声だ。けど、俺のなのか……?
そんなわけ……ないよな?
「あ〜〜〜あぁ〜い〜」
いや俺だわ。誰だよこいつ。
試しに声を出してみけど、間違いなく俺が出そうとした声と合致していた。けど、こんな声俺は知らない。
中古のゲームを買っていざ中身を見てみると、全然知らないマイナーゲームだった時と同じ気持ちになる。あれを許してはいけない。
あとあれだ、通信交換で伝説が来たことに喜んでいたら、後々それが改造版だって知った時もだ。子供ながらに感謝していたことに謝罪してほしい。ゴミみたいなやつだよ本当に。
それと同じぐらい、こんな声、俺のじゃない。いやどいうことだ?
追いつくのが難しい中、素直に困惑しているとゆるやかだった水面が、体全体を大きく揺らすほど上下にぐわんぐわんとしてきた。
声も気になるけど、流石にここまで揺らされてはこっちに意識が持っていかれる。
だんだんと波は激しくなっていく。
ゆったりと上下に動いていた波は、次第に人を食べるぐらいの波になっていく。これじゃあ、並大抵の人ならまともに泳ぐこともできないだろう。
「あぶね!」
強くなっていく波に、負けじと体を上手いこと起こす。なんとか波の上に乗りはしたけど、これも時間の問題かもしれない。こんな時にこそ秘伝技のなみのりを覚えたい。子供のころ消せないこと知らずに、御三家の相棒につけた時はゲームを壊したくなったが、今は喉から手が出てくる。
「クッソ!ちょっとは考えさせろよ…てか、そもそもここどこだよ?」
波に対してもイライラしてくる。
ここが海ってことはわかるが、それ以上のことは何もわからない。わからないというか、考えさしてくれない。
でも、あれだ。
あと一個だけわかるのは、こんな夏じゃなかったこと。
今は、冬だったはずだろ。
あと、そうだ。
俺はさっきまで店員の野郎に追いかけられてて、それで。
それで……。
「あ」
そっか、俺轢かれて。
それで……死んだんじゃ?そうだよ死んだ。
ならなんで生きてんだ?あれは夢?それともこっちが夢?
「「キュアアイイイイイイイイ!!!!!」」
「え?」
すると不意に荒々しい様で波の中から、魚と熊のハーフみたいなバケモンが襲いかかってきた。
正確に言えば、荒々しくなった波に化けて現れてきた。
「あああああ!!!!」
目の前に現れた化け物の口は、小学生の子供ぐらいなら簡単に粉々にできる牙が何本も不規則に生えている。正面からしか見えないが、顔だけでもわかる。
さらに体にはびっしりとした、鎧のような鱗がついてる。
体長はわからないが、顔の大きさは家一個分ぐらいはある。そのくせして目は鋭く小さい。なりより目につくのは、こんな綺麗な海に似合わない赤黒い色。
逃げようとしても遅い。コンマ先にはすでに食われて口の中だ。なんだってここからでも口の奥がよく見えるぐらいだ。
なんなんだよ、もう!!
「あ・・・」
喰われる。
あの牙で全身をぐちゃぐちゃにされる。何が起きてるかもわからないまま、何も考えられないまま、死ぬ。
あ、死ん…。
ガプ。………ガプ……ガプ。ガプリガプリ………。
あれ?
目が水に覆われて、見れてなくて確信はないけど俺は喰われている。
この化け物、食事は海の中でするのがお決まりらしい。エサを口に咥えたまま、水中に潜ったのがわかった。だって、そのエサ俺だし。
下半身はまだ口に飲まれていないが、上半身は間違いなく口の中だ。この化け物は俺を噛み砕いて飲み込むために、何度も何度も力を入れていた。
なのに、まったく痛くない。そもそも、噛まれている感触がない。
力んでるなぁ、ぐらいの感覚だ。
ただ、このままじゃ息が持たない。息が保つのはせいぜい数十秒ぐらい。
だから早く抜け出さないとなんだけど、口をこじ開けようとしても、空いた両手がうまいこと顎にかかってくれない。
理由は明白だ。噛み砕かれることはなくとも、しっかりと体は固定されているからだ。体の向きが逆なら余裕だったんだけど、これじゃあ無理やり出ようと両手で体を押しても、喉に突っ込むだけだ。
けど、後ろに向けた手には、うまいこと力が作用してくれない。地味にめんどくさい限りだ。
なんだってこんな、嫌なことばっかりなんだ。
少し両手で顎を開けようとしたが、やっぱり力が伝わってくれない。もういい。
こんの!!!!
一刻も早く出たい。その思いを膝に乗せ、水の抵抗に逆らいながら力の全てを使ってこいつの牙を殴りかかった。
バキィ!!
お?
案外、こいつの鋭い牙はガラス細工みたく簡単に砕けた。ためしにもう一個殴ってみたけど、またまた簡単に砕けた。
おお?これなら一つ一つ砕いていけば出れるんじゃあない!?
「「キャワワワーーーーーー!!!!!!」」
水に覆われていた足に、水圧がかかってくる。今度は上昇する時にかかる水圧だ。
優雅に泳いでいたはずの化け物は、どうやら歯を攻撃されてご立腹らしい。
バシャン!と化け物は飛ぶように水中に出た。
「くっさ!!!!」
酸素がこいつの口を乾かすもんだから、この口の異臭に気づいてしまった。情報が止まることを知らない。しかも今度は、異臭に思考をさくより先に、空中に吐き出されてしまった。
水中から出て、この間わずか1秒ぐらいだろう。
次から次へと、ジェットコースターみたく状況が変わっていく。
「あぁぁあー!!!!!」
空気の壁を何個も何個も突き破っていく。
俺の身体は、空気抵抗も重力も無視したみたいにどんどん空に上がっていく。
ようやく止まると、ふわっと、胃の中の液が浮かんだ感触があった。
ここからは、自由落下だ。
「ああぁぁあああ!!!!!!!!!!」
ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!
なんなんだよさっきから!!
どれだけ体勢を整えようと抵抗しても、自然と頭が下になって落ちていく。
また死ぬのか?
てか俺は死んだのか!?夢とかじゃなくて本当に!?
いいやああ死んださ!!死んだに決まってる!!
だったら何でまだ生きてて、また死のうとしてんだよ!?意味わかんねぇよ!!!
なんだ?死ぬ時を一生繰り返せって言うのか!?これが、レクイエムってやつか…?
「はっ、はっ」
もうここまで来たら、乾いた笑いしかでない。
このまま俺は落ちて、また死ぬ。今度は死をギリギリまで前にして死ぬ。
死ぬのが決まっているジェットコースターだ。
水ならワンチャンあるかなって思ったけど、なんだよ、小ちゃい島みてーなの真下にあるじゃん。まあ、この高さなら水もコンクリートみたいに高いってどっかで言ってたし、意味はないだろう。
「俺が……何したって言うんだよ……」
なんだって、俺ばっか、俺ばっか!!
「ふざけんな!ふざけんなよ!!!」
お前らが、お前らが、俺を……。
これも、お前らが悪いんだよ!!
「このゴミどもがぁーー!!!!!」
パン!!!綺麗な直線を引くように、頭からそのまま地面に落ちた。そして勢いそのままに、余ったエネルギーが暴走したように頭を起点に体が空中で二回転ほど回った。
俺が突っ込んだ砂浜にはクレーターぐらい大きい穴ができているだろう。
「あ・・・れ?」
なのに、またも痛くないはなかった。




