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白の英雄譚  作者: 東ノ店
第一章 最低で無価値。 転生編
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3/15

誰?

 すると、暗闇の世界で、真空とも思える音だけが耳を包み込んできた。


 ここはどこだ?

 てかなんだっけ?何をしてたんだっけ?


 ついさっきのことを、なぜか思い出せない。


 ポタ。ポタ。ポタ。ポタ。

 

 水の中なのに、沈んでる感覚も浮かんでいる感覚もない。砂のベットで静かに寝ているみたい。


 世界がだんだんと白くなっていく。白色が、水の入ったバケツにインクを垂らしたみたいに広がっていく。白から出たのは、誰かの記憶。


 これは何色なんだ?


 中学の1年、夏が迫っていたある日。

 一人でいる。


 誰かと話すわけでも、話に行くわけでもなく、教室の右端、自分の席で黙々と本のページをめくっていた。


 そして、中学に入学して初めて誰かに話しかけられた。


 話しかけているそいつは、シャー芯が欲しいらしい。


 1人でいる人は、慌ただしくも必死に掴むみたいに筆箱からシャー芯を、何の意味も持たせず手に取った。


 受け取ったそいつは「サンキュー」と、体の向きを元に戻そうとしていた。


「あのさ!・・・休日とかって何してるの?」


 そいつは、またも慌ただしく相手を止めた。止められた相手は、戸惑いの色を少し見せ、普段友達と話す時の声色とは違う、色のない声で答える。


ーー 特になんも。とりま、ありがとう ーー


 お礼を言い、元居た友達の輪に戻っていった。そしたら、1人でいた人は、何だか寂しげになった視線を本に戻し、また同じことを繰り返した。


 次のチャンスが来るのを、期待するだけ。


ーー 何あれ急に、おもろすぎやろ。友達できなさすぐて焦ってますやん ーー


 同じ教室だっていうのに堂々と話していて、無神経にもほどがあった。


 これは、友達と話す時の色だろう。


ーー てか、あいつ誰だっけ? ーー

 

 笑い声が、1人の耳に刺さっていた。


 笑い声なのに、幸せを感じる色はどこにも見られなかった。これは誰かを意味もなく馬鹿にして生まれる、幸せとは真逆の位置にいるものだ。


 ただ、よくある話だ。


 よくあって、みんなそれを乗り越えて、友達ができているんだと思う。誰もが似たような道を通るんだ。


 ただこいつは、その道を歩くのに時間がかかっただけだ。


 悪いのは馬鹿にしている方だけど、問題はどっちにもあるんだと思う。バカにしているほうにも、馬鹿にされているほうにも。話すって難しいから。

 

 あれ?そもそも今話してるのは誰なんだ?


 白い世界が、また暗くなった。


 これは、誰の記憶だったんだ?

 いや、誰のだっけ?


 ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ。


 音さえもない暗闇の世界に、だんだんと空気の音が存在していたことがわかってくる。それに、腕があるのがわかる。足があるのがわかる。


 まだ世界は黒い。

 でも、指の神経がつながっているのがわかる。


 それと、ああそうだ。


 ポタ。ポタ。ポタ。

 ボコボコ。ボコボコ。ボコボコ。


 あれは、俺の記憶だ。

 嫌な記憶だ……。

 

 俺は何も悪くないのに、ああいうゴミに邪魔される。


 あんな学生生活でわかったことは、俺以外の人間は全員ゴミってことと、だから友達なんかいらないってこと。そして、あんなのはただの弱者の群れってことだ。


 死んじまえ。ゴミが、ゴミどもが。俺は悪くないのに、あんな惨めな思いをさせられるなんて間違ってる。俺は……悪くない。


 暗闇の世界だからか、息がしづらい。


 どれだけ酸素を吸おうとしても、吸わしてはくれない。


 なんで、俺ばっかりこんな目に合わないといけないんだ。


 こんな世界は、息もしづらい。今だって、息が上手いことできてない。


 ………息できてないじゃん!!!!!


「バボコバコボボボボボラァラァ!!!!!」


 ここ水の中!?


 塩水の中で開けたような渋い痛みがあって、目を開けているということはわかる。


 ただ、それでも暗闇だった。光がない。


 このままじゃ死ぬ。それを本能は理解したのか、考えるよりも先に体が動いていた。


 生きるために、ひたすら腕を、脚を、手首を動かす。泳ぐのはあんまり得意じゃなかったけど、そんなのは命の危機の前では関係ない。


 上に登るように水をかいていく。でもまだまだ先は長い。かいてもかいても、息を吸えない。


 ていうか俺はなんでこんなことしてんだ?


「バババババボボボボボボ!!!!!」

 

 もうどれだけ腕を掻き回したかはわからないけど、ようやく希望の光が見えてきた。


 水の中だからしっかりとは見えなくて、ぼんやりとしてる。


 あともう少し。あと少し。てか、息が!息が!


 俺は、まだ!


 「ぷっはっ!!!!!」


 顔を出すと、クゥークゥーとした聞き覚えのある鳴き声がした。いや、厳密に言えば映画とかで聞いたことがある鳴き声だ。


 それで、映画でこの声が鳴るのはだいたい海でのシーンだ。 


 日本で量産されている、「夏のひと時、その年だけの初恋❤︎」みたいな映画でよく聞く。


 ああいう映画は素人でもそれっぽい雰囲気を出せて、誰でもある程度は作れるからあんなに多いんだろう。


 恋なんかに逃げず、タイムリープをやるべきだ!


 てか、目をまだ開けれらない。


 息を吸おうとすると、水が勝手に入ってきて上手く呼吸ができない。野生の本能なのか、考えずとも体をくの字気味に曲げて、自然と浮かぶような体制をとる。


 ようやく目を開ければ、空には雲ひとつない一面の青があった。


 この広大さで、ただでさえ遠くなっていた意識が、さらに遠くに行きそうになる。


 良い天気だ。


 波が上下に自分を揺らしてくる。これぐらいの波ってことは、浜辺に近いってことか?なんなんだ?俺はさっきまで道にいたはずだろ?


 何だって急に海の中にいんだ。


「なんなんだよ」


「ん?あれ?」


 誰かいんのか?


「誰かいるのか?」


 ん?あれ?


 いない誰も、いない…。


「誰の声……だ??え?」


 まったく聞き覚えのない、知らない声だ。

 俺の声なわけがない。


 なのに、俺の話すことと一言一句違わない。


 誰だ?

 





 

 


 

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