表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の英雄譚  作者: 東ノ店
第一章 最低で無価値。 転生編
PR
2/15

こんな世界は、生きづらい。

「はぁはぁはぁっっっ」


 埃のような雪が降りそそぐ、そんなゴミ箱みたいな街を全力で駆け回る。


 さっき懐に入れたはずのパンとおにぎりは、走っている最中に落としてしまった。それでも、焼きそばパンだけは握りしめていた。


「待たんかい!お前舐めとんちゃうぞボケ!!」


 何でバレたんだ何で気づいたんだ!!!


 スーパーの店員が俺の命を取るためだけに生きてるみたいに、俺を鬼の形相で追いかけてくる。スーパーで話かけられた時には、すでに嫌な予感がした。だからすぐにでも逃げたのに、ゴキブリみたいにしぶとく追ってくる。


「クッソ!!」


 別にパンの一つや二つ何も変わらないだろ!


 撒くために人混みのある繁華街のストリートに突っ込んでいく。もうそろそろ体力が限界だ。早く撒かないと、このままじゃ捕まる。たぶん警察を呼ばれるだろう。


 ………俺は、何も悪くないのに。


 そうさ、俺は悪くない。


 もうずっと何も食ってないってのに、パンの一つ渡そうとしないあいつが悪い。


 うん、悪いのは心の狭いあいつだ。

 俺じゃない。


 肩をぶつけ、肘を振って人を退かし道を開けていく。繁華街は人を撒くのには最適だけど、その分人が多くて煩わしいし、なにより走りづらい。


 それに、嫌でもゴミ同士がヒソヒソと話しながら、俺を見てくるのがわかる。


 それで隠してるつもりなのか。

 何話してんだ、何見てきてんだ。


 人じゃない何かを見るような蔑んだ目に、身内同士で笑いに変えるような目、それに哀れみの目。どれもこれも無責任な目だ。


 それを向けられた相手がどう思うかなんて気にしてない、無自覚に人を見下す目。


 そのくせ自分は罪もない善人みたいに振る舞いやがる。


 ーー 誰だっけ? ーー


 誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰!


 なんでそんな目を平気で向けてこれんだよ……なんでそんな言葉を平気で言えるんだよ!!


 俺は何もしてなかっただろ!!


「何見てきてんだぶち殺すぞ!!!!」


 周りのゴミたちに対して怒鳴りつけると、ビビって腰が引いていく。すると、さっきまで人で詰まっていた道に、ほんの少しだけ余裕がでてきた。


 これなら、ここまま走って逃げきれる。


 そうだよ、これが正解なんだよ。


「あっっ!!!!!」


 ガン!ズリリリ!!!と、誰かに足を引っ掛けられて、ズボンが擦り減ってしまった。


「いってーな!!」


 こけたのなんか、いつぶりだ。

 痛いし、手も擦り切れてる。


「誰だよ足引っ掛けた奴!ぶっ殺すぞ!!」


 痛みに耐えながら立ち上がろうとする俺を、今度は隠す気もなく見てくる。


 ザワザワとした声と一緒に、ゴミ同士で集まってできた集団で、俺を見てくる。


 そのゴミみたいな目で見てくる。


「ちくしょう……」


 手に持っていた、最後のパンを拾い上げ足を必死に回した。


 何で、俺がこんな目に遭わないといけないんだ。今まで俺を見てこなかったのに、なんでいつもあんな目で見てくるんだ。


 俺が何したっていうんだよ。


「見てくるんじゃねえ殺すぞ!!」


 嫌な記憶、ゴミに言われた言葉をまた言われている気がする。


 何だってこの世界は、こんなゴミだらけなんだ。何で……俺ばっか!


 嫌いでも好きでもないなら、何も言ってこないでくれよ。ちょっとは、相手のこと考えろよ。


 どんなに見るなって言っても、俺をあの目で見てくる。いつだってお前らは、他人のことなんて気にしてない。


 俺は悪くないのに、数の暴力で無理やり悪にしてくる。俺に問題を押し付けてくる。


「あは、、あははははははははは!!!!!!!」


 こんな世界間違っている。


「終わりだー!!お前ら全員終わりだー!!!!あはははははははははははははははははははははは!!死ね!」


 走っていると、自然と笑いが込み上げてきた。


 これは絶望したとか、ヤケクソになっているわけでもない。


 こんな世界に対しての、呆れた笑いだ。

 こんなゴミみたいな世界は、生きづらい。


 生きづらいよ。


 ずっとゴミたちが俺に言ってきた言葉が脳裏に浮かんでくる。ベトベトしていて、何回洗っても落ちてくれない。

 

 俺のことを、こんな目で見る奴は全員ゴミだ。平気であんな目を向ける奴は、ゴミ以外の何でもない。


「ゴミなんだよお前らは!あははははは!!!!」


 あいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつもあいつも、全員盛れなくゴミだ。


 すると、ガバ!と腕を強く掴まれた。


 勢いが有り余ったせいで肩が外れそうになった。

 ただ、痛くはなかった。


 掴んだ腕の持ち主は、俺を追いかけ回していたゴミだった。とうとう捕まえたぞ、なんてまたまた馬鹿なことを言っている。


「ふっ。あはははははは」


「何笑ってるんだ!いいからこい!!」


「………邪魔なんだよ!!」


 バギィ!!と俺は殺すつもりでこいつの顎目掛けて全力で拳を振り上げた。こいつも不意打ちだったのか、そのままグラッとして地面に倒れていった。


 じんわりとした感触が俺の拳に残っている。何度握りしめても、その感触は消えない。


「あはあははは!!」


 人を殴ったことなんてなかったけどさ、なんだよこれ最高じゃんか!!


 起き上がろうとするこいつを、殺すつもりでもう一回殴った。さらに一発もう一発と。


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!


「おいさっきみたいに何か言えよ!なあ!?」


 最後に、こいつの頭をサッカーボールみたいに蹴り上げた。すると。とうとう意識を失ってしまった。


「あははは!!お前弱いじぁゃんマジかよ……だったら調子乗ってんじゃねえよ!!」


 そっか、最初からこうすれば良かったんだよ。なんだって今までしてこなかったんだろ?


 そうだよ、ゴミには何してもいいじゃんか。


 まだまだ殴りたい。でも幸運なことに、俺の四方八方にはゴミがウジャウジャといる。


「おいお前らもか?なあ?さっきから見てきてなあ?なあ?なあ?なあ?なあ?なあ?なあ?なあ?」


 ただ、やり返してるだけだから俺は何も悪くない。


 自分は部外者だと思って、好き勝手言ってくるお前らみたいなゴミは、いなくなっても困らない。

 

 「なぁって!!」


 悲鳴と焦りの色と共に、道が徐に開いていく。


 どいつもこいつも、数に紛れて自分には何も飛んでこないと思ってるから、あんなことが平気でできる。


 今度は恐怖の色に染まった目で、俺を見てくる。

 

「あはは、あは……は」


 それで、いざやり返されたらこれだ。

 しょうもな。


 くだらなすぎて、笑いも止まる。

 なんて世界だ。


 こんな世界があるのか?本当にあっていいのか?


 殴って気持ちいいさ。最高の気分だ。けど、なんでまだそんな目を向けてくるんだ。


 なんで俺が悪いみたいになるんだ。俺はただやり返しただけだろ。


 俺は………悪くないさ。

 ずっと前から、俺には問題なんてない。


 ないよ。


「………とりあえず行くか」


 殴った際に地べたに落ちていた、最後の焼きそばパンを手に取り、下を向いて全力疾走で駆け抜けた。


 あんな目、もう見たくない。こんな世界見たくない。


「くっそ!!」


 すると、キラキラとした光が横から見えた。これは、俺にとっての希望の光なのだろうか。


 こんな世界は生きづらい。だけど、俺にもようやく、光が来たのかもしれない。


「え……?」


 ドン!とその光は無情にもトラックに変化して、俺を何メートルも先に吹き飛ばした。


 俺は、いつのまにか道路に出ていたらしい。

 酷い話だ。


 さらに酷いことに、俺は即死じゃなかった。


「ぁぁぁ、ぃたい。ぃたいっ」


 走馬灯が雨になって、ポタポタと空から落ちてくる。おかしい、さっきまでは雪だったのに。傘なんてあるはずもなく、嫌でも最悪な記憶がまた蘇ってくる。


 ただでさえ毎日見てるのに、こんな時にも見せられる。


 やっぱおかしい。こんなのおかしいよ。


「なん………で?」


 全身の感覚はないけど、這いつくばりながら動いた。理由はない。ただ、目の前に落ちてあるパンが目に入っただけだ。


 もう腹が減ってしかたない。何日もわからないぐらい、何も食ってない。


「ぁ、ぁぁ。、」


 誰の腕かもうわからないヨレヨレの腕が伸びてきて、ぐちゃぐちゃになったパンを取った。


 おかしい。もっと食べるのは簡単だったはずなのに、最近はなんだか難しい。


 下に敷かれたコンクリートの地面は、冷たくて赤黒い。それに、さっきまで耳を占領してきていた、ざわめきはもう聞こえてこない。それどころか、何も聞こえない。


 自分の体は、もう自分のものではないみたい。


 目の前に映る、芯を抜かれた手は真っ黒に染まっている。

 手だけじゃない、それを繋ぐ腕だって、もう。


 この手は、俺の手。


 嫌だ……こんな手じゃ、絵も描けない…。なんで、俺が死なないといけない…。


 こんな世界は生きづらい。生きづらいよ。


「ぁぁぁ、はぁあ………」


 俺…………なんで?…………………………


 プツン、と何かが切れた気がした。




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ